日産セレナe-POWER AUTECHスポーツスペック(FF)
湘南の海と スポーツと 2024.10.28 試乗記 ミニバンでもスポーティーなイメージを掲げるものは多いが、「日産セレナe-POWER AUTECHスポーツスペック」は力の入れ方が違う。内外装だけでなく、シャシーやパワートレインも専用仕立てなのだ。日産のテストコースで自慢のダッシュ力を味わってみた。上質さと爽快感のニューモデル
記憶力のいい読者は、すでに「セレナe-POWER AUTECH」の試乗記(参照)が掲載されていたではないか、と指摘するかもしれない。確かに見た目はほとんど変わらないが、今回はセレナe-POWER AUTECHスポーツスペックである。
狙いは「ストレスのない扱いやすい加速フィール」と「走行シーンに適応したハンドリング、乗り心地」だという。ひとことで表現すると「プレミアムスポーティー」だ。もともと日産にはAUTECHとNISMOという2つのカスタマイズ部門があり、2022年に日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)のもとに統合された。モータースポーツをルーツに持つNISMOが走りに特化しているのに対し、AUTECHは「上質さと爽快感」を掲げている。
NISMOのイメージカラーは赤で、AUTECHは青。とても分かりやすい。赤はスポーツモデルに使われる定番の色で、一般に広く認知されている。青は特にスポーツのイメージはないが、かつてボルボが「R」の名をつけたハイパフォーマンスシリーズにメタリックブルーのメーターパネルを採用してスペシャル感を演出していた。今ではやめてしまっているから、青でスポーツをアピールするのは難しかったのだろう。
AUTECHは高級感や上質さが持ち味なので、青をうまく使ってブランドイメージを確立することができるはずだ。青は湘南の海という意味合いも持つ。AUTECHは神奈川県の茅ヶ崎で誕生し、今も拠点を置いている。サザンオールスターズや加山雄三というスターを生み出した地でもあり、全国的に高い知名度がある。オシャレ感もあり、利用しない手はない。
セレナ唯一の17インチホイール
外装色が「AUTECHブルー」なのはともかく、内装のAUTECH要素は控えめだ。ダッシュボードに小さな「AUTECH」バッジがあり、ステアリングホイールにはブルーステッチがあしらわれている。レザレットを用いた専用フロントシートにも「AUTECH」ロゴがステッチされ、座面と背もたれの凹凸は湘南の海の漣(さざなみ)がモチーフだという。ブルーを使いすぎるとカジュアルになり、高級感が損なわれるという判断なのだそうだ。
内外装についてはセレナe-POWER AUTECHと同じであり、肝心なのは走りがどう変わったかだ。シャシーに関しては、前後のスプリングとショックアブソーバー、電動パワーステアリングが専用になっている。外観の迫力アップにも貢献しているのが、17インチホイールだ。セレナとしては唯一の採用である。
試乗会場は日産の追浜工場に併設されたテストコースのグランドライブ。公道と同じような道路状況を再現した周回コースだ。滑らかな道ばかりではなく、段差や荒れた路面も配置されている。モーターによるe-POWERの発進は静かで、エンジンがかかっても60km/hぐらいまでは車内には静かさが保たれる。ダッシュロアインシュレーターの追加とフロントのサイドガラスの板厚のアップがノイズ対策だ。
フロントクロスバーの追加とリアクロスバーの剛性アップ、さらにはリアにヤマハの「パフォーマンスダンパー」を装備し、ボディー剛性の向上を企図している。安定性を高める狙いだが、どうしても乗り味は硬くなる。ガチガチで不快というほどではないにしても、ファミリーカーとしては少々ハードな印象だ。
パワートレインに手を入れたといっても、エンジンやモーターの出力はそのままだ。ビークルコントロールモジュール(VCM)の特性を変更し、加速フィールを変えている。ドライブモードが「エコ」「スタンダード」「スポーツ」の3種類なのは同じ。エコモードに変更はなく、スタンダードは力強さと伸びを強化、スポーツは力強さと伸びをさらに強化してレスポンスも向上させている。スタンダードでレスポンスを変えなかったのは、扱いやすさを重視したからだそうだ。
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意外に小さい価格差
コースでは長めのストレートの100km/hが最高速度。フル加速を試みた。スポーツモードを選ぶと、エコやスタンダードとははっきり異なる力強さを見せた。確かにレスポンスがよくて即座に加速が始まり、余裕が感じられる。日常の運転では、中間加速の自然な伸びが重要なのだ。
アップダウンのあるタイトなコーナーも用意されていた。極小のワインディングロードという趣で、安定性を試すパートだ。多少オーバースピードで進入しても、安心感は保たれていた。サスペンションの強化でロールを抑え、接地感を増しているという。コーナーが連続する場面では、スポーツで「e-Pedal」モードをオンにすると気持ちよく走れた。減速感は強めで、(ほぼ)ワンペダルドライブの利点を活用できる。
後席からは、少しばかりクレームもあった。キャプテンシートは快適だが、やはり硬さが気になるというのだ。ミニバンは2列目、3列目のおもてなしが重要だが、AUTECHのチューニングはどちらかというとドライバー優先になっていると感じた。スポーツスペックの名を持つのだから、明確なスポーティーさが必要とされるのは当然である。
ベースモデルに比べて、価格は18万7000円高い。思ったより差が小さい。オプションを含めるとセレナの最上級グレード「ルキシオン」を超えてしまうものの、AUTECHらしい走りに価値を置くならお買い得ということになるだろう。セレナには幅広いバリエーションがあり、ユーザーの価値観に応じた選択肢がある。
セレナe-POWER AUTECHスポーツスペックはスポーティーとプレミアムという2つの魅力を兼ね備えているわけだが、開発陣としては悔しい思いもあるようだ。2024年1月の東京オートサロンに出展されたコンセプトモデルは、18インチホイールを装着していた。トライはしたものの、そのままでは静粛性と乗り心地の点で目標値をクリアできなかったという。先代に存在した「セレナNISMO」でも17インチだったから、AUTECHで18インチを採用するのはさすがにハードルが高かった。
2ブランドを持つアドバンテージ
国産でも輸入車でも、2つのスポーツ部門を持つメーカーは日産のほかには見当たらない。2ブランドを展開するのは大変そうだが、アドバンテージでもあるはずだ。NISMOはスポーツに全振りしておいて、AUTECHには異なる価値観を持たせることができる。自由度が高いのだ。イチからつくるのは簡単ではないが、スポーティーとプレミアムというテイストをどんな配分にするかが腕の見せどころである。
AUTECHは湘南という付加価値を世の中に浸透させたいようだ。資料を見ると、デザインのモチーフについて詳細な説明がある。クロームドット加飾は「海面のエレガントなきらめき」、メタル調フィニッシュパーツは「波打ち際に光る白波の勢いと美しさ」といった具合だが、納得する人は多くないだろう。AUTECH=湘南という図式を広めるには、緻密で持続的な戦略が必要である。
例えば、ボディーカラーについては再考したほうがいいかもしれない。先ほど「外装色がAUTECHブルー」と書いたが、実はそんな名前は存在しないのだ。セレナの場合、正式名称は「カスピアンブルー」である。カスピ海の青ということだ。ロシアやアゼルバイジャンなどの沿岸諸国は海だと言い張っているが、カスピ海は閉鎖性水域だから湖である。海ですらないし、どうしたってキャビアとヨーグルトを想起してしまう。
試乗に先立って行われた技術説明会で、このモデルの特徴として挙げられる“ミニバンでしか味わえない爽快感”について具体的な説明があった。西湘バイパスを走っていると、視点の高いセレナの車窓から大磯の港が見えるというのだ。港を見たいかはさておき、西湘バイパスの下りでは湘南の海を眺めながら走ることができる。その際に特等席となるのは2列目の左側だ。家族がこの席を奪い合うようになるまで、AUTECH=湘南と言い続けることが大切である。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産セレナe-POWER AUTECHスポーツスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1725×1865mm
ホイールベース:2870mm
車重:1820kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
タイヤ:(前)215/55ZR17 98Y XL/(後)215/55ZR17 98Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ5)
燃費:--km/リッター
価格:438万6800円/テスト車=501万7340円
オプション装備:特別塗装色<カスピアンブルー×ダイヤモンドブラック>(8万2500円)/ヘッドランプオートレベライザー+アダプティブLEDヘッドライトシステム+アドバンスドドライブアシストディスプレイ(12.3インチカラーディスプレイ)+統合型インターフェイスディスプレイ+ワイヤレス充電器+NissanConnectナビゲーションシステム(地デジ内蔵)+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット(ビルトインタイプ)+ドライブレコーダー(前後セット)+プロパイロット(ナビリンク機能付き)+プロパイロット緊急停止支援システム(SOSコール機能付き)+SOSコール+プロパイロットパーキング(45万4300円) ※以下、販売店オプション 専用フロアカーペット(7万0340円)/専用ラゲッジカーペット(2万3400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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