アルピーヌA290 GTS(FWD)
新しいフレンチタッチ 2024.11.26 試乗記 「アルピーヌA290」をスペインでドライブ。中身は前輪駆動の電気自動車(BEV)でありながら、その乗り味には現行の「A110」をはじめとした歴代モデルが紡いできた味わいが確かに感じられる。電動化時代のアルピーヌの行く末が楽しみになる意欲作だ。次世代ラインナップの端緒
2024年の秋口、スペインのマヨルカ島でアルピーヌA290に試乗してきた。じつをいってこれほど事前に緊張したというか、うっすらストレスすら感じて向かった試乗の機会もなかった。6月に発表会で実車に相まみえていたとはいえ、アルピーヌというフランスの歴史的コンストラクターがいよいよ本気で仕上げてきたBEVの市販バージョンに、多大な期待を抱く一方で一抹の不安を感じないでもなかったからだ。
ご存じのとおり、1955年にジャン・レデレが「ルノー4CV」をベースにしたスポーツカーで創業したアルピーヌは、1970年代初頭に当時のルノー公団にゴルディーニとともに吸収合併され、ルノー・スポールの礎を築いた後、2017年にミドシップで「A110」を復活(日本市場投入は2018年)。単一車種コンストラクターながらここ数年のルノーの再構築ストラテジーのなかで、グループにおけるプレミアムブランドのポジションを担うまでになり、「ドリームガレージコンセプト」の下に3台のBEVを次世代ラインナップの中核とする計画を打ち出した。その端緒となるモデルが、今回のA290なのだ。
現地に到着した初日、早々に小一時間ばかり試乗するスケジュールだった。努めて冷静を装いつつ割り当てられた車両にいそいそと乗り込み、内装の感触を確かめながら公道へ繰り出した。最初の数kmで、長旅の疲れとストレスが一気に瓦解(がかい)するほど、ひとりでに口元から笑みが漏れてきた。BEVか内燃機関かという区分けすら不要と思わせるほどに、A290は確かにアルピーヌだったのだ。
ルノー版よりもワイド&ショート
どういうことか。まずA290の外観は往年の「ルノー・サンク」しかも「R5アルピーヌ」の本歌取りだが、同じくサンクを手本とする「ルノー5 E-Tech」よりワイドでスポーティー。画像では少しカリカチュアライズされて見えるかもしれないが、「電動化時代のホットハッチ」として納得できるルックスだし、ブルーやブラック、グレーのボディーカラーが大人仕様のシックさで、子どもっぽい雰囲気はない。
そもそも開発陣が「スケートボードプラットフォーム」と呼ぶA290の全幅は1823mmと、1774mmの5 E-Techの「AmpRスモールプラットフォーム」を基にかなり拡大されつつ、ミラートゥミラーの2020mmは一緒。それでいてホイールベースは10mmだけ短い2534mmとなる。つまりワイドトレッド化で重心を下げつつ、ショートホイールベース化でよりアジャイルなハンドリングを志向し、パワートレインまわりのコンポーネントは日本未導入の「メガーヌE-Tech」などから引き継いでいる。本国ではスペック違いで2種類あって、最大トルク/最高出力が160kW(218PS)/300N・m仕様と130kW(177PS)/285N・m仕様のうち、今回試乗したのは前者、内装も充実した「A290 GTS」だった。
まずドライバーズシートに体を落ち着けると、3スポークステアリングの向こうに見える四角いインストゥルメントパネル、シフトコンソールやL字型にえぐれたダッシュボードまでの距離感や視界の雰囲気が、不思議とR5や「シュペールサンク」に通じるものがあって驚いた。もちろん1980年代のプラスチック内装と、ナッパレザーが張られたネイビーとオフホワイトの高品位なツートン内装には、時空以上の隔たりがあるが、昔のサンクを知る人なら「ホーム感」に通じるものがある。そして現代のA110を知る人にはおなじみの、ボタン式シフトもある。少し前方に寝かされたステアリングとアップライト気味の着座位置、そしてクッションの厚さと的確なホールド感は、いつものルノーそしてルノー・スポール、そして今やアルピーヌとして連綿と受け継がれたものだ。
アルピーヌらしい豊かな対話性
ちなみに2024年は、「ボルボEX30」に「シトロエンe-C3」など、内装レベルの高いBセグメントBEVの当たり年だった。プレミアムを掲げるアルピーヌA290 GTSをBセグにカテゴライズするのも何だが、このなかでは質感も仕上げもテイストの点でも、頭一つ以上抜けている。ドライバーズシートに腰を落ち着けただけで満足感が湧いてくる。そういうレベルのインテリアだ。ドリンクホルダーがないぶん、キャップ付きの容器をドアポケットに収めるか、カフェに寄るしかない点も、今のフレンチタッチを貫いている。自販機やコンビニのコーヒーを車内に持ち込むぐらいなら、マイボトルを携帯するほうがエコだし、あるいはコーヒーブレイクを挟むほうが、豊かな時間を過ごせるというものだ。
さて走りの部分だが、現代のA110に通じる走り味を目指したという開発陣の説明に、乗るまでは疑問を感じていた。そもそもMRとFWDでは感覚がまるで異なるはずだ、と。ところが57:43というFWDらしからぬ前後重量配分と、ホイールベース内に重量物を集めた低重心設計のなせる業だろうか、積極的な荷重移動から生まれる弾むような動的質感に、「メガーヌR.S.」よりもA110に近いものを感じてしまった。フロントにダンパーインダンパー、そしてリアにマルチリンクをおごったサスペンションだが、実はハッチバックながらサイドシルはSUVのように高く、そもそものボディー剛性が恐ろしく高い。そのため乗り込むにはややまたぐような動作が必要になるが、ミシュランと2年以上かけて開発されたという専用タイヤの「パイロットスポーツS 5」とも相まって、コーナリング時の姿勢変化が素晴らしく、豊かなインフォメーションに満ちている。この濃密な対話性が、確かにアルピーヌらしさだ。
このドライビングプレジャーには、もうふたつほど理由がある。ひとつは電気モーターのリニアなトルク&パワーの出方。アクセルペダルを踏み込んでドンと出さないことに意義がありそうな、息の長い加速の伸びが心地よい。それが無味乾燥にならないのはもうひとつの要素、実はA290というBEVの核心ともいえる車載オーディオと電気モーターが連動した独自のサウンドシステムによる。
BEVだからこその新しいドライビング体験
これはフランスのハイエンドオーディオメーカーDEVIALET(ドゥヴィアレ)と開発され、エンジンの疑似エキゾーストノートをかぶせるのではなく、実際のモーター駆動音をピックアップして電気的信号に変え、プロセッシングを経て車内のスピーカーで「モーターそのもののうなり」を再生する。ジェット機のタービンか、もともとのアルピーヌの野性的なエキゾーストを交えたような音色だが、ほとんどエレキギターのような仕組みといえる。なぜこれが備わるかといえば、BEVという高周波音の強い音場を逆手にとって、ともすれば耳障りになるモーター音を車内環境、つまりドライビング操作に連動した、動的な音場づくりに活用しているのだ。もっといえば、静けさに見合わない強烈な加速感ばかりで語られることの多かった、従来的なエレクトリックドライビング経験に、アナログ的なビート感を添えているのだ。
このモーターハミングはオーディオの再生中にも、ちょうどいいミックス具合で聞こえてくる。でも車外に向かっては発しない。しかもドゥヴィアレのオーディオシステムが、車載オーディオとしては前例がないほど、音離れがよくリッチなサウンドを鳴らしてくれる。スポーツドライビングに音楽は要らない、という原理主義者の意見もあるだろうが、ロードカーである以上常にファンな道を走るわけではないので、実に巧みなつくり込みといえる。
BEVだから可能になったことを、かくしてA290は明確に磨き上げた。若い商品開発チームだとは感じていたが、ビークルダイナミクスを含めたセッティングをまとめるエンジニアやテストドライバーの経験豊かさとも相まって、A290はアルピーヌの見事な世代交代ショーといえる一台に仕上がっている。バッテリー容量は52kWhでWLTPモードの航続レンジは364-380kmと短めで、日本導入はCHAdeMO対応もあって2026年の予定だが、BEVであることすら忘れさせる、そんなBEVであることは確かだ。
(文=南陽一浩/写真=ルノーグループ/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
アルピーヌA290 GTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3997×1823×1512mm
ホイールベース:2534mm
車重:1479kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:218PS(160kW)
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
タイヤ:(前)225/40R19 93Y XL/(後)225/40R19 93Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
一充電走行距離:364km(WLTPモード)
交流電力量消費率:12.6kWh/100km(126Wh/km、WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

南陽 一浩
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社を経てフリーライターに。2001年に渡仏して現地で地理学関連の修士号を取得、パリを拠点に自動車や時計、男性ファッションや旅関連を取材する。日仏の男性誌や専門誌へ寄稿した後、2014年に帰国。東京を拠点とする今も、雑誌やウェブで試乗記やコラム、紀行文等を書いている。
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