ホンダN-BOXジョイ(FF/CVT)/スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ(FF/CVT)
安寧を乱す大型ルーキー 2024.12.02 試乗記 クロスオーバー風軽スーパーハイトワゴン市場にホンダが「N-BOXジョイ」で参戦。これに合わせて(?)スズキはジャンルを確立した「スペーシア ギア」をモデルチェンジし、事態は一気にヒートアップ! 2台を同時に連れ出して特性の違いをチェックした。土俵際だった東の横綱
2022年10月発売の「ダイハツ・タント ファンクロス」、2023年1月に受注をスタートした「三菱デリカミニ」に続いて、N-BOXジョイが2024年9月に発売となった。これで“軽自動車(以下、軽)スーパーハイトワゴンのクロスオーバー風モデル”が、ついに軽4メーカー全社(ブランドとしては日産が未参入だが)で出そろった。その先べんをつけたのは、先代スズキ・スペーシアに用意されたギアだ。
ギアが誕生した背景を理解するには、それまでのスズキの軽スーパーハイトが置かれていた状況を理解する必要がある。スズキは軽スーパーハイトの始祖ともいえる「ダイハツ・タント」が2代目に移行するのとほぼ同時に「パレット」を発売。これによって軽スーパーハイトはひとつのジャンル=市場として確立する。そして2011年12月に初代「N-BOX」が登場すると、同市場は爆発的に拡大していくことになる。
スズキはそんななか、ダイハツの新型投入より半年早い2013年2月にはパレットあらためスペーシアを発売するも、その販売台数はN-BOXとタントという2強に大きく水をあけられたままだった。それは「東の軽の横綱」を自認するスズキには、どうにも許しがたい事態だった。
そんな背水の陣の思いで開発されて、2017年12月に登場した2代目=先代スペーシアは、それまでのちょっとスカしたデザインから一転、スーツケースをモチーフとした四角四面スタイルを基本としつつ、「カスタム」にはクラス最大のクローム面積(?)のギラギラグリルを採用するなど、ド直球デザインで登場した。追い込まれていたスズキはそれでも飽き足らず、標準とカスタムに加えて、もうひとつのバリエーションを考案する。それがクロスオーバーSUVデザインのギアだった。
結果的に先代スペーシアはN-BOXに肉薄する人気商品となり、そのN-BOX、そしてタントとともに、軽スーパーハイト3強を形成するようになったわけだ。
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ホンダとしての新ジャンル
2018年12月に発売された先代スペーシア ギアは、最終的にスペーシア全体のちょうど3分の1を占める定番バリエーションとしての地位を確立する。しかし、その最初のフォロワー=タント ファンクロスですら、ほぼ4年遅れの参入となったことからも分かるように、スペーシア ギアの成功は、他社にとって完全な想定外だったのだろう。
いずれにしても、スペーシア ギアの誕生から約6年、元祖たるギアが2代目に移行するのと同時期に、同市場にほぼ最後発として参入するのがホンダだ。しかも、「他社のマネなんて絶対しません!!」とばかりに、真正面からのSUV風である「クロスター」ではなく、ジョイという新ジャンルで攻めてくるあたりが、いかにもホンダらしいところだ。
そんなN-BOXジョイは、“標準系とカスタム系に続く、アウトドアを想起させる3番目のバリエーション”という意味では、スペーシア ギアその他と競合するものの、そのデザインはいわゆるSUV的なお約束を踏襲しない。スチール+センターキャップというホイールは(SUVならではの大径ホイールとは逆に)実寸より小径に見えるクラシカルなデザインである。前後バンパーやサイドプロテクターは質実剛健なツヤ消しブラック仕立てとなっており、SUVらしさの象徴であるアンダーガード風のデザイン処理は施されない。それはSUVというより、商用バン的、あるいはピックアップトラックの風情だ。
タータンチェックが目を引くジョイのインテリアは、このタータンチェック柄ベージュとグレー合皮のコンビシートが全車標準である。そして、リアのシートバック裏とラゲッジボードにも、同じタータンチェックのはっ水ファブリックを張り込むことで、従来の荷室を“アウトドアでゆったり過ごせる部屋”に見立てたのがジョイの新しさだ。
“ギアありき”で開発された新型スペーシア
いっぽう、2代目となったスペーシア ギアは、先代と同じくベースのスペーシアの約1年遅れで追加となった。先代がヒット作だっただけに、デザイン手法も先代をほぼ踏襲する。外観では丸型のヘッドライトにアンダーガードを模したSUV風のバンパーデザイン、粗いメッシュバンパーグリル、ルーフレール、サイドプロテクターなどを採用。内装ではオレンジのアクセントが先代から受け継いでいる。
ただ、先代はスペーシアそのものの開発途中で、新たに追加された企画だった。対して、今回のスペーシアは最初から“ギアありき”で設計・開発されていることもあり、デザイン的にはこなれている感が強い。たとえば、X字を描くフロントバンパーはサイドフェンダーと一体化した意匠だし、センターグリルも「ジムニー」を思わせる縦スロットとなった。さらにサイドプロテクターにはインテリアのオレンジをリフレインしたバッジもつく。さらに空力は先代のギアより進化している。
インテリアもデザイン的なアクセント以外は、良くも悪くもベースモデルそのままなのはジョイとよく似る。ダッシュボードのメイン部分がカーキグリーンとなり、シートバックポケットがネット式、そしてシートのステッチとエアコン吹き出し口のダイヤルがオレンジになるのが識別点だ。と同時にシートに専用タグがつくなど隠しアイテム的なディテールが用意されるあたりには、デザインのこなれ感とともに、成功作の2代目ゆえの、ちょっとしたコストの余裕がうかがえる。
ギアの荷室もジョイ同様に専用だが、あくまで荷物を積むための空間に徹する。典型的なレジャー用途を想定して、ビニール製のシートバック+樹脂フロアという防水対策が施される。
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際立つスズキの割安感
ギアにしてもジョイにしても、標準系とカスタム系に続く第3のバリエーションとしてアウトドアテイストを加味しているが、走りや使い勝手に特別な機能が与えられているわけではない。意地悪くいえば、ギアの樹脂フロア、ジョイのはっ水ファブリック……という荷室の表面以外は、どちらもコスプレの域を出ない。
最初にスペーシア ギアが出たときに、他社がしばらく放置した(と、その後のフォロワーのデビュー時期から想像できる)のは、そのギアを見て「しょせんコスプレ、恐るるに足らず」とナメてしまったせいなのだろう。
しかし、ふたを開けてみれば、ギアは完全な定番商品の座を確保して、スペーシアの軽スーパーハイト3強入りの原動力となった。その人気を見て、タント ファンクロス、デリカミニ、N-BOXジョイといった企画をあわててスタートさせたものの、スズキにほぼ1世代分の先行者利益を許してしまった……というのが現在の状況といっていい。
今回連れ出した試乗車は、ともに2トーンカラー、最新カメラシステム、ナビ、シートバックテーブル、ドラレコ、フロアマット……といった昨今の必須装備はほぼ横ならびで、スペーシア ギアは合計240万円弱、N-BOXジョイが同244万円強となる。額面的には同等ながら、ギアはターボ、ジョイは自然吸気エンジンである。ジョイを同等装備のままターボ化すると、合計260万円以上になってしまうのだ。
しかもギアはこの状態でアルミホイールやヘッドアップディスプレイまで標準なのだから、少なくともカタログ上では、ギアの割安感が光る。スペーシアは現行型でも1カ月だけの瞬間風速ながらN-BOXの登録台数を抜くなど、先代からの高い人気を維持している。その背景にはデザインやギアの存在だけでなく、充実した装備と、そのわりに低価格なコスパも大きな後押しになっていると思われる。
(後編に続く)
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業、スズキ)
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テスト車のデータ
ホンダN-BOXジョイ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:21.3km/リッター(WLTCモード)
価格:192万7200円/テスト車=244万3200円
オプション装備:コンビニフック付きシートバックテーブル<運転席&助手席>(6万6600円)/マルチビューカメラシステム(7万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマットカーペット(2万9700円)/N-BOX専用9インチナビ(24万8600円)/ナビ取り付けアタッチメント(5500円)/ナビパネルキット(5500円)/ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC取り付けアタッチメント(9900円)/ドライブレコーダー<前後2カメラ>(5万7200円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:309km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:303.4km
使用燃料:18.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.1km/リッター(満タン法)/16.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1800mm
ホイールベース:2460mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:21.9km/リッター(WLTCモード)
価格:203万7200円/テスト車=239万0740円
オプション装備:ボディーカラー<クールカーキパールメタリック ツートンルーフ>(6万0500円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(19万5800円)/ ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン ファイングリッド>(2万7060円)/ETC車載器(2万2440円)/ドライブレコーダー(4万7740円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:869km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:380.1km
使用燃料:26.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.2km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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