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ホンダ・フィットe:HEVホーム ブラックスタイル(FF)

ホンダイズムに期待 2024.12.04 試乗記 渡辺 敏史 デビュー当初からよく話題にされていることだが、「ホンダ・フィット」の販売台数が伸び悩んでいる。スペックや装備でライバルにそれほど劣っているとは思えないのだが、とにかく期待に応えられていないのが現状だ。最新モデルに乗ってその理由を考えた。
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悲喜こもごもの販売データ

直近半期となる2024年4~9月期の販売台数データ(自販連調べ)を見ると、いろいろと気づかされることがある。

まずは「シエンタ」の健闘だ。順位は3位で、2位の「ヤリス」と1位の「カローラ」に対して1万台以上の差があるものの、それらは「クロス」やら「ツーリング」やらと束になっての数字であり、ピンで売れている台数としてはおそらく日本で一番ということになるだろう。

そこにガチで対抗するのが「フリード」で、順位は6位。販売台数は4万台強でシエンタとは1万8000台程度の差がある。ただし、フリードは6月にフルモデルチェンジを受けており、この間に着陸と離陸を繰り返したことになる。本当の実力が知れるのは2025年以降だろうが、販売網の規模等に鑑みれば十分に健闘しているといえるだろう。

この状況は昨日今日の話ではないがゆえ、日産がここにひと駒打てていないことが彼らの商機の逸失につながっているのは間違いない。その日産は4位に「ノート」、7位に「セレナ」と少ない手駒と小さいもうけで頑張ってはいる。が、台数的にはその下がどうにもならない。3000万円級の「GT-R NISMO」が争奪戦となる一方で、「エルグランド」は放置、「エクストレイル」は存在感が希薄と、ポートフォリオはグダグダで、稼げるクルマがいないのもまた日産の国内販売の大きな課題だ。

今回の試乗車は「ホンダ・フィットe:HEVホーム」の特別仕様車「ブラックスタイル」。2024年8月に仕様変更を受けた最新モデルだ(発売は9月5日)。
今回の試乗車は「ホンダ・フィットe:HEVホーム」の特別仕様車「ブラックスタイル」。2024年8月に仕様変更を受けた最新モデルだ(発売は9月5日)。拡大
現行型=4代目「フィット」は2020年2月の発売で、当初の月販目標は1万台とされていた。通年の販売台数は2020年から順に9万8120台、5万8780台、6万0271台、5万7033台と推移している。
現行型=4代目「フィット」は2020年2月の発売で、当初の月販目標は1万台とされていた。通年の販売台数は2020年から順に9万8120台、5万8780台、6万0271台、5万7033台と推移している。拡大
現行型「フィット」の開発テーマは「心地よさ」。燃費をはじめとした性能の追求はほどほどに「心地よい視界」「座り心地」「乗り心地」「使い心地」を提供価値として掲げていた。
現行型「フィット」の開発テーマは「心地よさ」。燃費をはじめとした性能の追求はほどほどに「心地よい視界」「座り心地」「乗り心地」「使い心地」を提供価値として掲げていた。拡大
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売れない理由が分からない

ここで話をホンダに移すと、9位には「ヴェゼル」、14位にはフィットが入っている。双方合わせての台数は束モノのヤリスより5000台近く少ないということだが、トヨタが認証不正の問題で「ヤリス クロス」を3カ月ほど生産停止していたことを差し引けば、もう少し頑張りたいところではある。

特に悩みの種となっているのがフィットだ。上を見ればヴェゼル、下を見れば「N-BOX」に挟まれる価格的位置づけもあってか、かつてカローラをも脅かした国民車の勢いはない。そこをN-BOXがカバーしているという側面もあれば、同じアーキテクチャーで高いほうのヴェゼルが売れてるなら御の字じゃないかという見方もできるが、ミニマムな資源や環境負荷でマキシマムな結果を導くというクルマづくりの趣旨に照らせば、ど真ん中にいるこのクルマの販売が芳しくないというのは放置できない話だ。

モデルライフも折り返しを過ぎた今、果たして何がフィットの足を引っ張っているのか。近ごろ、帰省が増えてレンタカーを借りる機会が多くなったこともあって、時折あてがわれるフィットを、同じく以前にあてがわれたノートやヤリスのことを思い出しながらしみじみ乗ってみるのだが、自分的にはその足りないものを見つけることができない。というか、その3銘柄を比べたならば、総合力ではフィットが一番ではないかとさえ思う。

「ブラックスタイル」はブラックのアクセントパーツで上質感を磨き上げたという特別仕様車だ。フロントまわりではグリルとロアスカートがブラック仕上げとなる。
「ブラックスタイル」はブラックのアクセントパーツで上質感を磨き上げたという特別仕様車だ。フロントまわりではグリルとロアスカートがブラック仕上げとなる。拡大
リアは左右のコンビランプ間のプレートとテールゲートスポイラーがブラック仕上げとなる。
リアは左右のコンビランプ間のプレートとテールゲートスポイラーがブラック仕上げとなる。拡大
ベルリナブラック仕立ての15インチアルミホイールは専用デザイン。5本のWスポークで4穴締結は珍しい。
ベルリナブラック仕立ての15インチアルミホイールは専用デザイン。5本のWスポークで4穴締結は珍しい。拡大

ライバルを圧倒する居住性と積載性

と、そんなタイミングで編集部のFくんが、フィットの特別仕様車を借り出してきた。「ブラックスタイル」と銘打ったそれは中間グレードの「ホーム」をベースに、専用のフロントロアスカートやサイドシルガーニッシュ、リアスポイラーやミラー、内装ではステアリングやカップホルダーなどのガーニッシュをブラックアウトしたコスメチューンの一台だ。

正直、この車両をわざわざ見つけ出してきたFくんの嗅覚には感動するが、フィットのデキをお伝えするにはちょうどいい銘柄だ。価格は「e:HEV」のFFで245万円ほどと、インフォテインメント系が丸腰であることを考えるとお値段的にはもうひと声、頑張ってほしい感はある。

何はともあれ、フィットの最大の美点はスペースユーティリティーだ。今どき、空間効率をシビアに測るユーザーはそうはいないかもしれないが、センタータンクレイアウトの利は居住性においても積載性においても、確実に体感できる。そのぶん椅子が薄くなると長距離走で差が出るという弱点をフォームの硬さで支えていた初代から徐々に改善され、それに引っ張られるかたちでフィットのみならずホンダの椅子は地味ながらライバルと互角以上の掛け心地に仕上がっている。

座面のチップアップで背高な荷物も積めるスペースが生まれる後席は掛け心地よろしく、前方まで見通せる着座高も好ましい。前後席間のスペースはライバルにはっきりと勝るが、座面の肉厚を増やしたぶん、フォールダウン時に荷室が真っ平らにつくれなくなったのはちょっと惜しいところだ。その点さえ除けば、フィットは相変わらずきっちり積めるクルマでもある。

パワーユニットは1.5リッターエンジンをベースとしたシリーズパラレルハイブリッド。限界まで追求していないという割にWLTCモード燃費は28.7km/リッターと優秀。
パワーユニットは1.5リッターエンジンをベースとしたシリーズパラレルハイブリッド。限界まで追求していないという割にWLTCモード燃費は28.7km/リッターと優秀。拡大
ステアリングホイールやシフトセレクター、カップホルダーのピアノブラック加飾が「ブラックスタイル」ならではのポイント。最新のホンダ車に共通の無印良品的なインテリアの初出は「フィット」だった。
ステアリングホイールやシフトセレクター、カップホルダーのピアノブラック加飾が「ブラックスタイル」ならではのポイント。最新のホンダ車に共通の無印良品的なインテリアの初出は「フィット」だった。拡大
後席の足元の広さは全長4m以下のクルマとしては突出している。ボディー全長が1540mmもあるため、天地方向にも広い。2024年8月の改良でシートバックポケットが付いた。
後席の足元の広さは全長4m以下のクルマとしては突出している。ボディー全長が1540mmもあるため、天地方向にも広い。2024年8月の改良でシートバックポケットが付いた。拡大
ホンダならではのセンタータンクレイアウトを生かした後席のチップアップ機構を搭載。このサイズのクルマでこうしたスペースを生み出せるクルマはほかにない。
ホンダならではのセンタータンクレイアウトを生かした後席のチップアップ機構を搭載。このサイズのクルマでこうしたスペースを生み出せるクルマはほかにない。拡大

なんとかしなけりゃホンダじゃない

前方はもちろんのこと、後側方にかけてもなるべく死角を少なくして素直に見せようという視界のつくり方もフィットはライバルと一線を画している。ショルダーを激しくキックアップさせることなく、リアウィンドウまでつかみやすいウィンドウグラフィックに仕立てるなど、真面目なデザインだ。時折フィットの不振の理由にそのデザインを挙げる声を耳にするが、個人的にはむしろチャームポイントに見えるのだから、形というものにはつくづく正誤がないと思う。でも、それがもし退屈に見えるとすれば、それはセンタータンクを軸に最大空間効率を追求した揚げ句、こうにしかならないというフィットならではの形状に飽きているのかもしれない。

走りのバランスは非常に高い。ヤリスに比べればスポーティネスは譲るが、乗り心地のよさで勝る。ノートに比べれば低中負荷域での静粛性に劣るが、中~高速巡航の快適さでは上だろう。e:HEVの直結モードは高速移動の燃費効率を高めるが、それでも芯を食った時のヤリスの燃費にははっきりとかなわない。その差を埋めるものがあるとすれば、クリアな視界や運転操作に対するクルマの動きの速からず遅からずのちょうどよさだろうか。いずれも毎日を共にして嫌にならないクルマとしては、大事なポイントだと思う。

SUVが売れ筋のデフォルト化しつつあるなか、同価格帯には「WR-V」も参入し、フィットの立場はますます難しいことになっているが、こういうベタな車型を、市況を理由におざなりにするのは、総合メーカーとして利口ではない。いま一度、フィットが市場で輝きを取り戻せるか、ホンダのクルマ屋としての矜持(きょうじ)がうかがえるのか。いま仕込んでいる次のモデルはいよいよ大変だが期待して待ちたいと思う。

(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)

衝突被害軽減ブレーキや渋滞運転支援機能などの基本的な先進運転支援装備はすべて標準で備わる。マルチビューカメラとブラインドスポットモニター、後退出庫サポートはセットで10万5600円のオプションだ。
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ステアリングホイールはクラシカルな2本スポークタイプ。操舵に対する反応はスローすぎずクイックすぎずで心地よい。
ステアリングホイールはクラシカルな2本スポークタイプ。操舵に対する反応はスローすぎずクイックすぎずで心地よい。拡大
荷室の広さも「フィット」の美点。後席使用時の奥行きもたっぷりとしているが、床面の低さと天井の高さによる天地方向の広さが圧倒的だ。
荷室の広さも「フィット」の美点。後席使用時の奥行きもたっぷりとしているが、床面の低さと天井の高さによる天地方向の広さが圧倒的だ。拡大
後席は背もたれが倒れるだけでなく、座面ごと沈み込む仕掛け。先代モデルではこのときに床面がもっとフラットだったが、後席のクッションを厚くしたために少し段差が残るようになった。
後席は背もたれが倒れるだけでなく、座面ごと沈み込む仕掛け。先代モデルではこのときに床面がもっとフラットだったが、後席のクッションを厚くしたために少し段差が残るようになった。拡大

テスト車のデータ

ホンダ・フィットe:HEVホーム ブラックスタイル

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:123PS(90kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:28.7km/リッター(WLTCモード)
価格:245万0800円/テスト車=290万9500円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムクリスタルレッドメタリック>(5万5000円)/Honda CONNECTディスプレイ+ETC2.0車載器(19万8000円)/マルチビューカメラシステム+ブラインドスポットインフォメーション+後退出庫サポート(10万5600円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(3万3000円)/ドライブレコーダー<3カメラセット>(6万7100円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:501km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:189.1km
使用燃料:8.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:23.0km/リッター(満タン法)/23.1km/リッター(車載燃費計計測値)

ホンダ・フィットe:HEVホーム ブラックスタイル
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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