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スバリストならこれで満足!? 「クロストレック ストロングハイブリッド」の18.9km/リッターはいいのか悪いのか

2024.12.18 デイリーコラム 佐野 弘宗
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スバルの宿命

「走りはいいけど、燃費が悪い」が定評(失礼!)だったスバルに、待望のストロングハイブリッドが登場した。

そもそも、スバルの燃費が芳しくない最大の理由は、水平対向エンジンそのものといわれてきた。エンジンの低燃費化には、ピストンの直径(ボア)よりそれがシリンダー内を動く距離(ストローク)が長いロングストローク型が有利とされるが、水平対向を縦置きする構造上、ストロークを伸ばすとエンジン幅が増える。しかし、スバルのエンジンルームはすでにキツキツなので、ストロークを伸ばす余地はほとんどない。つまり、水平対向エンジンにこだわる以上、燃費がネックとなる宿命なのだ。

現行スバルの現行エンジンでもっともストロークが長いFB系でも、実際のストローク値は90.0mm。同エンジンでロングストロークを実現しているのはボアが84.0mmの2リッターだけで、2.5リッターはボア94.0mmのショートストロークとなっている。ちなみに、トヨタの主力4気筒であるM系エンジンのボア×ストロークは、2リッターで80.5×97.6mm、2.5リッターで87.5×103.4mm。スバルFB系と比較すると、超がつくほどのロングストローク型となっている。

スバルはそんな宿命を逆手に取った(?)「燃費より走りで勝負!」の姿勢で、ファン(=スバリスト)の心をつかんできたが、このご時世ではそれも限界。提携先のトヨタの技術を借りて、水平対向やシンメトリカル4WDといったスバルらしさも失わないストロングハイブリッドの「S:HEV」を完成させた。

そんな記念すべきS:HEVの1号車には、自社製エントリーSUVの「クロストレック」が選ばれた。エンジンは2.5リッターで、駆動方式は4WDのみ。燃費(WLTCモード、以下同じ)は18.9km/リッターをうたう。

2024年12月5日に発売された「スバル・クロストレック」のストロングハイブリッド搭載モデル。既存のマイルドハイブリッドの「e-BOXER」車も併売される。
2024年12月5日に発売された「スバル・クロストレック」のストロングハイブリッド搭載モデル。既存のマイルドハイブリッドの「e-BOXER」車も併売される。拡大
スバルの「S:HEV」はシリーズ・パラレル式の本格的なハイブリッド。スバルならではの機構としてプロペラシャフトを使った4WDを採用している。
スバルの「S:HEV」はシリーズ・パラレル式の本格的なハイブリッド。スバルならではの機構としてプロペラシャフトを使った4WDを採用している。拡大
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なぜ2.5リッターなのか?

……といったスペックを見るに、日本のスバリストの多くが率直に抱くのは「なぜに2.5リッター?」という思いだろう。クロストレックは、いわゆるCセグメントに属するクロスオーバーSUVである。直接競合する「トヨタ・カローラ クロス」に搭載されるハイブリッドは1.8リッターで、クロストレックと同じ4WD車だと燃費は24.5km/リッター。「ホンダZR-V」のそれは2リッターで、同じく4WD車の燃費は21.5~21.7km/リッターである。せっかくのS:HEVなのに、燃費はやっぱりライバルに見劣りするからだ。

クロストレックは車体そのものをハッチバックの「インプレッサ」と共有しており、SUV専用デザインのカローラ クロスやZR-Vより全幅も全高も小さい=空気抵抗でも有利。にもかかわらず、燃費でトヨタやホンダに水をあけられてしまっている。だったら、なおのこと「ロングストローク型の2リッターだったら、20km/リッター台もイケたんでは?」と、われわれやじ馬は夢想してしまうのだ。

燃費が自慢のはずのS:HEVなのに、あえて燃費に不利な2.5リッターを選んだスバルの公式見解は「動力性能と燃費のバランスをとったから」で、開発担当者はさらに「海外ではトレーラーを引っ張ることもあって、それなりのパワーが求められます」とも付け加えている。クロストレックにはすでに2リッター簡易ハイブリッドの「e-BOXER」があり、それより複雑なS:HEVは、どうしてもe-BOXERより高価になる。となると、明確に高い商品力をもたせる必要があるということか。

実際、装備レベルが近い2リッターe-BOXERの「リミテッド(4WD)」と2.5リッターS:HEVの「プレミアム」という2台のクロストレックを比較すると、後者が40万円近く高いが、そのぶん明らかにパワフル、かつ燃費もいい。なるほど、スバルの主張もわからなくはない。

それでも、トヨタやホンダの競合車と比較すると、「2リッターだったら、もっとバランスがとれていたのでは?」との思いは消えない。そういえば、先代クロストレック(当時の日本名は「XV」)に、北米限定で用意されたプラグインハイブリッドも、同じくトヨタのシステムをベースとしながら2リッターだった。

「S:HEV」の核となるエンジンは2.5リッター。ミラーサイクル化によって熱効率向上を図っている。
「S:HEV」の核となるエンジンは2.5リッター。ミラーサイクル化によって熱効率向上を図っている。拡大

みんなが使える最大公約数

……と思い出したこともあり、北米スバルの公式ウェブサイトをのぞいてみた。すると、この原稿を書いている2024年12月中旬現在、そこにクロストレックS:HEVの姿はまだなく、かわりに日本未発売の新型「フォレスター」の2.5リッターS:HEVが「coming soon」と大々的にアピールされている。フォレスターはトヨタでいうと「RAV4」と同クラスだから、そのS:HEVなら、なるほど2.5リッターがちょうどよさそうである。

今のスバルは完全な北米依存体質だ。2023年度(2023年4月~2024年3月)のスバルの世界販売は、約97万6000台。同年度の国内販売が約9万9000台(全車ダイハツOEMの軽自動車をのぞくと約8万7000台)なのに対して、北米での販売台数はじつに約76万3000台! スバル全体の8割近くを、北米市場が占めるのだ!!

そんなスバルの北米でのラインナップを俯瞰(ふかん)すると、スバルの本格ストロングハイブリッド(の第1弾)に、2.5リッターが選ばれた理由がなんとなく見えてくる。

北米スバルでは、フォレスターに加えて、国内ではもうすぐ販売終了予定の「アウトバック」も継続販売されており、次期モデルのウワサもちらほら出はじめている。また、そのセダン版たる「レガシィ」も健在だし、アウトバックより大きな3列シートSUVの「アセント」もある。もちろん、クロストレックは北米でも販売されるが、S:HEVがない現時点でも主力は2.5リッター。そのS:HEVとなると、なるほど2リッターでは物足りないかもしれない。

こうしてスバルの北米ラインナップを見ると、そのほぼ全車に使える最大公約数的なS:HEVが、2.5リッターということなのだろう。そんなスバルに日本に好適な2リッターのS:HEVも用意してもらうには、まずは2.5リッターS:HEVが日米、とくに大票田の北米でヒットして、開発予算(と企画担当者のマインド)に、ほかの選択肢も考えられる余裕をもってもらう必要がありそうだ。こういう話になると「結局はアメリカ頼み!?」となってしまうのは、われわれ日本人はなんとも歯がゆいけれど、それがスバルの現実でもある。

(文=佐野弘宗/写真=スバル/編集=藤沢 勝)

マイルドハイブリッドの「e-BOXER」よりも15リッター大きな63リッターの燃料タンクを搭載。18.9km/リッターのWLTCモード燃費どおりなら1000kmを軽く超える長距離ドライブが可能だ。
マイルドハイブリッドの「e-BOXER」よりも15リッター大きな63リッターの燃料タンクを搭載。18.9km/リッターのWLTCモード燃費どおりなら1000kmを軽く超える長距離ドライブが可能だ。拡大
日本にも遠からず導入されると思われる新型「フォレスター」。スバルの大票田である北米では、こちらが「S:HEV」搭載モデルの第1弾となるようだ。
日本にも遠からず導入されると思われる新型「フォレスター」。スバルの大票田である北米では、こちらが「S:HEV」搭載モデルの第1弾となるようだ。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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