日産NV200バネットMYROOM(4WD/4AT)
寝ても覚めても 2025.03.20 試乗記 日産の車中泊シリーズ第2弾の「NV200バネットMYROOM(マイルーム)」が登場。前席の背面から後ろはその名のとおりのMYROOM、すなわち寝るなり休むなり自由に過ごせる空間が広がっている。ロングドライブでつかの間のオーナー気分を味わってみた。フリーアドレスな暮らし方
定置定住に対する疑心というのは、リーマンショックを経た2010年前後を境に、ずいぶん増長してきているのではないだろうか……と思うことがある。
かねてより高齢化による人口減が必定とされているなかで、それこそリーマンショックや東日本大震災などの厳しい経験があった。一方で機材や通信など身の回りのテクノロジーの進化は著しく、新幹線でも飛行機でも働ける環境が整いつつある。そんなタイミングで日本もコロナ禍を迎えることとなった。
移動自粛の濃厚接触無理となった環境下で、はたしてインターネットがなかったら、世の中どういうことになっていたんだろう……と思えば、功罪あれどデジタルには救われた感がある。そしてそれは、人々の様式や行動を大きく変える契機にもなった。会社に行かずとも仕事は回る。学校に行かずとも宿題はできる。コロナ禍がそれを公としたこともあって、世の中の働き方や学び方は少なからず変わったわけだ。
もはやオフィスもフリーアドレスなんだから、家もフリーアドレスだって何にも困らない……というわけにはいかないのが大人のつらいところだが、そういう考え方が浮世離れしたものではなくなりつつあることは間違いない。そんななかで、バニング改めバンライフ的なクルマが注目を浴びるのもよく分かる。
そんなニーズを満たそうと企画されたのが日産のMYROOMシリーズだ。専門ショップの架装車のようなシンクやトイレ等の水まわりは持たないが、作業や就寝といった基本性能をしっかりと押さえた商用登録車というのがその成り立ちだ。モデルはNV200バネットと「NV350キャラバン」の2モデルが用意されている。
キーアイテムの「2 in 1シート」
ちなみにこの2モデルには「マルチベッド」というバリエーションも用意されているが、こちらは日産モータースポーツ&カスタマイズの傘下となるオーテックの架装となり、4ナンバーの商用車らしい積載力を犠牲にしない簡便な仕立てとなっている。対するMYROOMは日産車体の子会社としてバスや救急車、災害対策車等の架装を主に担うオートワークス京都が製作を担当。商用車の体積を最大限に生かすかたちで、自家用を意識した手の込んだしつらえとなっている。用途・目的に応じて2つのバンライフを選べるというわけだ。プアな国内ラインナップを補完すべく、関連会社は試行錯誤を重ねている。
MYROOMのキーファクターとなるのはマルチに可動する「2 in 1シート」だ。後席として使用する際は座面・背面ともに硬めのフォームで体をしっかり支えつつ、停車時には座面を引き出して立ち上げ、背面を座面位置に格納することで裏面の柔らかいフォームを使ったソファ的な掛け心地をリビングモードとして楽しむことができる。そして完全フルフラット状態にすれば、硬めのフォームが上面となり、体圧をきれいに分散しながら沈み込みを抑えるベッドモードが出来上がるという寸法だ。
この2 in 1シートのフルフラット状態と地続きになる2枚のボードを荷室部に配することで生まれるベッドスペースは最長で1840mm×1200mm。2 in 1シートは50:50のスプリットなので、半分をベッドに、半分をリビングモードのテーブル&チェアとして使うことも可能だ。
その状態で身長181cmのオッさんが横たわってみると、ベッドスペースにはギリギリ収まるかという感じだが、前席との境の隙間をうまく埋めることで縦方向は余裕がつくれそうな印象だった。じかに寝てもクッション的に差し障りは感じなかったが、敷布なりマットなりをかませれば、仮眠どころか相当快適に眠ることができそうだ。
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純正品ならではの完成度
NV200バネットの全長は約4400mmだから車長としては「カングー」や「ベルランゴ」あたりにほど近いが、この両車でこれほどフラット&ワイドなスペースをつくり出すには相当な工夫が求められるだろう。と、その過程こそバンライフの醍醐味(だいごみ)でもあり、センスの見せどころでもあるわけだ。が、MYROOMは日産の新車という扱いゆえ、保証も利くし車検もディーラーにお任せで受けることができる。
そんなメーカー純正品のすごみを感じるのが、ご立派な造作物の建て込みやふた物の精度&節度など、異音につながる要素にしっかり対策が講じられていることだ。天井にまで張り巡らされた木材の加飾が、走れどみしりとも言わないのには驚かされる。よくよく観察すればガタツキや擦過音などを防ぐゴムやフェルトが随所に貼り込まれているなど、ともあれつくりがきめ細かい。そこまで懸命に音消ししなくても、元が商用車ゆえ自ら発する音の侵入は大きめだ。ナリに任せるという手もあるが、見て見ぬふりはできないというのがクルマ屋のさがなのだろう。
MYROOMのベースとなるのはガソリンモデルの「DX」のみ。FF+CVTか、4WD+4段ATかが選択できる。取材車は4WDなのでリアサスが独立マルチリンクとなるが、FFはリーフリジッドが標準だ。ちなみに5人乗りのベースモデルとの重量差は+110~140kg、最大積載量はその架装分を差し引くかたちで400kgに指定されている。それでもレジャーユースの積載量としては十分だ。
ドライバーズカーとしてもなかなか
出自は2009年発売の商用車……ということもあって、内装のしつらえはさすがにこんにちの乗用車的な感覚では測れない。樹脂という樹脂はカチカチで、加わるシボの大ざっぱさにも古さがにじんでいる。むしろ屋外でガンガン使って、たまったほこりをウエスでゴシゴシ拭き掃除する、そういうざっくり感を楽しみたいところだ。
HR16DEエンジンに至っては20年選手だが、こちらは音量的にはノイジーとはいえ音質的にはザ行の音が立ってくる感じで、バシバシに肉抜きされた直噴ユニットにありがちなガ行の音が強く出てくることはない。特に郊外路を低回転域で巡航するような状況では、耳当たりの違いが音疲れにも効いてくるだろう。効率面ではかなわないかもしれないが、日々淡々と距離を刻む道具として使うにはポート噴射も捨てたもんじゃないと思う。
乗り心地は望外に穏やかだ。そもそもNV200バネットは運動性能においても定評がある商用車だったが、MYROOMは架装分の程よい荷重が後ろ側に乗っている点が奏功しているとうかがえ、うねりや凹凸に接してのロールやバウンドもうまく処理されている。特に大きな入力でも上屋の伸びを抑えてふわっと鎮める感触は、ほのかに先代カングーを思わせる……といえば大げさだろうか。対して苦手なのは路面のひび割れや洗濯板状の細かな凹凸が連続的に入ってくる場面で、後軸の暴れが目立って表れるが、そこは4ナンバー車として致し方ないところだろう。
MYROOMは1~2人向けのレジャーユースでは十分にその機能を発揮する一方で、高さを除けばCセグメント級の感覚で気遣わず狭いところでも振る舞える。その日常の機動力こそが最大の魅力だろう。居住性を重視するならNV350キャラバンをベースにしたMYROOMを選んでくださいということで、選択肢的には整合している。出先で寝ることを考えれば正確な水平器が付いているといいが、あとは自分の工夫で快適性や利便性を高めていくのも楽しみのひとつとして捉えたい。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=日産自動車)
テスト車のデータ
日産NV200バネットMYROOM
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4400×1695×1870mm
ホイールベース:2725mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:4段AT
最高出力:113PS(83kW)/5600rpm
最大トルク:150N・m(15.3kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)175/80R14 99/98N LT/(後)175/80R14 99/98N LT(ブリヂストン・ブリザックVL10A)
燃費:--km/リッター
価格:496万7600円/テスト車=560万6566円
オプション装備:ボディーカラー<サンドベージュ×ホワイト ツートン>(17万6000円)/室内カーテン<1列目シート後ろ、2列目シート両サイド、左右リアサイドガラス、バックドアガラス>(9万9000円)/クイックヒーターパック<運転席シートヒーター、PTC素子ヒーター>(5万5000円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万4443円)/日産オリジナルナビゲーション<MJ123D-A>(11万5672円)/ETCユニット(2万7657円)/スライドサイドウィンドウ網戸<片側>(1万1000円)/前後ドライブレコーダー<DH5-D>(11万1794円)/フロントフロアカーペット<スタンダード>(8800円)/「MYROOM」ステッカー(1万9600円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:420km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:341.3km
使用燃料:35.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/9.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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