ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)
リアルな最適解 2025.03.28 試乗記 マイナーチェンジしたボルボのフラッグシップSUV「XC90」が上陸。プラグインハイブリッド車(PHEV)のステアリングを握り、フル電動モデル「EX90」に通じるエクステリアデザインと、アップデートされたインテリアや電子デバイスの仕上がりを確かめた。存在感が高まるPHEV
2030年までに完全な電気自動車(BEV)メーカーになることを目指していたボルボだが、BEVの普及が思いのほか進まない状況を考慮して、目標とする時期を後ろ倒しにするという話を耳にした人は多いだろう。一方、2040年までに温室効果ガス排出ゼロを目指すことに変わりはなく、BEVとPHEVの比率を高めることで、段階的に二酸化炭素の排出低減を実現していく考えだ。
そうなるとがぜん重要性を増すのがPHEVである。幸い「90」シリーズと「60」シリーズには計6モデルが用意されている。今後、新たに投入されるBEVのニューモデルとともに、ボルボの主役としての存在感が高まるはずだ。
ボルボのフラッグシップSUVであるXC90にもPHEVが用意されているのはご存じのとおりで、マイルドハイブリッドシステム搭載車とともにマイナーチェンジを実施。2025年2月には日本でも販売が開始された。PHEVはそのトップグレードにあたり、「XC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド」というのが正式な名前である。
最新型を目の当たりにするのはこの試乗時が初めてだったが、「フロントマスクがずいぶん変わったなぁ」というのが私の第一印象。「トールハンマー」と呼ばれる特徴的なヘッドランプやラジエーターグリルがともにスリムになり、さらにバンパーのデザインがシンプルになったことで、以前よりもすっきりしたのが好ましい。ラジエーターグリル内のバーが斜めになったのも新しいところで、全体として高級感が増した印象である。
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居心地のいい室内空間
ドアを開けて車内をのぞくと、ボルボらしい上質なコックピットが広がっている。明るく上品な色合いのナッパレザーシートに加えて、明るいウッドとファブリックを組み合わせたダッシュパネル、クリスタルのシフトレバーなど、居心地のいい空間が手に入るというだけでもこのクルマを選ぶ十分な理由になるだろう。
一方、個人的に目を奪われたのがタブレットタイプの縦型センターディスプレイだ。ボルボのコンパクトクロスオーバーBEVの「EX30」のそれがすぐに思い浮かび、わずか5カ月だったがEX30と付き合った私としては、込み上げてくる思いがあったからだ。Googleが組み込まれたこのインフォテインメントシステムは、ディスプレイのサイズが11.2インチとEX30に比べてひとまわり小さいが、速度計やシフトインジケーターといった運転に必要な情報が、これまでどおりドライバー正面のメーターに表示されるため、サイズの小さいことに不便は感じなかった。
走りだす前に、後席やラゲッジルームもひととおりチェックしておこう。全長4955mmと余裕あるサイズのXC90には、3列7人分のシートが収められている。2列目のシートはスライドとリクライニングが可能で、ポジションを一番後ろにセットすれば楽に足が組めるほど余裕がある。一番前にセットしても窮屈な思いをしないだけのスペースが確保されていた。
この状態で3列目に座ると、頭上のスペースは問題ないが足元はミニマムで、子供用、あるいはいざというときに備えた非常用シートと割り切ったほうがいい。3列目を収納してしまえばラゲッジルームは奥行きが120cm弱と広く、さらに2列目を畳んでスペースを拡大することも可能で、この余裕がうれしい。
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パワフルなハイブリッドユニット
XC90のプラグインハイブリッドモデルには、前輪を駆動する2リッター直4ガソリンターボエンジンと、後輪を駆動する電気モーターが搭載される。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は18.8kWhで、73kmのEV走行が可能である。
ドライブモードには、「Hybrid」「Power」「Pure」「Off-road」「AWD」の5つがあり、ドライビングダイナミクスのメニュー画面で簡単に切り替えることが可能だ。まずは試しにモーターで走るPureを選ぶと、発進は素早く、一般道はもちろんのこと、高速道路でも十分な加速が得られる。ただ、首都高速で本線に流入する場合など、急加速が必要な場面ではやや物足りなく思える。
そんな悩みを解決してくれるのがHybridモードだ。発進はモーターが担当し、その後もモーターだけで走り続ける一方、急加速が必要な場面でアクセルペダルを一気に踏み込めば、自動的にエンジンが始動し、鋭い加速が得られるので便利。それだけに、ふだんはHybridで走行するのがお勧めである。
Powerを選ぶとエンジンが常に動き、しかもその名のとおり、実にパワフルな加速が味わえる。特にアクセルペダルを踏み込んだときの4000rpmあたりからの加速が爽快だ。
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静かで洗練された乗り味
PHEVではモーターを使ったエネルギー回収機能、すなわち回生ブレーキが利用できるが、XC90のプラグインハイブリッドではBEVのようなワンペダル機能が使えるのも見逃せない。シフトレバーでBレンジを選び、クリープ無しに設定すればアクセルペダルの操作だけで減速と車両停止が可能で、慣れるとこれがなかなか便利なのだ。
XC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッドには標準でエアサスペンションが採用されている。275/35R22の大径タイヤが装着されることもあり、路面によってはコツコツと軽いショックを拾うこともあるが、基本的には穏やかで実に快適な乗り心地を示す。高速道路では姿勢変化を抑えた安定感ある走りにつながり、ボルボのフラッグシップSUVらしい上質さが、その乗り味にもあらわれている。
さらに印象を良くしているのが静粛性の高さだ。モーターだけで走行している状況は言うまでもなく、エンジンが動いている場面でも、遮音性の高いボディーやオーディオに組み込まれたノイズキャンセリング機構、さらに共鳴空気振動を抑える発泡材が組み込まれたタイヤなどと相まって、キャビンが静かに保たれるのだ。
このように、実に満足度の高い仕上がりを見せるXC90のプラグインハイブリッド。BEVに興味があるが、購入は時期尚早と考えている人には、ぜひその実力をご自身で確かめてほしい一台である。
(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一/車両協力=ボルボ・カー・ジャパン)
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テスト車のデータ
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4955×1960×1775mm
ホイールベース:2985mm
車重:2300kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:317PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000-5400rpm
フロントモーター最高出力:71PS(52kW)/3000-4500rpm
フロントモーター最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/0-3000rpm
リアモーター最高出力:145PS(107kW)/3280-1万5900rpm
リアモーター最大トルク:309N・m(31.5kgf・m)/0-3280rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104W XL/(後)275/35R22 104W XL(ピレリPゼロPNCS)
ハイブリッド燃料消費率:13.3km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:73km(WLTCモード)
交流電力量消費率:257Wh/km(WLTCモード)
価格:1294万円/テスト車=1358万3600円
オプション装備:Bowers & Wilkinsハイフィデリティオーディオシステム<1410W、19スピーカー、サブウーファー付き>(45万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー アドバンス<工賃含む>(19万3600円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:723km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:354.4km
使用燃料:35.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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