ホンダが「ステップワゴン」をテコ入れ 2025年4月現在の国産ミニバンの勢力図
2025.05.07 デイリーコラム「エアー」の装備充実バージョンが新登場
そうそう、こういうのを待ってたのよ。
先日情報が公開された「新しいSTEP WGN」(とホンダが表現するモデル=マイナーチェンジ?)の内容を、そううなずきながら見たのはきっと筆者だけではないことでしょう。
注目は「エアーEX」という新グレード。現行型ステップワゴンには「スパーダ」と「エアー」という2つのラインがあり、前者は上級エアロ仕様、後者はカジュアルなベーシックタイプというキャラクター違いになっている。新グレードのエアーEXは、いうなれば“ベーシックタイプの上級グレード”なのだ。
そんなエアーEXにおいて、エアーから追加される装備ははっきり言って多くはない。運転席と助手席のシートヒーターをはじめ、3ゾーン式のエアコン(エアーは2ゾーン式+リアマニュアルクーラー)、全席分のUSBチャージャー(タイプC)、2列目シートのオットマン、シフトパドルによる減速セレクター程度である。でも、話題としては大きいのだ。
一番の注目は電動テールゲートだろう。これまでだとエアーを選ぶ(=スパーダ系を選ばない)時点で電動テールゲートを装着できなかったからだ。メーカーオプション設定すらなかったのだからある意味驚きではないだろうか。そして「エアーが欲しいけど、今どき電動テールゲートがないのはちょっと……。『スパーダ プレミアムライン』(スパーダの上級タイプ)のように装備をおごったエアーが欲しい!」という声が市場からけっこう挙がっていたのだ。そこで今回、待望の“装備充実のエアー”を用意したというわけである。オットマンや高機能エアコンの追加で室内の快適性もスパーダ プレミアムラインに並んだといっていい。
装備はシンプルじゃなくていい
何を隠そう、これには裏話が。先代モデルでは標準タイプ(エアーの前身)よりもスパーダが圧倒的に売れていた。だから2022年にフルモデルチェンジで現行モデルへと切り替わる際、ホンダは「単なる“標準タイプ”では存在感がないからエアーという名前を与えて存在感を高めつつ“シンプルさがいい”という戦略でもっと売りたい!」と考えた。そうしてエアーが登場したという経緯があるのだ。
エアーはホンダの狙いどおり、というかホンダの想定以上に世の中から受け入れられた。あまりにも支持を集めすぎてユーザー層が広がったがゆえに「装備がシンプルすぎるんじゃないか?」「もっと装備が充実したエアーが欲しい」という声が挙がってきたというわけである。
もちろん開発陣にもそんな声は届いていて、それが今回のグレード追加につながったというわけ。筆者は「世の中の声は理解している。もちろん対応していくつもり」と早い段階から開発者に聞いていた。でも、けっこう時間がかかったなあというのが正直な感想です(笑)。
ちなみに今回の「新しいSTEP WGN」では、エアーEXだけでなくもうひとつ新グレードが追加されている。それが「スパーダ プレミアムライン ブラックエディション」という妙に長いグレード名のモデルだ。これは昨今のホンダが幅広く展開している、内外装のブラックを差し色としたモデル。具体的には、フロントグリルガーニッシュ(ブラッククロームメッキ)、17インチアルミホイール(ベルリナブラック)、ドアミラーカバー&アウタードアハンドル(クリスタルブラックパール)、ステアリングロアガーニッシュ(ピアノブラック)などの黒パーツを採用している。快適装備や機能装備は通常のプレミアムラインと変わらないので、こちらは純粋に見た目の好みで選べばいいだろう。
シンプル仕様を望むならディーラーへ急げ
ところで、ご存じのとおりステップワゴンが属するMクラスミニバンのジャンルは激戦区だ。「トヨタ・ノア/ヴォクシー」と「日産セレナ」という競合が存在し、三つどもえの戦いが繰り広げられている。
2024年度の販売実績をみると8万1765台を販売したセレナがトップ……ではあるのだが、7万3721台のノアと7万2770台のヴォクシーを合計した“ボディー別”だとトヨタの勝利。ステップワゴンは5万1737台とやや控えめだが、月あたり4000台以上を売っていると考えれば悪い実績ではないだろう。2024年度の乗用車(軽自動車を除く)販売ランキングでは20位につけている。
用意された文字数が残り少ないのでライバルに対するステップワゴンのアドバンテージを2つだけお伝えしておくと、ひとつはこのクラスでは最も室内が広いことである。例えば2列目を一番後ろへスライドした際の1列目との距離(2列目足元空間の広さ)は、ステップワゴンが最も余裕がある。広さを求めるならステップワゴンだ。
もうひとつの特徴は、このクラスではステップワゴンだけが3列目シートを床下格納式としていること。「人が座る」という意味ではノア/ヴォクシーやセレナのような左右跳ね上げ式格納のほうがシートサイズを大型化できるから有利だが、3列目の格納性という意味ではステップワゴンのような床下格納のメリットは大きい。3列目は畳んでおくことが多いという人にとっては、ステップワゴンのほうがマッチングはいいだろう。
そうそう、気になる「新しいSTEP WGN」の正式発売は2025年5月の予定。ひとつだけ残念なのは現行モデルにはあるエアーのハイブリッドモデルがなくなるということ(ガソリンエンジン車のみになる)。つまりハイブリッドの価格が上へシフトするということだから、リーズナブルなハイブリッドが欲しいならあえて従来型を選ぶのも手ですよ……とお伝えしておきましょう。
(文=工藤貴宏/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025NEW 2025.12.24 旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表!
-
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題 2025.12.22 横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた 2025.12.18 デビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。
-
人気なのになぜ? 「アルピーヌA110」が生産終了になる不思議 2025.12.17 現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。
-
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。 -
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.12.22試乗記メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。






































