第828回:カタログ燃費値を超えろ! フォルクスワーゲンのディーゼル燃費性能を長距離走行でチェック
2025.05.13 エディターから一言![]() |
フォルクスワーゲン ジャパンが報道関係者向けにディーゼルエンジン「TDI」搭載車で燃費競争イベントを開催した。今回はカタログに記されている燃費値を基準に、それをいかに上回るかで勝敗が決まるという特別ルール。EVシフトを推進するなかにあってもディーゼルエンジンの魅力を伝えたいという主催者の意図を勘案しつつ、あえて「普通に近い走り方」でチャレンジした結果は?
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目標はカタログ燃費値超え
新型「ティグアン」の導入やワゴンボディーのみの設定となった新型「パサート」の発売、さらには「Tロック」にディーゼルエンジンを搭載した4WDモデルの追加、マイナーチェンジが施された「ゴルフ」「ゴルフヴァリアント」のデリバリー開始……と、比較的動きの少なかった2024年までのうっぷんを晴らすかのようにニュースがめじろ押しなのが、昨今のフォルクスワーゲンである。
日本市場におけるそんな勢いに乗って(?)か、低燃費を大きな売り物とするディーゼルエンジン「TDI」搭載車を用いた「フォルクスワーゲンTDIフルラインナップ ロングディスタンスプレス試乗会」と題するメディア向けの燃費競争試乗イベントが企画され、webCGも参加と相成った。
ただし、いわゆるエコラン競技では同一の車両が用いられるのが通例であるものの、今回用意されたのは普段メディア向け取材用車両として活躍中のモデルで、車種もグレードもさまざま。Tロックの「TDI 4MOTION Rライン」が2台だったほかは、ゴルフの「TDIアクティブアドバンス」に「TDI Rライン」、ゴルフヴァリアントの「TDI Rライン」、ティグアンの「TDI 4MOTIONエレガンス」に「TDI 4MOTION Rライン」、パサートの「TDI 4MOTION Rライン」が各1台ずつ。そんな8台は当然サイズも重量もさまざまで、これでは単純な燃費競争は成立しない。
そこでフォルクスワーゲン ジャパン広報・マーケティング本部が熟考の末に(?)編み出したのが「カタログ燃費(JC08モード)に対して車載燃費計に表示された結果がどれだけ上回ったかで勝敗を決める」という独自のルール。
ということで2025年4月某日、薄曇りの朝に東京・品川にあるオフィスビルの地下駐車場を出発し、燃費競争の火ぶたが切られた。上記8車種のなかからwebCG編集S氏が引き当てたのは、ゴルフヴァリアントのTDI Rラインである。
音声コマンドの認識に難アリ
燃費計測地点として設定されたのは、関越自動車道(関越道)の起点となる練馬インターチェンジから118.5km先にある、赤城高原サービスエリア。そんな燃費計測ポイントまでのルートは特に指定されてはおらず、となればいかにストップ&ゴーの機会を減らして一定速度で走り続けられるルートをたどって行けるかが、まずは最重要課題である。
すでに朝のラッシュアワーも終わったタイミングでの出発なので、最寄りの首都高入り口となる五反田ランプを目指し、そこから首都高中央環状線(山手トンネル)外回り→5号線下りと進み、さらに東京外環自動車道(外環道)を乗り継ぎに使って関越道に入るというのが“王道ルート”になるはず……と、ここはローカルな話題でスミマセン。
「Google Map」で検索しても同ルートを推奨するので、とりあえず不慣れな首都高入り口までを案内してもらおうと、マイナーチェンジモデルでの売り物とされる「IDAボイスアシスタント」で車載ナビへの目的地設定にトライ。しかしこれが言い方を何度変えても認証されず、最後には住所での入力を要求されるなど一筋縄ではいかないことに閉口。う~んこれって自身の滑舌が悪いのか、はたまたまだコツがつかめないためなのか。でもこういうのってテキトーにしゃべっても、ある程度は理解してくれるものではないの?
ただ、とりあえず急ぎスタートしたので、投影位置が理想からズレてうっとうしかったヘッドアップディスプレイの表示に対し「ヘッドアップディスプレイを消して」と言ったら、こちらは一発で成功。後に「ヘッドアップディスプレイの位置を上げて」と言うと、センターディスプレイに調整画面が表示されることも発見。このあたりは従来型ではできなかった覚えがあるので、やはり今回のマイナーチェンジで使い勝手は向上しているようだ。
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長距離走行で気になる硬質な乗り味
そんなことをやりながら何とか首都高の流れに乗って走行していると、関越道への乗り継ぎで使うつもりだった外環道が渋滞しているとの報。一方で、並行する一般道はさほどの渋滞表示ではないことから、ここではちゅうちょなく、いったん下道へと降りることにした。
ちなみに当方、エコランとはいっても一般公道上では、再加速を避けるために速度を落とさずに交差点を通過したり、アクセル開度調整のために流れに乗れないほどの緩い加速や低速での走行を行ったりといった“特殊な技”を使うつもりは毛頭ナシ(危ないですからね)。
かくして、普段の乗り方と異なることといえば「車速が約7~160km/hのアクセルオフ時にエンジンブレーキなしのコースティングを行い、22km/h未満でブレーキを踏むと車両の停止状態に至るまでエンジンをストップする」という「エコ」モードを選択したことが唯一で、もちろんエアコンもONのままである。
で、一般道を走行するとちょっと気になり始めたのが、ベーシックなグレードよりも大径な18インチのシューズをRライン専用のスポーツサスペンションに組み合わせていることが主因と思われる硬質な乗り味。
そんなシューズを含めた専用デザインのエクステリアや、今回の試乗車が装備していたTDI Rライングレードのみでチョイスが可能というオプションシートに引かれる気持ちもわかりはするものの、自分で選ぶならば乗り心地も勘案して、ここは同じTDIでも「アクティブベーシック」か、もしくはナビ機能やヘッドランプ関連の装備がより充実した「アクティブアドバンス」か。
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燃費バトルの結果は?
関越道へと入ってしまえば、あとはおよそ120km先の赤城高原サービスエリアを目指して淡々と走るのみ。前述のように、走行車線の流れに乗れないほどの低速で走ったり風よけのために大型のパネルバンやバスに張りついたりするつもりはない一方、さすがに普段よりもペースは抑えめになる。
ただしこのモデルの場合、エコモードをチョイスしてもトップギアである7速に入るのは平たん路でもメーター読みで85km/h以上であることが判明。ということで、ターゲット車速はタコメーターが1300rpm付近を指すこのあたり。練馬入り口から90kmちょっと先の前橋インターチェンジまでは3車線区間が続くので、最も左の第1車線を基本に、前方に遅いクルマが現れたらペースを変えることなく追い越しができるように第2車線へと出るタイミングを見計らいながら、基本的にはアダプティブクルーズコントロールを85km/hにセットして走行した。
ちなみにこうした長時間に及ぶ巡航シーンでは、ゴルフ史上で初めてハッチバックモデルとは異なる長いホイールベース(+50mm)が採用された効果か、現行型ゴルフヴァリアントの有する高い走行安定性を実感した。広い後席の足元空間も、カメラ氏を含めての常時3人乗車の今回のような場合には特にありがたかった。
一方で少々気になったのは、タイヤに起因すると考えられるさまざまなノイズ。粗粒路ではロードノイズが大きいし、それが目立たない低速の平滑路ではパターンノイズが意外に大きく耳に届くことに。18×7.5Jサイズのホイールと組み合わされたポーランド製との刻印がある225/40R18サイズのタイヤは「ブリヂストン・トランザT005」。多くの欧州車に新車装着用として選ばれる銘柄だが、正直ノイズ面ではあまりうま味がないように思う。
ということで、無事計測地点に到着した時点で表示された車載燃費計のデータは、JC08モードのカタログ値=21.7km/リッターに対して23.0%アップの26.7km/リッターというもの。後に判明した結果では、これは3台のゴルフTDI中ではビリで、前述のルールに基づいた勝負でも8台中の7位であった。
それでもダントツ1位の早さで計測地点に到着し、何のストレスもなく走行できたという内容からすれば、この結果には大満足。実はこのイベントの前週に別件でゴルフTDIアクティブアドバンスに乗った際も、高速道路を流すと25km/リッターを上回ることを確認済みだ。
特に“燃費走行”を行わず普通に走ってもこんなデータをたたき出すフォルクスワーゲンのTDIは、やはりとんでもなく燃費に優れたエコカー。今回はそうした印象をあらためて上書きすることになったのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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