今や年間販売100万台! 「トヨタRAV4」が売れまくるのはなぜか
2025.06.18 デイリーコラムクロスオーバーSUVの先駆け
「『RAV4』が世界的に大ヒットしている」と聞いてもピンとこないのは、筆者の頭の中が初代のイメージで止まっているからかもしれない(早い段階で止まりすぎだろ、とは思う)。1994年に登場した初代RAV4は衝撃的だった。当時はヨンクといえばクロカン(クロスカントリー)4WDが全盛で、トラックなどと同じラダーフレームをベースにボディーを載せた形態だった。見た目はワイルドでよかったかもしれないが、乗り心地面も含め、オンロードでの使い勝手は決していいとは言い切れなかった。
そんな状況で、RAV4は乗用車用のモノコックを使い、都会風と田舎風をミックスさせたような外観をまとって登場した。クロスオーバーSUVの嚆矢(こうし)である。当時風に表現すればRVだ。5ナンバーサイズのコンパクトなボディーが、日本の住宅・道路環境にマッチしていた。1995年には5ドアが追加されてより使い勝手が高まり、人気を不動のものにした(と、当時は感じた)。
筆者のRAV4に対するイメージがここで止まっているのは、2代目以降は国内のマーケットではなく海外、特に北米や欧州を向いた商品コンセプトになったからかもしれない(と言い訳をしておく)。ボディーは大型化し、(当然だが)かの地の人々の好みに合わせたスタイリングになった。
一方で、北米を中心にRAV4は売れ、代を重ねるごとに大型化した。4代目は2013年にデビューしたが、日本では販売されず、国内ではクロスオーバーSUVの需要を「ハリアー」が受け持つことになった。RAV4の印象が薄れたのは、一時期国内のラインナップから消えた影響も大きい。しかし、4代目RAV4は世界的には売れ続けた。2018年には年間83万台の販売を記録している。
まさにちょうどいいサイズ
2025年5月21日に都内で行われた6代目RAV4の発表イベントでトヨタ自動車執行役員 チーフブランディングオフィサー・デザイン領域統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏は、「最初はニッチな商品だった」とRAV4を評しながら、「2代目、3代目が登場するころには、世界中の人たちがRAV4を受け入れてくれたのです。オーストラリアからアフリカ、ブルガリアからボリビアまで」と付け加えた。
ちょっとシニカルに捉えれば、“日本を除く世界”でRAV4は受け入れられ、ヒット商品になっていった。2018年に登場した5代目RAV4は、都会風のムードを残しながらもオフロード味の強いスタイリングに転換。雰囲気だけに終わらず走りにもこだわった。新世代プラットフォームの「GA-K」を適用したのもこの世代からだ。オフロード風に見えるだけでなく、悪路走破性の高さも備えていた。
主力マーケットの北米ではコンパクトなサイズだが、大きすぎず、小さすぎず、ちょうどいいサイズが好まれたのだろう。この点、北米で「スバル・フォレスター」のサイズが好感を持って受け入れられているのと共通する。5代目RAV4の全長×全幅×全高は4600×1855×1685mm。国内でも大きすぎないサイズとSUV人気に乗っかる格好で5代目から販売が復活した。そして、世界では年間販売台数100万台規模の商品に成長した(2020年に初の100万台超え)。
6代目となる新型RAV4がボディーサイズを維持(全長と全幅は同一。全高は5mm低くなっている)したのは、これがちょうどいいからだ。新型フォレスターも新型の開発にあたってはサイズを変えなかった(全長×全幅×全高は4655×1830×1730mm)。フォレスターの開発責任者は「外寸がコンパクトで取り回ししやすい。一方で、乗ってみると室内は広いし、荷室も広い。狭い、物足りないという不満の声がお客さまからなかった」と話した。RAV4も同じだろう。
売れているから投資ができる
全長4600mm×全幅1850mm×全高1700mmあたりが、北米をメインに世界でたくさんクロスオーバーSUVを売るための黄金比的な数値なのだろう。商品の魅力はサイズを大きくして空間を広くするのではなく、スタイリングや機能、性能で引き上げる。5代目RAV4はオンロードとオフロードの走りのレベルを引き上げて魅力アップを図り、それが、年間100万台以上をコンスタントに販売する商品に成長させた。
あるメーカーのあるエンジニアがこんなふうに言ったことがある。「売れているクルマには投資ができるけれども、売れていないクルマには投資ができない」と。売れていないから売るためにテコ入れするんだろうと外野は思いがちだが、投資しても回収の見込みが立たなければ決裁は下りないのが実情。逆に、いま売れていれば投資を回収する見込みが立つので(開発陣にすれば、それはそれでプレッシャーだろうが)、新しい機能や装備をどんどん投入できる。
年間100万台超えの人気商品に成長したRAV4は売れているから投資できるいいサイクルに入っており、だから魅力がますます増して、さらに売れる……。新型は同一パッケージで3タイプのスタイルを用意しているし、プラグインハイブリッド車には新世代のハイブリッドシステムを採用。新開発のシフトバイワイヤが採用され、インパネはデジタルデバイス中心の機能的なレイアウトになった。そして、新しいソフトウエアづくりプラットフォームの「Arene(アリーン)」は、RAV4から導入──。
繁盛店がメニューをリニューアルしたとなると、気になるのが人のサガ。人気が人気を呼んで、さらに人気が出る。それと同じ作用がRAV4にも働いている気がしてならない。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

世良 耕太
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