レクサスRZ550e“Fスポーツ”(4WD)/RZ500e(4WD)
たゆまぬ進化 2025.07.09 試乗記 「レクサスRZ」のビッグマイナーチェンジモデルが登場。新たなステアリングシステムを採用し、電池やモーターなどの主要なパーツがごっそりと新しくなったというのだから、なるほどビッグだ。国内での発売を前にポルトガルで進化のほどを探ってきた。7年がかりでモノにしたステアバイワイヤ
レクサス初の電気自動車(BEV)専用設計車両となるRZが登場したのは2022年のこと。翌2023年に日本でも発売した。仕向け地別の販売は欧州がトップで北米が続き、日本は苦戦しているという。
これをもって外野がBEV発展途上国とディスるのは的外れだろうが、レクサス側も購入者向けに家庭用普通充電器の無料設置や、外出先での充電利便性の向上など、さまざまな手だてを模索・実践しているところだ。直近ではポルシェやアウディが国内で構築するプレミアムチャージングアライアンス=PCAとレクサス側との充電ネットワークの相互利用開始が延期されたが、これはPCA側の海外サプライヤーのソフト開発遅延が原因とのことで、2026年3月をメドに仕切り直すことになるという。
そんななか、レクサスは2025年度内に欧州でBEVの新モデルを3車種発売するというプランを3月に発表した。そのうちのひとつがこのRZのマイナーチェンジ型ということになる。加えて4月の上海ショーでお披露目された新型「ES」と、さらにまだ見ぬ1モデルが控えているということになるのだろう。
新しいRZのトピックは、そのほとんどが中身的なところにみてとれる。とりわけ際立っているのがステアバイワイヤ=SBWの採用だ。技術的には「日産スカイライン」が2013年に実現していたものだが、冗長性確保のために3系統のバックアップとともに、ステアリングシャフトは残しながらクラッチで切り離すという物理的な仕組みが採用された。対してRZはステアリングとラック部のモーターとの間に物理的な接続を持たず、完全に電気信号で制御される仕組みだ。発表当初は量産車世界初採用になると目されていたが、「テスラ・サイバートラック」がZFのシステムを採用し、その称号は譲るかたちとなった。
ちなみにレクサスがSBWの開発に費やした時間は約7年に及ぶという。商品としての冗長性やロバストネスの構築はもちろんのこと、いかに人間の感覚に違和感なく調和し、自然に振る舞えるかという点については、散々場数を踏んで地道な検証を重ねている。それこそがクルマ屋の仕事の核心ということになるだろうか。結果として操舵角は左右各150度から、初期ゲインを緩めながら持ち替えの必要なく転舵できるギリギリの200度へと再設定され、それに合わせるかたちでヨーク型ステアリングの形状も変更されている。
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電池もモーターも最新世代へ
万一の失陥は物理的接続がなく電気由来となるため、ラック部のモーターには本来の電力系統に加えて3ステップの送電系統を確保。駆動バッテリー由来の主副系統に加えて12Vバッテリーまで完全に落ちた場合に備えて、操舵電力を供給するためだけのキャパシタも搭載し、仮に車体を押し動かすという状況になったとしてもステアリングは稼働するように備えているという。2t超えのBEVを押す状況はあまり考えたくないが、念には念を入れていることが伝わるエピソードだろう。ちなみに、このSBWは日本仕様の場合、新たに設定された「550e“Fスポーツ”」に標準で装着されることになる。
もうひとつの大きなトピックは、新しい世代のeアクスルの採用やそれに伴うパワーアップと駆動制御の変更、セルの設計や容量も変わった新たなバッテリーの搭載による航続距離の伸長など、BEVとしての基本的なアーキテクチャーがガラリと世代交代を果たしたことだ。これによりバッテリーの搭載容量も71.4kWhから76.96kWhと変わったため、車台も左右側の骨格を見直すなど、全面刷新にもほど近いくらいに手が加えられている。
内燃機に比べると伸びしろが大きく、技術的な更新速度も速いBEVは、必然的に開発側にも機敏さが求められるわけだが、スピードでまともにやり合うと若さみなぎる中国あたりの思うツボではと心配にもなる。むしろレクサスなら、いぶし銀ならではの付加価値の追求がユニークネスとなり得るはずだ。それすなわち、彼らいわくの「味磨き」ということになるだろうか。それは新しいRZにも、立体的な車体骨格づくりの一端となる、車体前後に加えられた新たな補強材などで採り入れられている。
駆動モーターは車名の変更を伴うほど大きく変わったポイントのひとつだ。欧州仕様値によると基本となる前軸のモーター出力は最高出力150kW(204PS)/最大トルク266N・mから167kW(227PS)/269N・mへと変わり、FWDの「300e」は「350e」へと変更されている。また、4駆モデルに搭載されるリアモーターはフロントと同じアウトプットで、従来の80kW(108.8PS)/169N・mからの大幅な出力向上に伴い「450e」から「500e」へとステップアップ。さらに500eとパワートレインのマネジメントを違える“Fスポーツ”は550eとしてトップパフォーマンスを発揮する。その550eの0-100km/h加速は4.4秒と、前型のRZ450eに対して0.9秒の短縮となった。最高速はリミッターを介しての180km/hとなる。
生きた道で味わうSBW
一方で一充電走行距離は欧州のWLTPモードで500eが500kmと、前型の450eに対して約2割向上しており、実用性能面でも全面刷新並みの向上を果たしたという。冷却の見直しやナビデータ連動のプレコンディショニング機能の搭載によって電池のマネジメントも強化。急速充電時の受電能力についても日本仕様も150kWを確保する予定だ。
試乗の中心となったのは欧州仕様の550e“Fスポーツ”だ。RZのSBWは以前、開発途上のプロトタイプを下山テストコースで走らせた経験があるが、刻々と路面状況が変わる生きた道での体験は初めてとなる。
なるべく先入観を抱かないよう意識して走り始めると、なるほど操舵に対してドキッとするような鋭い挙動は以前より抑えられているように感じられた。操舵量の拡大がゲインの立ち上がりを和らげていることが伝わってくる。取り回しについては、初めて経験する海外のジャーナリストにも違和感を訴える声はほぼなかったという。
日常域でのSBWの恩恵は、欧州の郊外によくあるラウンドアバウトへの進入から脱出時に鮮明に感じられた。普通なら左右に忙しく転舵しなければならない状況でも、持ち替えもなくスイスイと走れる。日本の環境になぞらえれば細街路や駐車場など、ステアリング操作の忙しい場所でありがたみが実感できることだろう。
物理的な接続を廃したSBWの効能は、舗装や凹凸といった路面状況の変化から発せられる不快なフィードバックを軽減できることにある。一方で、情報を完全に遮断してしまうとドライバーの不安につながるわけで、モーターによって加えられる操舵の反力も含めて、何を残して何を伝えるかというパラメーターの構築に膨大な時間が注がれるわけだ。
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ライドフィールも着実に進化
この点について、高速やワインディングロードも走り込んでアラを探したが、RZのSBWはほぼ完璧な仕上がりをみせてくれた。目まぐるしく変わる舗装面にも、ノイズ成分をきれいに取り除きながら状況変化のみを手のひらにしっかり伝えてくる。ワインディングではねっちりとした前輪のねじれやブッシュのたわみ感はしっかり届けつつも、コーナー途中の凹凸による舵の揺れは軽減するなど、取捨選択が実にうまくできているという印象だ。
ひとつ惜しかったのが、ヨーク型のステアリングが積極的に握って回す方向の形状になってしまったことだ。例えばコーナリング途中でもうひと押しアタマをインに入れるときにスポークを握るのではなく親指の腹で優しく押し込んでいくとか、高速巡航時に親指に力を込めることで少しだけ進路を整えるとか、そういう微細な入力のしやすさという点では、当初の形状のほうが扱いやすかった。ロックtoロックにして1.1回転と、当初より舵を動かす量が多くなったことに伴う変更なのだろうが、SBWにはハンディキャップに対する親和性の高さという側面もあるだけに、ここはさらなる吟味を望みたいところだ。
そもそもRZは、個人的にはすべてのモデルのなかで最もレクサスらしいドライブフィールの持ち主だと思っていた。BEVでしかあり得ない音・振動環境や緻密な駆動制御に鑑みれば当たり前のように思われるかもしれないが、実はそれを支えるフットワークがBEVならではの低重心や高剛性を見事に生かしきって、すっきりしなやかで包容力もたっぷりある乗り味を実現していたからだ。
そのライドフィールは新しいRZでさらに深化していることも確認できた。この点、特に操舵系統もサスも中庸な500eのバランス感が素晴らしい。素性のよさがゆえ、固定レートのダンパーでも初期からしっかり減衰を立ち上げて、全域で丸くクリアな乗り味をみせてくれる。操舵フィールは550eほどノイズレスとはいかずとも、十分に上質さが感じられた。アウトプットが倍増した後軸側のモーターのアシストも、むしろ従来型のステアリングのほうが、ドライバーがアクセルで曲げていく感覚へと自然につながるかもしれない。
ちなみに新しいRZの一部グレードには、「インタラクティブマニュアルドライブ」=IMDという新たなギミックも用意されている。フルデジタライズされたパワートレインの制御ロジックを活用して、加速や回生制動にあえて疑似段的な概念を加えることで、自らパドルシフトを操り内燃機のクルマを操るかのようなドライビングが楽しめるというものだ。加減速に合わせてスピーカーから発せられる疑似音は「LFA」のV10サウンドにBEV的なモーター音を重ねてアレンジしたもの。そして8つに切られた疑似段は「RC F」のギアリングを参考にして調律されたという。
果たしてBEVにそんな演出はいるのかという議論はさておき、ロングに引っ張れる2~3速を中心に使いながらワインディングや高速を走ってみると、加速Gの変化や変速時の駆動抜けなど、わざわざ再現したものがエンタメ的な要素になり得ていることが伝わってきた。RZの電子プラットフォームではそれはかなわないかもしれないが、いわゆるSDV的なところに準じたアーキテクチャーになると、将来的にはこのサウンドや出力特性などがOTAを介しての追加ソフトとして新たな収益源となるわけだ。そういう時代を迎えるうえでのトライの一環だということは理解できる。
より洗練された乗り味と大きく改善された使い勝手、そこにSBWという革新的な体験も加わった新しいRZ。その日本仕様の発売は2025年末~2026年頭と想定される。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスRZ550e“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:2640kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:227PS(167kW)
フロントモーター最大トルク:269N・m(27.4kgf・m)
リアモーター最高出力:227PS(167kW)
リアモーター最大トルク:269N・m(27.4kgf・m)
システム最高出力:408PS(300kW)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)255/45R20 104V XL(ダンロップSPスポーツマックス060)
一充電走行距離:450km(WLTPモード)
交流電力量消費率:18.4kWh/100km(WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
レクサスRZ500e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:2640kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:227PS(167kW)
フロントモーター最大トルク:269N・m(27.4kgf・m)
リアモーター最高出力:227PS(167kW)
リアモーター最大トルク:269N・m(27.4kgf・m)
システム最高出力:380PS(280kW)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)255/45R20 104V XL(ダンロップSPスポーツマックス060)
一充電走行距離:456-500km(WLTPモード)
交流電力量消費率:16.6-18.2kWh/100km(WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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