ディフェンダー・オクタ(4WD/8AT)
「持っている」という事実 2025.08.01 試乗記 泣く子も黙るタフなオフローダーの「ディフェンダー」に新たな旗艦「オクタ」が登場。ググッとワイドに広げられたフェンダーが目を引くが、実はエンジンや足まわりまで専用に仕立てられた“史上最強”モデルだ。ひとまずオンロードでの仕上がりをテストした。使い切れないほどの高性能
「メルセデス・ベンツGクラス」(現行モデル)の国際試乗会でのこと。「G63」の商品説明の際、エンジニアが「従来型のG63には、実はやり残したことがありました」と口を開いた。「オンロードでのパフォーマンスや石がゴロゴロ転がっているような悪路での走破性はトップレベルに達していたと思います。ただ、ラフロードのようなところを“速く”走る性能に関しては、もっと突き詰める余地が残っていると感じていました」という。それを実現するために、新しいサスペンションシステムを組み込むなどの改良を施したそうだ。そして、試乗会場に特設された未舗装路では、乗っている自分でもちょっと引くほどの速さと安定感を見せつけられた。
ディフェンダーのオクタも、資料を読み込むとやはり未舗装路での性能向上を図ったというようなことが書かれていた。メーカーやブランドが違っても、こういうクルマの開発に携わるエンジニアが目指すところは、自然と同じ方向になるんだなと思ってなんとも興味深かった。
いっぽうで、飛び抜けた出力とトルク、ずばぬけたオフロード走破性など、ごくごく普通の暮らしをしているユーザーにとっては到底使い切れない、あるいは持て余してしまうほどの性能がSUVに本当に必要なのだろうか、なんて最近は思うようになったりもしている。それって要するに、メーカー同士の競争にユーザーが巻き込まれているだけではないか? そのせいで、車両価格もうなぎ登りになっているのではないか? そんなことを、ディフェンダー・オクタに試乗しながらあらためて考えてみた。
SUVにとって理想的なサスペンション
「レンジローバー」系列にはハイパフォーマンス仕様の「SV」がラインナップされている。ディフェンダーのオクタは、言ってみればこのSVとポジション的には似ているかもしれない。実際、オクタが搭載するV8は自社製の5リッタースーパーチャージャー仕様ではなく、レンジローバーが使うBMW製の4.4リッターツインターボ(マイルドハイブリッド)である。
シャシーにも、SVも採用する6Dダイナミックサスペンションが組み込まれている。このサスペンションは、各車輪の電子制御式ダンパーを油圧回路でつなぎ、状況に応じてオイル量を融通することでピッチやロールを制御し、スタビライザーがなくても同等の働きをこなすシステムである。スタビライザーはばね上のロール方向の動きを抑えるので特にオンロードでは有効だが、オフロードではこれが走破性の足を引っ張る場合もあるので、SUVにとっては痛しかゆしの装備でもある。よって6Dダイナミックサスペンションは理想的ともいえるシステムなのだ。実はこれによく似た機構を持つサスペンションを、メルセデスのG63も採用している。
パワースペックは最高出力が635PS/6000-7000rpm、最大トルクが750N・m/1800-5855rpmと公表されている。最高出力の発生回転数がレブリミット周辺という高回転型であるいっぽうで、最大トルクは発生回転域が1000rpm台から6000rpm付近までと幅広い。ちなみに、最大トルクの発生回転数が「5855rpm」とひと桁台まで明確に記されているのは珍しい。22インチの軽量ホイールとオールシーズンタイヤを履いた仕様では、最高速は250km/hにまで達するという。ローンチコントロールを使うと最大トルクは800N・mへアップし、0-100km/hは4秒フラット。これがどれくらい速いのかと興味を持たれた方はぜひネットで検索を。名だたるスポーツカーがズラリと並んでいるはずだが、このタイムを車両重量2.6t超えで達成しているのは、おそらくディフェンダー・オクタくらいだろう。
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足まわり以外にも独自の要素がたっぷり
ノーマルのディフェンダーはエアサスが採用されていてオンロードの乗り心地もよく、それでいてGクラスよりは安い仕様もあるから悪くないかもと思っていたけれど、自宅の駐車スペースの都合上、やっぱりほぼ2mの全幅に躊躇(ちゅうちょ)していた。ところがオクタの全幅はさらに広がって2065mm、全高も30mm高くなって2mに達している。目の前にすると、まあ確かに迫力はあるけれど、もはやクルマというよりはちょっとした建造物のような存在感でもある。
運転席に収まって辺りを見回してみると、インテリアの雰囲気は基本的にノーマルのディフェンダーを踏襲していて、なんだか少し安心した。フロントシートはヘッドレスト一体型のスポーツタイプだが、特徴はこの内側に隠れている。「ボディー&ソウルシート」と呼ばれる機能は、オンにすると音楽に同調してシートが振動する。資料には“没入型音楽体験”と書かれていた。
“オクタ”の名称の由来はダイヤモンドからきているそうで、八面体のダイヤモンドは強靱(きょうじん)であると同時に美しく希少性も高い、そんなことにあやかっているそうだ。それを模した赤いアイコンのスイッチがステアリングに備わっている点が、ノーマルとの決定的な違いである。透明のパドルは、オクタのボタンを押すと赤く光る仕組みである。
このオクタボタン、押すと「ダイナミック」モード、長押しすると「オクタ」モードになる。ダイナミックモードではばね上のロール方向の動きをさらに抑え込むサスペンションのセッティングに変わるが、オクタモードでは逆にロール制御をノーマルよりも軽減し、ピッチ方向の制御はフリー(解除)になる。要するに、サスペンションをより動きやすくして、ラフロードでの接地性を高める狙いである。
エンジニアの気持ちになれば
今回は岩場にも未舗装路にも行かず、いつもの道をいつものように走ってみた。オンロードではノーマルのディフェンダーでもすこぶる快適だけど、それはオクタになっても変わらない。6Dダイナミックサスペンションの効果もあって、ばね上のピッチ/ロール方向の動きがさらに抑えられている。だからといっていわゆる“硬い”乗り心地にはなっておらず、むしろフラットライドに近い。これならロングツーリングでもきっと疲れないだろうというのは容易に想像がつくほど快適だ。
2mを超える全幅は、運転しているとそれほど気にならない。運転席からの視認性がいいので、車両感覚がつかみやすいからだ。大きなボディーを苦手と感じる人は少なくないだろうけれど、例えばボディー前端の両脇がちゃんと目視できれば、物理的に大きすぎてこれ以上進めないところ、あるいは何かにヒットする可能性がある場所はあらかじめそれが確認できるから、ぶつけたり擦ったりする確率は低くなる。むしろ、ボディー前端がまったく見えない最近の小さなクルマのほうがよっぽどボディーを傷つけやすい。
日本の公道では、オクタのパワートレインのポテンシャルの3割くらいしか使えないだろう。それでもこのクルマがノーマルのディフェンダーとも、普通のSUVとも明らかに異なるすさまじいパワーも持っていることは確認できる。操縦性も乗り心地と同様に、6Dダイナミックサスペンションがばね上の動きを巧みにコントロールしてくれるから、無駄な動きのないスムーズで素早い旋回がいとも簡単にできる。
Gクラスの「Gターン」もそうだし、このオクタの250km/hの最高速や4秒の0-100km/hや1mの渡河水深性能などは、ほとんどのユーザーが所有期間中にそれを試すことはない(あるいはできない)だろう。そんなことはメーカーも重々承知しているけれど、性能をギリギリまで突き詰めたいというエンジニアの強いこだわりを、プロダクトに反映させたいという彼らの気持ちも分かるような気がする。そしてたとえ使う機会がないとしても、自分のクルマは“そういう性能”を備えているという事実が、付加価値としてユーザーの所有欲を満たしているのだとしたら、コレもアリなのかもしれないと思った。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)
テスト車のデータ
ディフェンダー・オクタ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×2065×2000mm
ホイールベース:3020mm
車重:2610kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:635PS(467kW)/6000-7000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5855rpm
モーター最高出力:19PS(14kW)/800-2000rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/250rpm
タイヤ:(前)275/50R22 115W M+S XL/(後)275/50R22 115W M+S XL(ミシュラン・プライマシー オールシーズン)
燃費:--km/リッター
価格:2099万円/テスト車=2237万1684円
オプション装備:ボディーカラー<ペトラカッパー>(0円)/マットプロテクティブフィルム(58万8000円)/22インチ“スタイル7026”ホイール<ダイヤモンドターンド、グロスブラックコントラスト>(14万1000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万8000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(6万0280円)/ディプロイアブルサイドステップ一式(55万4404円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:3379km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:507.6km
使用燃料:77.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.5km/リッター(満タン法)/6.9km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
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