自動車販売ランキングを席巻するトヨタ いつから(どうして)こうなった
2025.08.13 デイリーコラム勝ちすぎると飽きがくる!?
まずは2025年上半期(2025年1月〜6月)の車名別新車販売台数(軽は除く)を見ていただきたい。
- 1位:トヨタ・ヤリス(8万6942台)
- 2位:トヨタ・カローラ(7万5019台)
- 3位:トヨタ・シエンタ(5万6882台)
- 4位:ホンダ・フリード(4万9094台)
- 5位:トヨタ・ライズ(4万8269台)
- 6位:トヨタ・ルーミー(4万4889台)
- 7位:トヨタ・アルファード(4万4735台)
- 8位:日産ノート(4万3308台)
- 9位:トヨタ・アクア(4万1954台)
- 10位:トヨタ・プリウス(4万1508台)
なんとも面白みに欠けるランキングである。分かってはいたが、トヨタの圧勝だ。かなり前からこれが普通になっていたから特に驚きはない。年間トップ10にトヨタは2024年が6台、2023年が8台、2022年が7台、2021年が8台を送り込んでおり、ずっと無双状態なのだ。
もちろんトヨタがいいクルマをつくっているから売れているのだろうが、独占が続くのではつまらない。スポーツでは、強すぎる選手やチームがいるとそのジャンルが衰退するケースがよくある。テニスでは2000年代にウィリアムズ姉妹が連戦連勝してテレビ中継の視聴率が落ちたし、サッカーでは2012-2013シーズンからのバイエルン・ミュンヘン10連覇でブンデスリーガの人気が下がった。マンガでも主人公がいつも勝っていると読者から飽きられる。自動車だって、さまざまなメーカーの多種多様なクルマが競い合っているほうが、ユーザーにとってはうれしい。トヨタにも隙があるはずだ。探してみよう。
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後追いでは負けないトヨタ
トヨタが強いのは最近に限った話ではない。販売ランキングでは、1969年から2001年まで同じトヨタ車がトップに君臨していた。「カローラ」である。日本を代表する大衆車で、世界累計販売台数が5000万台を超えたグローバルカーでもある。サラリーマンが買う“初めてのトヨタ車”という位置づけで、出世するにつれて「コロナ」「マークII」に乗り換える。そして“いつかはクラウン”という構造ができあがっていた。セダンのヒエラルキーに対応するモデルをそろえ、全世代を囲い込む体制をつくり上げたのだ。
真っ向から張り合ったのが日産である。「サニー」「ブルーバード」「セドリック/グロリア」で対抗した。ブルーバードとコロナの壮絶な販売合戦は“BC戦争”と呼ばれたほどである。技術では日産が先行したもののトヨタは市場動向を見極める目で上回り、どのジャンルでも強固な地位を築いていった。
自動車の基本たるセダンを制覇したのだから盤石と思われたが、時代は変わる。1990年代になると、自動車のトレンドが大きく変化した。「三菱パジェロ」「日産テラノ」といったゴツいオフロードカーが台頭し、一方で乗用車感覚のミニバン「ホンダ・オデッセイ」が家族の心をつかむ。ステーションワゴンのファッション性が見直されて人気となる。セダン以外の選択肢が広がり、ユーザーの価値観が多様化した。変革期にはアイデア勝負になる。下克上のチャンスだ。
それでもトヨタの牙城は崩れなかった。ホンダのオデッセイや「ステップワゴン」の成功を見て「エスティマ」や「ノア」のFF化を断行。日産が「エルグランド」で大型高級ミニバンのジャンルを開拓すると、「アルファード」をぶつけて完全勝利を収める。長年の蓄積で、新しいニーズにすぐさま対応できるだけの技術とマーケティング能力を身につけていたのだ。売れ筋の模倣から始まっても、先行モデルを上回る魅力的な商品に仕上げてマーケットシェアを拡大していく。
象徴的なのが、2000年に登場した「ホンダ・ストリーム」のコンセプトをなぞって2003年に発売した「ウィッシュ」である。ストリームは5ナンバーサイズで3列シートを備え、ミニバンとワゴンを融合させていた。ホンダらしい発想の詰まったクリエイティブ・ムーバーをトヨタ的合理性で換骨奪胎し、本家よりも販売台数を伸ばす。ホンダはCMで「ポリシーは、あるか。」と痛烈な皮肉を放ったが、後の祭りだ。
後追いばかりではなく、トヨタが切り開いた新ジャンルもある。1994年の「RAV4」や1997年の「ハリアー」は、世界に先駆けたクロスオーバーSUVだ。国内外の自動車メーカーが追随し、今やクルマの主流となった。そして、「21世紀に間に合いました。」のキャッチコピーで知られる世界初のハイブリッドカー「プリウス」。当時の欧米メーカーは冷笑していたが、BEVへの移行が遅れるなかで彼らもようやくこのテクノロジーの重要性に気づいた。
鉄壁のラインナップ
トヨタの隙を探すはずだったが、なかなか見つからない。鉄壁である。あらためてベスト10を眺めてみると、見事なラインナップだ。1位の「ヤリス」は2000年代に入って日本で売れ筋となったコンパクトカーの代表格である。2位には古株のカローラ。どちらも「ヤリス クロス」「カローラ クロス」という派生のSUVがあり、販売台数の増加に貢献している。5位の「ライズ」も含め、人気のコンパクトSUVがそろった。
3位「シエンタ」は「フリード」と競い合うコンパクトミニバン。7位には大型高級ミニバン絶対王者のアルファード、9位と10位にはトヨタのお家芸ハイブリッドカーが並ぶ。ライズと6位の「ルーミー」は、どちらも開発と製造を子会社のダイハツが担っている。必要であればアウトソーシングを活用する柔軟性も備えているのだ。
トヨタ以外でトップ10に食い込んだのは、フリードと「ノート」である。フリードはスタイリッシュなフォルムとゆとりのある室内空間を両立させ、甘口デザインだったシエンタが2代目になる際に大きな影響を与えた。ノートはシンプルなシリーズ式ハイブリッドを採用し、モーター駆動の楽しさを広めた功績がある。いずれもトヨタとは異なるアプローチを追求してスマッシュヒットとなった。ホンダと日産が存在感を示しているということは、一度は破談した統合が実現すれば、トヨタを脅かす存在になるかも……。
トランプ関税の発動によって先行きが不透明化するなかで、日本の自動車メーカーは対応に苦慮している。トヨタも例外ではないが、豊田章男会長は石破 茂首相に米国で生産したクルマを日本へ輸入することを提案したそうだ。憎らしいほどの余裕である。どうやら、つけ入る隙はなさそうだ。
(文=鈴木真人/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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