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BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)

飛べよ! G/S 2025.10.04 試乗記 後藤 武 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
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そのスタイルが泣かせる

オフロードバイクにとって軽さは正義である。ライターのゴトーが若かった頃、オフロードは軽量なマシンで走るというのが常識だった。常識なんて書くと「ホントか?」と突っ込まれそうだが、周囲のバイク仲間も全員同じことを言っていたから、たぶん間違いない。

だから、1980年代にアドベンチャーバイクの先駆けとなる「BMW R80G/S」が登場したときは、「こんなものでオフを走る酔狂なライダーがいるのか?」と思った。当時の自分はレプリカブームに浮かれていたこともあって、BMWのフラットツインがISDT(International Six Days Trial)やパリ・ダカールラリーでスゴい強さを発揮しているなんて、まったく知らなかったのだ。

あれから四十余年、今日のバイクのトレンドを見ると、少し前から本格的なビッグオフローダーが続々と登場。大型バイクでダートを攻める“酔狂なライダー”が、ちょっとずつ増えてきた。

こういう状況を見て、パイオニアであるBMWが「本当のビックオフってヤツを教えてやる!」と送り出してきたのがR12 G/Sである。「いや、それはハイテク満載のフラッグシップ『R1300GS』のことじゃないの?」という人もいるだろうし、ゴトーも別に、開発者からそんな話を聞いたわけではない。しかし、こういう気持ちは間違いなくあったはずだ。なにせ、「やる気」がプンプンと漂ってくるようなバイクになっていたからである。

同じヘリテージモデルの「R12」よりメインフレームをつくり変え、長いサスペンションストロークに対応。「GSスポーツ」仕様ならモードセレクターには「エンデューロ・プロ」が追加される。しかもR80G/Sをほうふつさせるようなレトロデザインだ。好きな人が見たら、泣くんじゃないかと思う。1980年代はR80G/Sに見向きもしなかったゴトーでさえ、「ウォー! カッコいい」と叫んでしまったくらいである。

往年の名車「R80G/S」を思わせるデザインが目を引く「R12 G/S」。類似のコンセプトの機種としては、かつて「R nineTアーバンG/S」というモデルも存在したが、こちらは本格的なオフロード性能を備えている点が、アーバンG/Sとは大きく異なっている。
往年の名車「R80G/S」を思わせるデザインが目を引く「R12 G/S」。類似のコンセプトの機種としては、かつて「R nineTアーバンG/S」というモデルも存在したが、こちらは本格的なオフロード性能を備えている点が、アーバンG/Sとは大きく異なっている。拡大
BMWいわく、車名の「G/S」は「Gelände(ゲレンデ:大地)/Straße(シュトラーセ:道)」の意味。「R1300GS」「R900GS」などの「GS」は「Geländesport(ゲレンデシュポルト)」の意味なので、これらのモデルでコンセプトが異なっているのがわかる。
BMWいわく、車名の「G/S」は「Gelände(ゲレンデ:大地)/Straße(シュトラーセ:道)」の意味。「R1300GS」「R900GS」などの「GS」は「Geländesport(ゲレンデシュポルト)」の意味なので、これらのモデルでコンセプトが異なっているのがわかる。拡大
ネオクラシックの「R12」ファミリーに属する「R12 G/S」だが、言われなければわからないほど大幅な変更が加えられている。フレームはステアリングヘッドを高く、前方に配置することでオフロードでの自在な操作性を追求。サスペンションのストローク量は前:210mm、後ろ:200mmで、最低地上高は240mmとなっている。
ネオクラシックの「R12」ファミリーに属する「R12 G/S」だが、言われなければわからないほど大幅な変更が加えられている。フレームはステアリングヘッドを高く、前方に配置することでオフロードでの自在な操作性を追求。サスペンションのストローク量は前:210mm、後ろ:200mmで、最低地上高は240mmとなっている。拡大
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軽快な身のこなしと気持ちのよいエンジン

最初に走ってみたのはオンロードだ。いくらオフロード性能が高くても、普段走るのは圧倒的に舗装路が多いことは間違いない。走りだそうとして車体を起こしたときに感じたのが軽さ。乾燥重量216kg(ガソリン100%の車両重量は234kg)ということだが、体感的には2割くらい軽く感じる。フラットツイン特有のヤジロベエ効果と重心位置もあって、冗談ではなくミドルクラスレベルではと思ったくらいだ。

エンジンは低中速から力強くて高回転までよどみなくきれいに回る。スポーティーにワインディングロードを走りたいと思ったときも、十分すぎるくらいのパワーがある。ちなみに、このマシンの前に試乗したR1300GSのエンジンと比べてみると、R12 G/Sのほうがフライホイールマスを強めに感じる。パワフルでありながらも若干のマッタリ感が同居しているようなフィーリングだ。どちらがいいかはライダーの好みによるのだけれど、昔ながらのフラットツインの味わいは、R12 G/Sのほうが濃く残されている印象だ。

クイックシフターの作動はアップ、ダウンともに良好。ただしR1300GSほど緻密に制御されている感じではなく、わずかに変速のショックを感じることがある。高回転でシフトアップすると、上のギアに入った瞬間、車体がグンと押し出されるのだ。大きなフライホイールマスとシフターの作動の関係なのだけれど、「行くぜ!」とバイクがはしゃいでいるように感じられて、不快ではない。

BMWのフラットツインモデルは、エンジンがほぼ重心位置に搭載されていることや、縦置きクランクによるジャイロ効果の小ささなどによって、ハンドリングが軽快だ。もちろんR12 G/Sにもこの美点は受け継がれている。加えて車高が高いことから、タイトコーナーもヒラヒラとクリアしてくれる。低重心のスポーツバイクとは違った楽しさである。

ハンドルの切れ角も大きくて、車体が軽いからUターンも簡単。フロントにはBMWお得意のテレレバーではなく、一般的な倒立のテレスコピックタイプのフォークを採用していて、なおかつストローク量が多いから、オンロードでハードにブレーキすると若干ピッチングモーションが大きく出る。とはいえ、それも乗りにくいというレベルではない。このハンドリングと中速域のパワーは、ストリートを楽しむうえでとても大きな魅力になると思う。

気になったのは、オフロード走行を考慮したシートが、ちょっと固めだったこと。ロングツーリングで尻が痛くなりそうな気もするけれど、カスタムシートも登場してくるだろうから、もし気になるならいろいろ対策できるはず。ちなみにGSスポーツのシート高は875mmだけれど、身長178cmのゴトーがまたがって両足をついたときに、かかとが若干浮く程度。極端にシートが高いという印象は受けなかった。

カラーリングは「R80G/S」を想起させる「ライト・ホワイト」(写真向かって右)に、「Option 719」専用色となる「サンドローバー・マット」(同左)、そして「ナイト・ブラック・マット」の3種類が用意される。
カラーリングは「R80G/S」を想起させる「ライト・ホワイト」(写真向かって右)に、「Option 719」専用色となる「サンドローバー・マット」(同左)、そして「ナイト・ブラック・マット」の3種類が用意される。拡大
メーターは機械式速度計のみのシンプルな単眼式。走行距離やセレクト中のライディングモードなどは、下部の小さなディスプレイで確認する。
メーターは機械式速度計のみのシンプルな単眼式。走行距離やセレクト中のライディングモードなどは、下部の小さなディスプレイで確認する。拡大
1169ccの排気量を持つ空油冷ボクサーエンジン。109PSの最高出力と115N・mの最大トルクは、発生回転数ともども「R12 nineT」と共通だ。燃費は19.6km/リッター(WMTCモード)で、最高速は210km/hと公称されている。
1169ccの排気量を持つ空油冷ボクサーエンジン。109PSの最高出力と115N・mの最大トルクは、発生回転数ともども「R12 nineT」と共通だ。燃費は19.6km/リッター(WMTCモード)で、最高速は210km/hと公称されている。拡大
シート高は標準モデルで860mm、試乗車の「GSスポーツ」(写真)で875mm。販売店オプションで用意される、よりオフロード走行に適した「ラリーハイシート」を装着すると、さらに20mmシート高が高くなる。
シート高は標準モデルで860mm、試乗車の「GSスポーツ」(写真)で875mm。販売店オプションで用意される、よりオフロード走行に適した「ラリーハイシート」を装着すると、さらに20mmシート高が高くなる。拡大
試乗会場周辺の舗装路を走る「R12 G/S」。試乗車は悪路走破性を高めた「GSスポーツ」仕様だったが、これならオンロードも十分に楽しめそうだ。
試乗会場周辺の舗装路を走る「R12 G/S」。試乗車は悪路走破性を高めた「GSスポーツ」仕様だったが、これならオンロードも十分に楽しめそうだ。拡大

オフロードが楽しすぎる!

オフを走っても軽いという印象は変わらない。むしろ強まった感じがする。これはたぶん、自在感の高いハンドリングと優れた走行安定性のおかげ。砂でフロントがとられようが、リアタイヤがスライドしようが、まったく不安なし。「車体が重くて大変」なんてことは一瞬たりとも思わなかった。調子に乗って「やべえ、飛びすぎた」なんて大ジャンプを披露しても、みじんも怖くないし、サスペンションもシッカリとショックを吸収してくれる。

エンジンは実に扱いやすい。大きなフライホイールマスがオフでもいい仕事をしているのだ。レスポンス自体は鋭いのだけれど、絶妙な乗りやすさがあるのは、間違いなくこのフライホイールマスのおかげ。だから、この排気量なのにちゅうちょすることなく、思い切りスロットルを開けることができる。

トラクションコントロールも秀逸だ。試乗中はGSスポーツの特権であるエンデューロ・プロモードで走っていたのだけれど、コーナーの立ち上がりでスロットルを全開にすると、リアがわずかに滑ったところでそれを止めてくれる。ウオッシュボードなどに遭遇したらすごい苦労することになるだろうが、今回の試乗会場となった「モトフィールド榛名」は、路面状況のよいダートにジャンプ台を組み合わせたようなコースだったから、「R12 G/S、無敵じゃん」と思えるような走りを楽しめたのである。

試乗する前は、「疲れるから撮影終わったら走るのやめるよ」なんてカメラマンと編集に言っていたのに、30分近く走って、しかもかなりペースを上げていたにもかかわらず、まったく疲れることがなかった。これはバイクが過敏な特性ではなく、暴れるようなそぶりを見せなかった証拠だ。普段、オフロードを走っていないゴトーが、こんなにも思い切ってビックオフローダーを操れるなんて思わなかった。試乗後、アドバイザーを務めていた松井 勉氏に「どうだった?」と聞かれたので、「モトクロッサーより楽しかった」と笑顔で答えてしまったのであった。

相対的なパフォーマンスに関しては、ライバルと速さを比較したわけではないのでハッキリしたコメントはできないが、ひとつだけ言えることがある。R12 G/S GSスポーツのオフロードは、メチャクチャに楽しいということだ。カッコいいバイクだし、オフロード派でないライダーもR12 G/Sを購入することはあると思う。しかし、もしこのマシンを手に入れたなら、ぜひコースを走ってみてほしい。たぶん予想外に簡単に走れてしまうことに驚き、そしてその楽しさに夢中になってしまうだろう。

(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

今回の試乗車、撮影車はいずれも「GSスポーツ」仕様で、ハンドルバーライザーやハンドプロテクター、大型のエンジンガード、ロングサイドスタンドなどが装備されていた。
今回の試乗車、撮影車はいずれも「GSスポーツ」仕様で、ハンドルバーライザーやハンドプロテクター、大型のエンジンガード、ロングサイドスタンドなどが装備されていた。拡大
走行モードは「レイン」「ロード」「エンデューロ」の3種類で、「GSスポーツ」ではさらに「エンデューロ・プロ」モードが追加される。このモードではスロットルレスポンスがダイレクトなものとなり、トラクションコントロールとフロントABSの介入を最小限に抑制。リアABSなどの機能はオフとなるため、適度にタイヤを滑らせて遊ぶこともできる。
走行モードは「レイン」「ロード」「エンデューロ」の3種類で、「GSスポーツ」ではさらに「エンデューロ・プロ」モードが追加される。このモードではスロットルレスポンスがダイレクトなものとなり、トラクションコントロールとフロントABSの介入を最小限に抑制。リアABSなどの機能はオフとなるため、適度にタイヤを滑らせて遊ぶこともできる。拡大
標準仕様のホイールサイズはフロントが21インチ、リアが17インチだが、「GSスポーツ」ではリアが18インチとなる。ブロックタイヤが装着されるのもGSスポーツの特徴だ。
標準仕様のホイールサイズはフロントが21インチ、リアが17インチだが、「GSスポーツ」ではリアが18インチとなる。ブロックタイヤが装着されるのもGSスポーツの特徴だ。拡大
ジャンプ台で宙を舞う「R12 G/S」。着地のショックはストロークの大きなサスペンションが吸収。安定性も非常に高く、姿勢が乱れることもない。
ジャンプ台で宙を舞う「R12 G/S」。着地のショックはストロークの大きなサスペンションが吸収。安定性も非常に高く、姿勢が乱れることもない。拡大
「疲れたらすぐに降りるよ」と言っておきながら、試乗枠の終わりまでコースから出なかったテスター。それほどまでに、オフロードでの「R12 G/S」の走りは楽しかったのだ。
「疲れたらすぐに降りるよ」と言っておきながら、試乗枠の終わりまでコースから出なかったテスター。それほどまでに、オフロードでの「R12 G/S」の走りは楽しかったのだ。拡大

テスト車のデータ

BMW R12 G/S GSスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2285×970×1250mm
ホイールベース:1580mm
シート高:875mm
重量:234kg
エンジン:1169cc 空油冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:109PS(80kW)/7000rpm
最大トルク:115N・m(11.7kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費: 19.6km/リッター(WMTCモード)
価格:258万7000円

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後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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