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BMW R12 G/S(6MT)

空と風と土を感じながら 2025.07.11 試乗記 佐川 健太郎(ケニー佐川) 往年の名機を現代の解釈でよみがえらせた「BMW R12 G/S」。世界初のアドベンチャーバイクとされる「R80G/S」の面影と、モダンなテクノロジーが融合した一台は、いかなる魅力を備えているのか? モーターサイクルジャーナリストのケニー佐川氏が報告する。
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伝説はカタチを変えて今を生きる

世界初のアドベンチャーバイクとされる「BMW R80G/S」は1980年にドイツで生まれた。Gは“ゲレンデ=オフロード”、Sは“シュトラッセ=ストリート”。オンもオフも自由に走るそのコンセプトは多くの冒険者たちを魅了し、パリ・ダカールラリーでも数々の栄光を手にした。その1980年代スピリットを今の技術で丁寧に磨き上げたのが、このR12 G/Sである。

往年のR80G/Sをほうふつとさせる丸目ヘッドライトや、ビッグオフ然とした懐かしいスタイリングが、見る者を引きつける。車体サイズもR80G/Sとほぼ同じで、カラーリングで「ライト・ホワイト」を選択すれば、赤いシートから白/青の特徴的なタンクのグラフィックまで、忠実に再現。伝統と最新技術が融合した、堂々のネオクラシックアドベンチャーだ。

搭載されるのは、R12シリーズでおなじみの1170cc空油冷ボクサーツイン。伝統のシャフトドライブとの組み合わせで、専用設計のスチールフレームに搭載する。前210mm/後ろ200mmの長いストロークをもつサスペンション、前21インチ/後ろ17インチのワイヤースポークホイールは、どんな道も選ばない覚悟の表れだ。そして「レイン/ロード/エンデューロ」の3つの設定をもつライディングモードや、コーナリング対応のトラクションコントロール&ABSなど、最新の電子デバイスが、冒険をしっかりサポートしてくれる。

往年の「R80G/S」をモチーフにしたデザインが目を引く「R12 G/S」。今日のR12シリーズのコンポーネントを用いた、クラシックアドベンチャーだ。
往年の「R80G/S」をモチーフにしたデザインが目を引く「R12 G/S」。今日のR12シリーズのコンポーネントを用いた、クラシックアドベンチャーだ。拡大
エンジンは1170ccの排気量をもつおなじみの空油冷フラットツイン。ロードスポーツの「R12 nineT」と同じく、109PS/7000rpmの最高出力と115N・m/6500rpmの最大トルクを発生する。
エンジンは1170ccの排気量をもつおなじみの空油冷フラットツイン。ロードスポーツの「R12 nineT」と同じく、109PS/7000rpmの最高出力と115N・m/6500rpmの最大トルクを発生する。拡大
X型のシグネチャーが目を引く5.75インチのヘッドランプをはじめ、灯火類はいずれもLED式。オプションでアダプティブヘッドランプも用意される。
X型のシグネチャーが目を引く5.75インチのヘッドランプをはじめ、灯火類はいずれもLED式。オプションでアダプティブヘッドランプも用意される。拡大
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マイルドな乗り味が生む懐の深さ

またがった瞬間にまず覚えたのは、安心感。構えなくてもいい。気取らなくてもいい。ただ風に乗って走ればいい。そんな空気感がこのバイクにはある。

走りだすと、パワーは109PSと控えめながら低速からグイッと粘るトルク特性で、扱いやすさは抜群だ。初めての大型バイクでも、きっと戸惑うことは少ないはず。空油冷ボクサーの角が取れた心地よい鼓動は、最新の水冷モデルにはない“ぬくもり”を感じさせてくれる。

「R1300GS」のような、圧巻のパフォーマンスやシャシーの剛性感とは異なる、より穏やかでマイルドな乗り味が特徴。ビギナーには扱いやすく、ベテランも心に余裕をもって付き合えるフレンドリーな性格だ。特に標準仕様は、オンロード志向のタイヤとジオメトリーによって、軽快で自然なハンドリングを実現。日本ではなかなか見られない、欧州特有のハイスピードな田舎道では、BMWらしい安定感があるし、峠道のタイトコーナーでもフロント21インチを感じさせない素直な曲がり方をする。

ライディングポジションは着座/スタンディングともに自然なフィット感があり、フォームの自由度も高い。荒れた舗装路でも長い足がしなやかに入力を吸収してくれるので疲れにくい。加えて、試乗車にはクイックシフター、クルーズコントロール、グリップヒーターなどのオプション装備が採用されていて、快適なツーリングが楽しめた。さすがに高速道路では風圧を感じるが、それでも空油冷ボクサーのスムーズな鼓動感とともに、200kmを一気に走れてしまった。性能を誇示するのではなく、ライダーに寄り添う。R12 G/Sはそんな存在として大きな満足を得られると思う。

車両骨格はスチール製のチューブラースペースフレームで、エンジンも剛体として使用。車重は空車重量で229kgとなっている。
車両骨格はスチール製のチューブラースペースフレームで、エンジンも剛体として使用。車重は空車重量で229kgとなっている。拡大
シート高はオフロードモデルだけに、標準仕様で860mm、「エンデューロ・パッケージ・プロ」装着車で875mmと高めだ。
シート高はオフロードモデルだけに、標準仕様で860mm、「エンデューロ・パッケージ・プロ」装着車で875mmと高めだ。拡大
サスペンションは前がφ45mmの倒立フォーク。後ろがアルミの片持ちスイングアームと直結式のモノショックの組み合わせだ。ともにリバウンドとコンプレッションの減衰力調整機能が付く。
サスペンションは前がφ45mmの倒立フォーク。後ろがアルミの片持ちスイングアームと直結式のモノショックの組み合わせだ。ともにリバウンドとコンプレッションの減衰力調整機能が付く。拡大
ブレーキは、前がφ310mmのダブルディスクと2ピストンキャリパーの、後ろがφ265mmのディスクと2ピストンキャリパーの組み合わせだ。
ブレーキは、前がφ310mmのダブルディスクと2ピストンキャリパーの、後ろがφ265mmのディスクと2ピストンキャリパーの組み合わせだ。拡大

構えず、飾らず、ただ楽しむ

続いて試乗はオフロードへ。コースでわれわれを待っていたのは「エンデューロ・パッケージ・プロ」仕様のR12 G/Sだった。18インチのリアホイールにオフロードタイヤ、大型ガードやハンドルライザーなど、本気の装備を備えた一台だ。

ヒルクライム、ガレ場、砂地──どんな場面でもしっかりと地面をつかみ、どっしりと安定しているのが低重心なフラットツインの強みだろう。そこに加わるのが電子制御のサポートで、トラコンもABSも、まるで見えない相棒のようにそっと陰で支えてくれる。難しいことは考えず、ただ“走ること”に集中できるのが素晴らしい。1速はしっかり粘るので、急な上りもさほど勢いをつけなくてもトコトコ登れるし、クイックシフターのおかげで1・2速の切り替えも駆動力が途切れることなく、素早く、簡単。唯一、乾式クラッチだけは発進時に少し気を使うが、それもすぐに慣れるだろう。そもそも低速トルクが充実しているので、ダートでも走行中に半クラはほぼ使わずに済むのだ。

慣れてきたところで、ライディングモードを「エンデューロ・プロ」に切り替えると、制御がスッと後ろに控え、気がつくと軽くテールを流したり、後輪で土煙を巻き上げたりして楽しんでいる自分がいる。試乗の仕上げにコースを離れて郊外の丘陵地をトレッキングしたが、森を越え、川を渡り、草原を駆ける。まるで冒険小説の主人公になったような気分だった。

R12 G/Sは、ただクラシカルなだけのバイクではない。懐かしい見た目の奥には冒険に必要なすべてが詰まっている。そして、なにより“バイクに乗る楽しさ”をもう一度思い出させてくれる存在だ。どこまでも走りたくなる気軽さと、土の匂いが恋しくなる本格性。それをこの一台で両立している。もしあなたが「いつかはアドベンチャーを」と思っているなら、このバイクはその“最初の一歩”にぴったりかもしれない。

(文=佐川健太郎/写真=BMWモトラッド/編集=堀田剛資)

オプションの「エンデューロ・パッケージ・プロ」を選択すると、悪路向けのフットレストやリア18インチホイール、オフロードタイヤ、ハンドルバーライザー、ハンドプロテクター、大型のエンジンガード、ロングサイドスタンドが装備される。
オプションの「エンデューロ・パッケージ・プロ」を選択すると、悪路向けのフットレストやリア18インチホイール、オフロードタイヤ、ハンドルバーライザー、ハンドプロテクター、大型のエンジンガード、ロングサイドスタンドが装備される。拡大
タイヤサイズは前が90/90-21、後ろが150/70R17で、「エンデューロ・パッケージ・プロ」を選択すると、後ろのサイズは150/70R18となる。悪路での試乗車のタイヤは「メッツラー・カルー4」だった。
タイヤサイズは前が90/90-21、後ろが150/70R17で、「エンデューロ・パッケージ・プロ」を選択すると、後ろのサイズは150/70R18となる。悪路での試乗車のタイヤは「メッツラー・カルー4」だった。拡大
「エンデューロ・パッケージ・プロ」装着車では、ライディングモードに「エンデューロ・プロ」が追加される。このモードでは、スロットルレスポンスが「ロード」モードと同じダイレクトなものとなり、またトラクションコントロールとフロントABSの介入を、最小限に抑制。リアABSを含め、そのほかの制御機能はすべてオフとなる。
「エンデューロ・パッケージ・プロ」装着車では、ライディングモードに「エンデューロ・プロ」が追加される。このモードでは、スロットルレスポンスが「ロード」モードと同じダイレクトなものとなり、またトラクションコントロールとフロントABSの介入を、最小限に抑制。リアABSを含め、そのほかの制御機能はすべてオフとなる。拡大
「R80G/S」を思わせる意匠だけでなく、走りに関してもアドベンチャーモデルとしてしっかりつくり込まれていた「R12 G/S」。ビギナーにもベテランにも、広くお薦めしたい。
「R80G/S」を思わせる意匠だけでなく、走りに関してもアドベンチャーモデルとしてしっかりつくり込まれていた「R12 G/S」。ビギナーにもベテランにも、広くお薦めしたい。拡大

テスト車のデータ

BMW R12 G/S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2200×830×--mm
ホイールベース:1580mm(「エンデューロ・パッケージ・プロ」装着車は1585mm)
シート高:860mm(「エンデューロ・パッケージ・プロ」装着車は875mm)
重量:229kg(DIN空車重量)
エンジン:1170cc 空油冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:109PS(80kW)/7000rpm
最大トルク:115N・m(11.7kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.1リッター/100km(約19.6km/リッター、WMTCモード)
価格:249万3000円~269万2000円

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佐川 健太郎(ケニー佐川)

佐川 健太郎(ケニー佐川)

モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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