懐古主義と侮るなかれ! 「BMW R12 G/S」に宿る、歴史と技術と先駆者の自負
2025.08.22 デイリーコラム“GS”と“G/S”では出発点が違う
BMWにとって「GS」は、ラインナップの一部を構成する、ただのアドベンチャーモデルではない。販売台数でも知名度でも、ブランドを支える屋台骨なのだ。それと同時に、彼ら独自の安全技術や快適装備、パフォーマンス追求の過程で生まれた新しいコンポーネント、先進的な電子制御技術などが真っ先に投入される、非常にアバンギャルドなモデルでもある。
しかし「R12 G/S」は、そのGSの進化とは異なる文脈に立つ一台だ。
BMWは2025年3月、自社のヘリテージファミリーに属する「R12」シリーズの新型車として、オフロードスタイルの「R12 G/S」を発表。日本でも同年8月より販売を開始した。
R12シリーズといえば、2013年にブランドの創立90周年を記念して登場した「R nineT」、ならびにそのモデルファミリーの後継を担うクラシックモデルである。ロードスターの「R12 nineT」、クルーザースタイルの「R12」、「R90 S」からインスピレーションを受けた「R12 S」とラインナップを増やしてきたが、そのいずれもが往年のバイクをほうふつとさせる、ノスタルジックな装いをまとっている。新たに加わったR12 G/Sも例外ではなく、先進性を旨とする現在のGSファミリーとは、異なる血筋であることが、視覚的にもわかるのだ。
この差異化はモデル名にも表れており、R12 G/SではGとSの間にスラッシュが入る。このスラッシュは「R1300GS」や「F900GS」「G310GS」では見られないもので、そこにもBMWの思いが込められている。
BMWによると、G/Sとは「Gelände(ゲレンデ:大地)/Straße(シュトラーセ:道)」というドイツ語の頭文字をとったもので、すなわち「オフロード/ストリート」を意味する。対するGSは「Geländesport(ゲレンデシュポルト)」で、その意は「オフロードスポーツ」だ。オンロードとオフロード、両方の走行性を高めようするG/Sと、オフロードでのスポーツ性を追求したGSでは、出発点が異なっているのだ。
“アドベンチャー”というジャンルを築いた二面性
これについては、BMWがオフロードカテゴリーに進出してきた当初は、後者……すなわち“GS”だった点も興味深い。それは1977年に登場した、「GS800」という大排気量オフロードバイクのプロトタイプだった。
そもそも悪路走行のために専用設計された、いわゆるオフロードバイクが二輪市場に登場したのは、1960年代後半のことだ。それまでは、オンロードモデルをベースに足の長いサスペンションやアップマフラーをセットした“スクランブラー”が主流で、もとより性能には限度があった。専用設計のバイクの登場により、それが大きく飛躍したのだ。
こうしたモデルの登場はオフロード競技の隆盛につながり、特に長距離を走り、速さを競うエンデューロレースやラリーが盛んになっていった。そうなると、軽さやハイパワーを求めた既存のオフロードバイクとは異なり、耐久性に優れ、長距離走行に適したエンジン性能と車体性能を持つマシンが求められるようになる。マシンと競技、両方の先鋭化を象徴するパリ・ダカールラリーが始まったのは、1979年のことだ。
期を前後して、BMWでは1977年に先述のGS800を開発。翌1978年にドイツオフロード選手権に参戦し、準優勝する。このプロトタイプは「GS80」へと進化し、1979年にはドイツオフロード選手権に加え、6日にわたり山野を駆けるISDT(インターナショナル・シックス・デイ・トライアル)の無制限クラスでも、タイトルを獲得してみせた。
このGS800とGS80という2台のプロトタイプの成功が、BMWのオフロードカテゴリーにおける基となったのだ。いや正確には、これらプロトタイプの成功を、1980年に登場する初のG/Sモデル「R80 G/S」の赤じゅうたんにするという、BMWが練り上げた戦略だったのである。
しかも、プロトタイプはオフロードレースにまい進する“GS”であるいっぽうで、市販車はそのコンペティションイメージを内包しつつも、過激さを抑え、ロングツーリングでの快適性というオンロード的要素も併せ持つデュアルパーパスモデル、すなわち“G/S”にまとめ上げたのである。
当時の二輪車市場はパフォーマンス競争の真っただ中にあり、その世情からすると、このコンセプトは中途半端に受け止められることもあった。しかしR80 G/Sの二面性は、後にデュアルパーパスモデルのブームにつながり、それが“アドベンチャー”というバイクカテゴリーの土台となったのだ。
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ノスタルジックなモデルであろうと
とはいえ、R80 G/Sはパリダカでも活躍した。1981年にユベール・オリオールが初優勝を果たすと、83年にふたたびオリオール、84/85年にガストン・ライエと、短期間のうちに3連覇を含む4勝を獲得。ラリーにおける多気筒・大排気量エンジンの優位性を証明した。
しかし、BMWは1985年をもってパリダカへのファクトリー参戦を終了する。1987年に登場した「R100GS」および「R80GS」では車名からスラッシュが消え、“ゲレンデシュポルト”へと製品の立ち位置も変更。競技から離れてもGSの名に恥じぬよう、パラレバーやトルクサポート、クロススポークなど、現行機種にもつながる新しい技術を次々に搭載していった。1988年に登場した「R100GSパリ・ダカール」は、大型燃料タンクやフレームマウントのフロントカウル、エンジンガードに大型パニアケースを装着。これが現GSシリーズのバリエーションモデルである「GSアドベンチャー」の前身となった。
話を最新のR12 G/Sに戻すと、今回、新たにラインナップに加わったこの機種は、50年近く続くGSの歴史のなかで重要な役割を果たした、「スラッシュが付いた時代のG/S」に思いをはせたモデルであるという。それでいてユニークなのが、スタンダードモデルのほかに、リアに18インチホイールを装着してオフロードでの走破性を高めた「GSスポーツ」もラインナップしている点で、このバリエーションモデルには、オフロード走行に特化した走行モードや電子制御システムからなる「エンデューロパッケージプロ」も用意しているという。
この、“G/S”のなかにあって“GS”を名乗る仕様の設定は、「いまのBMWの力をもってすれば、ゲレンデでもシュトラーセでも、あるいはゲレンデシュポルトの領域でも、先進のテクノロジーと長年のノウハウでもって他を寄せ付けないパフォーマンスを実現できる」という自信の表れだろう。ノスタルジックないでたちから注目を浴びているR12 G/Sだが、その背景には、これだけの歴史と技術の蓄積と、BMWの自負があるのだ。これを単なる懐古主義のバイクと侮らないほうがいい。
(文=河野正士/写真=BMW、webCG/編集=堀田剛資)
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河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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