ホンダ・プレリュード(FF)
カニかま級の大発明 2025.12.30 試乗記 ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは?伝統を引き継がないという伝統
およそ四半世紀ぶりに復活したホンダのスペシャリティーカー、6代目プレリュードと対面したのは、朝ぼらけの中央道富士吉田線の谷村PAで、だった。このSUVの全盛のさなか、タイパだのコスパだの……という時代に、2ドア+リアゲートの2+2クーペがニッポンの自動車メーカーから提案されたのであるからして、これをことほぎたいと思うのは筆者も同じである。
フロントは「トヨタ・プリウス」に似ており、後ろ姿はリアフェンダーの膨らみがちょっとばかしポルシェっぽくセクシーで、これを可とすべきか、いや、5代続いたプレリュードの伝統であるノッチバックを引き継ぐ手法もあったのではないか……と外野、というよりはフィールド・オブ・ドリームスの外の人である筆者は勝手にそう思う。しかしてホンダには伝統を引き継がない。という伝統がある。テールゲートはあるほうが実用性が増すこともまた確かだ。
もうちょっとたつと、憧れのカタチになり、2代目のCMで使われたラヴェルの『ボレロ』、あるいは新型のCMでも流れている3代目のCMの『地下室のメロディー』の鮮烈な音楽が見た瞬間、聞こえてくる……ようになるやも知れぬ。
大きなドアを開けて乗り込む。着座位置は低い。とはいえ、乗り降りに苦労するほどの低さではない。コックピットは見慣れたホンダのそれだ。全幅1880mmとモダンなプロポーションのため、室内幅はかなり広く居住空間に窮屈感はない。
プラットフォームは「シビック タイプR」がベースで、前1625mm/後ろ1615mmのトレッドはタイプRと同じだ。ただし、2605mmのホイールベースは130mmもカットされている。ホイールベース/トレッド比は「これまでのホンダのスポーツモデルを参考にしながら直進安定性と旋回性能を両立できる比率に設定」した、と公式発表にあるように、新型プレリュードのそれは1.6と、「NSX」(2代目)の1.58に近い数値に仕立ててある。
硬軟自在の足まわり
パワーユニットは「シビック」「ZR-V」「アコード」でもおなじみの2リッター直列4気筒直噴エンジンLFC型と2モーターの組み合わせの前輪駆動用ハイブリッド。その「e:HEV」に「ホンダS+(エスプラス)シフト」なる新機軸を加えている。うわさのS+シフトについては後述する。
サスペンションは可変ダンピング付きで、「スポーツ」「GT」「コンフォート」と3つのドライブモードが設定されている。「インディビジュアル」でパワートレイン、ステアリング、サスペンション等、6項目を個別に設定することもできる。デフォルトのモードはGTで、再始動のたびにそれに切り替わる。
タイヤは前後235/40R19という極太偏平大径サイズで、日本車としては珍しくコンチネンタルの「プレミアムコンタクト6」なる「スポーティーコンフォートタイヤ」が選ばれている。
谷村PAから出て、まずは普通に走ってみる。e:HEVなので静かである。ホンダ独自のノイズリデューシングタイプのホイールを装着している効果もあるのかもしれない。
乗り心地は、それほど快適ではない。富士吉田線の路面はそう悪くもなさそうだけれど、40の19インチを履いていることからも自明ながら、優しい印象の外見から想像されるより硬派なのだ。80km/h巡航(制限速度)では設定速度が低すぎるのかもしれない。試しにコンフォートにしてみると、今度はふわふわにすぎる。街なか用の設定だろうから、使い方が間違っているのだ、おそらく。スポーツに切り替えるとメーター画面が赤くなり、エンジン音が高まって乗り心地もグッと引き締まる。こいつは硬い。
適度に速く適度にスポーティー
そうやって走っているうちに、自分の体が新型プレリュードに慣れてきて、私の勝手な先入観が消え去ると、これは快適なクルーザーである。と思えてくる。GTでもスポーツでも、ガチガチに硬いわけではない。タイプRがベースという割には、もうちょっと優しい。ボディーの剛性感もそれほど高いようには感じられない。といってユルいわけではない。優しさはクッションに厚みがあって柔らかめなシートからくる印象かもしれない。
低重心ゆえの安定感、安心感が高速巡航時にはあって、スポーティークーペというのはやっぱりいいものだと再認識する。後席はヘッドルームがミニマムで、基本的に、ひとりか、ふたりで乗るものと考えるべきである。好きな人と一緒なら、このライトグレーの内装もバラ色に変わるんだろうなぁ……なんてことを夢想する。ふたりの世界。都心から河口湖あたりまでクーペでドライブなんて、ステキですよねぇ。
e:HEVは1993ccの4気筒DOHCアトキンソンサイクルが最高出力141PS/6000rpm、と最大トルク182N・m/4500rpmを、駆動用モーターが184PS/5000-6000rpmと315N・m/0-2000rpmをそれぞれ発生する。車重1460kgには十分なパワー、十分以上のトルクである。モーレツに速いわけではなくて、適度に速い、適度にスポーティーなところが好ましい。
センターコンソールのS+シフトのボタンを押してみると、スクリーンにタコメーターが現れる。でもってステアリングの左側の「-」マークの付いたパドルを引くと、ブリッピングして、つまりエンジン回転がブオンッと上がってギアをダウンする。ような振る舞いを披露する。これがS+シフトの真骨頂である。見せかけの段つきシフトアップはすでに存在していたけれど、シフトダウンで実現したところが素晴らしい。
e:HEVはエンジンと直結した発電用モーターと、駆動用モーターを持っていて、通常はモーターで走行する。ただし、内燃機関のほうが効率のよい高速巡航時にはエンジンと駆動輪の間のクラッチをつないでエンジン駆動に切り替わる。その際もエンジンと駆動輪は直結で、機械式の変速機は備えていない。つまり見せかけのシフトダウンなのだ。
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走るドライビングシミュレーター
とS+シフト。これぞホンダの人間研究のたまものというべきであろう。「仮想の8段変速で加減速時に緻密にエンジン回転数をコントロールし、あたかも有段変速であるかのようなダイレクトな駆動レスポンスと鋭いシフトフィールを実現」しているだけでなく、「エンジン回転数と同期した迫力のある音をスピーカーから流す(中略)アクティブサウンドコントロールシステム、およびこれと協調し俊敏に反応するメーターなどにより、乗る人の五感を刺激し、よりドライバーとクルマが『Synchronize(一体化)』する」ような試みが実現されているのだ。いわば、なんちゃって内燃機関車、もしくは「走るドライビングシミュレーター」である。
これがめちゃんこ爽快なのだ。エンジンを回し切っている快感がある。河口湖から西湖にかけての、ちょっとしたワインディングロードを走っているときの気持ちよさといったら、ピュア内燃機関以上のものがあるかもしれない。
それというのも、ひとつにはモーター駆動ならではのスムーズな走行感覚がある。ひょっとして、これはV6、それとも小排気量のV8か、と知らない人は思うかもしれない。もうひとつは、開発に3年を費やしたという臨場感たっぷりのサウンドの効果だ。これに騙される。音質は小排気量のバイク、といってもいろいろあるから、やたらな比喩はやめておこう。ともかく音質は軽やか、かつまろやかで、低いギアで6000rpmまで回したときの苦しげなところもすばらしい。苦しげだから、シフトアップ(ニセだけど)したときの伸び感が心地よい。見事な調律ぶりである。ドライブモードをスポーツにすれば、タコメーターの針が500prmほど高いところを指し、音量が大きくなって、アクセルに対する反応のキレも増す。コーナー進入時には減速の加減で自動的にブリッピングしながらギアを下げる(フリをする)。このとき、エンジンの回転数を実際に上げて発電量を増やし、次の加速に備えている、というのだから、たまげる。
内燃機関車のフリをするモーター駆動のハイブリッド! ホンダはS+シフトをほかのモデルにも順次採用していくというけれど、こういうものが本当に正しい進歩、進化なのか? う~む。正直申し上げて私には判断がつかない。つかないけれど、カニかまぼこは好きである。きみはカニかまを否定できるか? S+シフトはカニかまに匹敵する大発明である。そりゃもう、世界は大騒ぎになるだろう。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)
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テスト車のデータ
ホンダ・プレリュード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1880×1355mm
ホイールベース:2605mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.6kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/40R19 96W XL/(後)235/40R19 96W XL(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:23.6km/リッター(WLTCモード)
価格:617万9800円/テスト車=629万1450円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルブラックパール>(0円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(3万2400円)/フロアマット<プレミアム>(7万9200円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2993km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:362.0km
使用燃料:21.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.2km/リッター(満タン法)/17.0km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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