ルノー・トゥインゴ クープ・デ・ザルプ(FF/5MT)【試乗記】
ライバルはルノースポール 2010.09.08 試乗記 ルノー・トゥインゴ クープ・デ・ザルプ(FF/5MT)……222万2000円
ルノーのコンパクト「トゥインゴ」に22台限定のスペシャル版が登場。さまざまなパーツが組み込まれて、その走りはどう変わった?
期待のネーミング
「クープ・デ・ザルプ(Coupe des Alpes)」。なんだか舌をかみそうな名前だが、それを聞いてピンと来たひとはかなりのルノー通。かつての“ルノーワークス”であり、「ルノースポール」が現れるまでルノーのハイパフォーマンスモデルとされていた「アルピーヌ」、その創設者であるジャン・レデレ−氏が、1954年に「ルノー4CV」で優勝を飾った山岳ラリーが「Coupe des Alps」(以下、CdA)なのだ。ちなみに、アルピーヌの語源もまた、そのアルペンラリーでの勝利に由来している。
そんな由緒正しくもロマンチックな名前を冠したモデルが、「4CV」の末裔(まつえい)であるコンパクトモデルに登場した。ベースとなるのは「トゥインゴGT」。100ps、14.8kgmを発生する1.2リッター直4ターボユニットに5段MTを組み合わせる、ルノーで一番小さな3ドアハッチバックである。
「トゥインゴCdA」用のスペシャルパーツを開発したのは、日本におけるルノーチューナーの雄「SiFo(シーフォ)」。かつて「ルノー・スピダー」でGT選手権にも参戦したウデを生かして、「アルプスを駆け抜けるにふさわしい走り」を「トゥインゴGT」に与えるべくシャシーチューニングを行った。
その要となるのはメンバーブレースだ。フロントロワアームの付け根を結ぶシングルビーム、フロントサブフレーム後端からフロアトンネルにかけてを8点を支持するクロスメンバー、中央フロアトンネルをフロント同様につなぐシングルビーム。さらにリアハッチ開口部下にも、パイプ形状のビームを追加している。
軽量シューズが効く
アルミホイールも専用品。見栄えよりも走りの軽快感を優先して7J×15インチが選択され(トゥインゴGTの純正サイズは6J×15インチ)、鍛造1ピース構造とすることで1輪あたりの重さは5.0kgに。ノーマル比約3.6kgの軽量化を達成した。1台分、合計14.4kgにおよぶバネ下の重量減は、車体での軽量化に換算すると51.84kg分にも相当するという。
シートの着座位置は20mmローポジション化されており、「クープ・デ・ザルプ」ロゴを配したキッキングプレートやBピラーのカーボンシート&ステッカー、ショートアンテナなども与えられる。
そんなこだわりのチューニングパーツで固められた「トゥインゴCdA」を走らせてみてまず気がつくのは、明らかに“キュッ”と引き締まった乗り味だ。普通、単にボディ剛性が引き上げられると、その足まわりも固めて行かない限りは鈍重さばかりが目立つもの。しかし「トゥインゴCdA」は、フロアまわりに的を絞って効果的に固められたおかげで、ノーマルの足まわりでもその軽快感は損なわれていない。リム幅だけを上げた軽量ホイールの装着も効いているのだろう。
高速道路からワインディング、そして市街地とまんべんなく巡った試乗のなかで、一番心地よかったのは、高速セクションだった。特にハイウェイでの走りは、速度を上げるほどにクルマの質感が高まるかのよう。フロアからのバイブレーションやねじれはみじんもなく、とても1.2リッタークラスとは思えない安定感の高さがある。
市街地はやや苦手?
ワインディングでも、やはり高速コーナーが続くセクションが得意だった。車体のロールを感じながら、大きく旋回していくステージは抜群。路面のアンジュレーションによるタイヤの接地性変化が起こらないから、自信を持ってコーナーにアプローチできる。そしてパワーもそこそこ(笑)だから、素早くアクセルペダルを踏んで立ち上がれるのである。これが実に楽しい。
逆に小さなカーブが続くようなコースは、意外に思われるかも知れないが不得手である。フロアが屈強であるのに対して、ノーマルの足まわりはコーナリングGに追従しきれず、ロールが大きくなってしまうのである。標準で備わる電動パノラミックグラスルーフが重心を高くしており、切り返しなどでそれが助長されてしまう。
そんな路面追従性の鈍さは、市街地でも若干顔をのぞかせる。段差や突起に対してはダンパーが素早く減衰力を発揮することができず、突っ張ってしまう部分が、ほんのわずかだがある。ノーマルではボディが一緒にしなることで、これを逃がしていたのだろう。
とはいえ、これだけ高い次元で安定し、かつ軽快感を損なわないシャシーに一度でも乗ってしまうと、ちょっと後戻りはできない感じだ。シーフォもその点は重々承知しており、今後はCdA専用にサスペンションを用意して、それに応えるつもりだという。
「トゥインゴ ルノースポール」ほどの派手さはないものの、その価格差は27万8000円。ともに5段MTの両車を比べると、(ヒジョーに迷いながらも)僕は「トゥインゴCdA」のほうにドキドキする。いまどき何をもって5段MTの、しかも100psしかないハッチバックを選ぶのか? でも、そこには真の「クルマを運転する楽しさ」がある。
しかも、たった22台の限定車。あまり迷っているヒマとて、実はないかもしれないけれど。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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