BMW i5 eDrive35LエクスクルーシブMスポーツ(RWD)
天然無着色の味わい 2026.03.21 試乗記 BMWの「5シリーズ ロング」は知る人ぞ知る(地味な)モデルだが、実はエンジン車のほかに電気自動車版の「i5 eDrive35L」も用意されている。まさに隙間産業的にラインナップを補完する、なんともニッチな大型セダンの仕上がりをリポートする。絶妙なサイズのロングボディー
5シリーズのロング……と聞くと、そんなの「7シリーズ」でいいんじゃないの? と不思議に思われる方は多いのではないだろうか。が、ここには微妙な寸法差が介在していて、それが日本のインフラと絶妙にかみ合わないという場面があったという。
例えば、現行G60系5シリーズの全長は5060mm。これでも先代G30系に比べると115mmも伸びているわけだが、一方で現行G70系7シリーズは5390mmと5シリーズに対して330mmも長くなってしまう。長尺の「Li」側のサイズに一本化したことによる大型化だが、なるほど確かに都市部のビルのクルマ寄せや地下駐車場などで見かける黒塗りの現行7シリーズは、ちょっと窮屈そうに映る。
7シリーズでは大きすぎるけどツルシの5シリーズでは示しがつかない、後席のお偉いさんのためにクルマを用意するハイヤー会社からしてみれば、現行「Sクラス」とほぼ同じ5175mmの全長はちょうどいい妥協点にもなるのだろう。ちなみにベースモデルに対する伸びしろはほぼホイールベースの延長に充てられており、後席の足元スペースには+110mmのゆとりがもたらされた。
長いのに電池は小さい
と、おそらく日本での5シリーズ ロングの需要は個人ユーザーというよりも法人ユーザーがメインになるだろうか。対して企画・生産を担う中国では、副経理より短くないとまずいとか隣の家よりは長いほうがいいとか、まだまだ微妙な配慮や示威の思惑がうごめいていそうだ。
5シリーズ ロングは内燃機とBEVの2モデルが日本市場に輸入されるが、取材車はBEVの側、つまりi5だ。グレード名の「35」は数字的に標準ボディーのベースグレードとなる「40」よりもさらに小さい。違いはバッテリー容量にも及んでいて、標準ボディーの40が83.9kWhを搭載するのに対して、35は81.6kWhとなり、総電圧も40より若干低くなっている。これは生産地ごとの調達の違いによるもので、35については発表されていないものの、提携関係からCATL製であると推せられる。
そして駆動モーターも40のアウトプットが最高出力340PS/最大トルク400N・mなのに対して35は272PS/410N・mと、用途に合わせ込む目的もあってか、特性が異なるのが分かるだろう。ちなみに0-100km/h加速は40が6.0秒に対して35は6.7秒となる。そしてWLTCモードの一充電走行距離は40が648kmに対して35は600kmだ。今回は残念ながら電費を測るような状況ではなかったが、他モデルの試乗経験からいえば、BMWのBEVは実電費が著しく崩れない傾向にある。高速道路でも普及が進む出力150kW級の急速充電器をフルに生かせる潜在能力があるので、運用がきちんと管理できる法人なら使い勝手で困ることはないだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
いいとこ取り(?)の「エクスクルーシブMスポーツ」
……と、自分の頭の中では、このクルマはショーファードリブンカーだという前提が勝手に出来上がっていた。乗ってみるまでは。
トリムラインは1つで「エクスクルーシブMスポーツ」と日本仕様では聞いたことがない欲張りコンビとなっている。上半身はスーツなのに下半身はジャージ……といえば在宅テレカンのようだが、眺めて座ってみるとなるほどどっちにも転べる感じは、仰せのとおりEX+Mスポだ。
さりとてタイヤサイズはMスポに準拠しているし、走り的にもけっこう食い気味なのかなと、そろっとアクセルに触れると35はジトーッと歩を進めてくれる。BEV開発のキャリアが重ねられてきてこういう味つけは各社上手になっているが、足指の動きひとつで1km/h単位の速度合わせをこなせる感覚というのは、やはりトルク変動が細密かつ定量的に管理できるモーターならではの利といえるだろう。
ドライバーズカーとしても十分
35という数字には二軍感を抱くかもしれないが、動力性能になんら問題はない。というか、このクルマの行動範囲を考えれば「速い」の部類に入るとも思う。必然的な低重心による動的な素性の利はもちろんのこと、静粛性もしっかり配慮がなされていて走っての快適性も相当なものだ。もちろん「i7」に対すれば後席のもてなしに見劣りはあるが、そのぶん前方がよく見渡せるヒップポジションやボルスターの角度では勝るかと思わせるところがある。
そしてドライバーの立場になれば、このロングホイールベースがむしろクルマの挙動を柔らかくしてくれているのではないかと思わせるところが35の大きな魅力だ。そのもっさり感はBMW好きの多くには否定されてしまうかもしれないが、一方でここにはさまざまなデバイスの介入しない天然無着色のBMWのすっきりした喉越しがある。周囲のライバルも含めてバキバキザクザクした触感こそがスポーティーだとMスポ脚のBMWをキャッチアップし続けてきたなかで、中国からホイッと丸腰の長尺を持ってきたらなんだかE34やE39のような絶妙感があるとこのオッさんに評されてしまうのは周りに申し訳ない気もするが、そもそもBMWってこんな感じなのよの心が35にはある。
そんなこんなで皆さんにお伝えしたいのは、このクルマや先だって投入された内燃機の「525Li」といった長尺物件は、案外需要の埋め草ではなくBMWのピュアネスが味わえるオーナードライバー向けの選択肢でもあるということだ。最近のドイツ車はなんだか肌なじみが悪いとか、そんなもやもやした気持ちを抱いている方には試乗してみることをお勧めしたい。中国製というイメージを克服できる方であれば、見る限り静的質感的なところも問題なかったことも付け加えつつ。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW i5 eDrive35LエクスクルーシブMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5175×1900×1520mm
ホイールベース:3105mm
車重:2220kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:272PS(200kW)/8000rpm
最大トルク:410N・m(41.8kgf・m)/0-4700rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y XL/(後)275/35R20 102Y XL(ブリヂストン・トランザ)
交流電力量消費率:155Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:600km(WLTCモード)
価格:1061万円/テスト車=1061万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1160km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:242.2km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.5km/kWh(車載電費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
マツダ・ロードスターPS/ロードスターS/ロードスターRF VS【試乗記】 2026.9.15 デビュー以来、不断の進化を続ける「マツダ・ロードスター」。2026年の改良は、“走り”の特別仕様車「PS」の設定が話題だが、試乗すると、ほかにも多くの変化が見てとれた。日本を代表するライトウェイトオープンスポーツの、最新モデルの仕上がりを報告する。
-
スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)【試乗記】 2026.9.14 「スズキ・ジムニー ノマド」でロングドライブ。本格クロカンとして悪路での走りに定評あるジムニーの5ドア・ロングボディー版は、カジュアルなSUVとしても使えるのか。多くの人が多くの時間を過ごすであろうオンロードにおける日常的シーンで、その実力を確かめた。
-
BMW X3 20 xDriveオリジナル(4WD/8AT)/X3 20d xDriveオリジナル(4WD/8AT)【試乗記】 2026.9.12 「BMW X3」に新たなエントリーグレードの「オリジナル」が登場。装備の厳選によって価格抑制を図ったとのことだが、人気のディーゼルエンジン搭載車では、なんと基準車から100万円近く引き下げたというから見逃せない。安かろう悪かろうのはずはないと思いつつも、その仕上がりをチェックした。
-
日産キックスG(FF)【試乗記】 2026.9.9 日産が満を持して投入したコンパクトSUVの新型「キックス」。Cセグメントに迫るサイズとなったこのモデルは、競合ひしめくマーケットで存在感を示せるのか? 上級グレード「G」の試乗を通し、ライバルに対するアドバンテージを探った。
-
マツダCX-5 L(FF/6AT)【試乗記】 2026.9.8 マツダの最量販SUV「CX-5」の最新モデルに試乗。計画外のフルモデルチェンジによって誕生した3代目は、走りや操作系などに、従来のマツダにはない新しい試みが見られる一台となっていた。失敗の許されない基幹モデルの仕上がりを報告する。
-
NEW
BYDラッコ300プレミアム(FWD)【試乗記】
2026.9.16試乗記中国BYDの軽スーパーハイトワゴン「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。価格の安さや装備の充実度はすでに報じられているとおりだが、やはり自動車の仕上がりは実際に動かしてみなければ分からない。高速道路やワインディングロードでの印象をリポートする。 -
NEW
新型「パジェロ」も該当 タイ生産にはどんなメリットがあるのか?
2026.9.16デイリーコラム国内メーカーが取り扱うタイ生産車のラインナップが増えている。話題の新型「三菱パジェロ」も同様だ。東南アジアに限ったとしてもさまざまな国が存在するなかで、多くのメーカーがタイを拠点とするのはなぜなのか。そのメリットを解説する。 -
NEW
第128回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(前編) ―厳しい制約が鍛えた独創の美と創造性―
2026.9.16カーデザイン曼荼羅日本の地に自動車産業が芽生えて幾星霜。今やすっかり自動車大国となったわが国だが、ことカーデザインの質については、世界的に見てどれほどのレベルにあるのだろうか? 日本車の“美”がさらに進化していくうえで必要なものを、カーデザインの識者と考えた。 -
マツダ・ロードスターPS/ロードスターS/ロードスターRF VS【試乗記】
2026.9.15試乗記デビュー以来、不断の進化を続ける「マツダ・ロードスター」。2026年の改良は、“走り”の特別仕様車「PS」の設定が話題だが、試乗すると、ほかにも多くの変化が見てとれた。日本を代表するライトウェイトオープンスポーツの、最新モデルの仕上がりを報告する。 -
自動パーキングシステムの駐車作業は、人間が行うよりも速く正確になりうるか?
2026.9.15あの多田哲哉のクルマQ&A一部のクルマに採用されている自動駐車システムは、便利そうだが駐車に時間がかかる印象がある。それも、いつかは人間が駐車するより速く正確になるだろうか? 元トヨタの多田哲哉さんに見解を聞いた。 -
第344回:アンパンマンよりばいきんまん
2026.9.14カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。メルセデス・ベンツの新型「CLAシューティングブレーク」が気になってしかたがない。理由はその特徴的なフロントフェイス。左右の目玉(ヘッドランプ)がつながったデザインがたまらない。果たして実車の印象は?
















































