メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)
現れた救世主 2026.05.27 試乗記 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。ビジネスの観点から見た専用シャシーの是非
メルセデス・ベンツもメルセデスAMGもいろいろ大変なようである。経営面では2025年に純利益が半減。売上高も10%近く落として、いい数値を出すことができなかった。開発面では電気自動車(BEV)への一本化へ向けた戦略を見直し、「新規開発はしない」と公言していた内燃機(ICE)と内燃機を積むためのプラットフォームの刷新と整理を、どうやら始めたらしい。
実はメルセデスの開発部門のトップだったマーカス・シェーファー氏が退任して、ヨルグ・ブルザー氏が後任の席に座ることになった。新型「Sクラス」の試乗会に参加していた彼に、今後の戦略について聞いてみた。
「われわれはこれまでのSクラスと『EQS』のように、ICEとBEVでプラットフォームもデザインもまったく別のものを使ってきました。自動車開発の観点で理想を追求すれば、そのほうがICEにとってもBEVにとってもベストだからです。しかし、残念ながらビジネスの観点では、それが必ずしも得策ではなかったということが業績として表れてしまいました」
「エンジンを横置きにした前輪駆動をベースとするモデルは、ICEとBEVで同じプラットフォームを共有することが構造的に比較的容易なので、すでに新型『CLA』ではそれを実行しました。エンジンを縦置きにした後輪駆動ベースのモデルは、すぐにICEとBEVでプラットフォームを共有することが難しく、でも両者はだんだんと近づいていって、やがてひとつになるかもしれません」
結局のところ、BMW的なやり方が現時点では正解となり、メルセデスもそれに追従することを余儀なくされたかたちとなった。そんな時にポロッと現れたのが、メルセデスAMGのGLC53 4MATIC+である。
直6エンジンをブラッシュアップ
現在、日本仕様のAMGのGLCは「43 4MATIC」と「63 S Eパフォーマンス」のみで、新型の53 4MATIC+はちょうどその間を埋めるモデル、という簡単な話ではない。実はAMGの4気筒とV8のEパフォーマンスは、近いうちにいったん消滅するとうわさされている。理由は、現状のままだと2028年からの施行が予定されているユーロ7をクリアできない可能性が高いからだ。だからといって、AMGラインナップのなかでは売れ筋のGLCそのものまで道連れに消してしまうわけにはいかない。そこで救世主のように現れたのが53 4MATIC+というストーリーである。
GLC53のエンジン型式を見ると「M256M Evo」とされている。「M256」は現在のメルセデスの主力ユニットである直列6気筒、「M256M」はそれをターボと電気式スーパーチャージャーで過給する「CLE53」などに搭載されるエンジン、では最後の「Evo」は何か。新型Sクラスの3タイプのエンジンがすべて同じ「Evo」付きとなったように、これはユーロ7の規制に対応済みのユニットであることを示している。
手を入れたのは、エンジン本体まわりでは新しいシリンダーヘッドと吸気カムシャフト、吸排気ポートの改良、容量を増やした吸気システム、新しいインタークーラーなど。過給機ではターボのブースト圧を1.5barにアップ、電動式スーパーチャージャーは従来の5kWから最大7.5kWで過給できるようになった。こうした改良により、最高出力449PS/最大トルク600N・m(オーバーブースト時は640N・m)を発生するに至った。さらにISGのマイルドハイブリッド機構では、エンジンのサポート分がこれまでの15kWから最高出力17kW/最大トルク205N・mに増えている。
「ドリフト」モードも使える
GLC53の内外装に大きな変更はないけれど、機能面では見どころがある。「4MATIC+」の“+”は前後の駆動力配分が50:50から0:100の間で状況に応じて随時可変するシステムだが、「AMGダイナミックプラスパッケージ」というオプションを選ぶと「ドリフト」モードが追加され、常時0:100の後輪駆動での走行が可能となった。このモードは、AMGのGLCとしては初採用とのこと。なお、このオプションにはリアの電子制御式LSDや電子制御式エンジンマウントも含まれている。
足まわりには「AMGライドコントロールサスペンション」を標準装備する。これは金属ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたもの。最大舵角2.5度の後輪操舵機構も備わっている。ちなみに、「AMGライドコントロール+」は金属ばねが空気ばねに置き換わるエアサスペンションで、「AMGアクティブライドコントロール」は4輪のダンパーを油圧回路でつないでロールの制御まで行うセミアクティブサスペンション機構である。
トランスミッションは「AMGスピードシフトTCT 9G」。要するにトルクコンバーター付きの9段ATだが、ドライブモードの「スポーツ+」や「レース」ではシフトダウン時にブリッピングも入るし、ステアリングパドルの「-」側を長引きすると多段ダウンシフトする機能も備えている。ローンチコントロールを使うと0-100km/hは4.2秒、250km/hでリミッターが作動するものの、オプションの「AMGドライバーズパッケージ」を選ぶとそれが270km/hまで許容される。おいしい装備や機能がたいていオプションなのは、スポーツモデル“かいわい”では常套(じょうとう)のビジネス手法である。
3つの重要ポジションが少しずつ進化
これだけスポーティーな機能の数々をうたっておきながら、試乗ルートが日中のハンブルクの市街地だけというのはちょっと解せなかったけれどやむを得まい。
そもそもM256M型というユニットは、発進時はISGによるモーターを使いすぐにスーパーチャージャーへバトンタッチしてターボにつなぐことで、シームレスで力強い加速感を実現していた。この3つのリレー選手のそれぞれがわずかにパワーアップしてはいるものの、全体としてそれがこれまでとは比べものにならないくらいの加速感になっているかといえば、そこまでではない。前述のように、今回の改良は劇的なパワーアップよりもユーロ7のクリアが最大の目的ゆえ、むしろそれを達成しながらも従来の動的性能をきちんと維持できている点を評価するべきだろう。それでもよーく観察してみると、レブリミットまでの吹け上がり方はより軽々と、そして早くなったようだし、スロットルレスポンスはエンジン回転数を問わずどこでも瞬時に反応するよう向上していた。
その他に感心したのはふたつ。ひとつはAMGスピードシフトTCT 9Gのマナー。いくつかのスポーティーなドライブモードを選ぶと、ギアチェンジのスピードは瞬速になるしダイレクト感も伴う。いっぽうで、コンフォートを選んでタウンスピードで走行している限りでは、むしろ影を潜めてスルッとスムーズにシフトする。もうひとつは乗り心地。特にタウンスピードでの乗り心地は従来よりもよくなったように感じた。このクルマの実際の使われ方に即したセッティングに変更したのかもしれない。
総じて、日常域での快適性が向上していたわけで、なるほどそういうわけでハンブルクの市街地を試乗ルートに設定したのかと理解した。
(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4749×1920×1635mm
ホイールベース:2888mm
車重:2400kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 32バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:449PS(330kW)/5500-6100rpm
エンジン最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/2200-5000rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)
タイヤ:(前)265/40ZR21/(後)295/35ZR21(ミシュラン・パイロットスポーツ4 SUV)
燃費:9.9-9.4リッター/100km(約10.1-10.6km/リッター、WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 慎太郎
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