ベスパGTSスーパー300(CVT)
大人にこそ乗ってほしい 2026.06.17 JAIA輸入二輪車試乗会2026 今年で誕生80周年を迎えたベスパ。その上級モデルである「GTSスーパー300」に試乗した。デザインこそ伝統を受け継いでいるように見える一台だが、走りのほうはどうなのか? イタリアンスクーターの名門ならではの、アダルトな魅力をリポートする。受け継がれるイタリアンスクーターの流儀
うーんベスパだぜ。どっから見ても、ベスパ。2026年現在、この美しいボディーラインを図面に引いたひとはとっくに亡くなっているだろうけれど、きっとあの世ではほくそ笑んでいるに違いない。「オレのアイデア、最高だろ〜」って。
GTSシリーズはベスパのフラッグシップラインで、エンジンを155ccと278ccの2種から選択できる。なかでもGTSスーパー300は3車あるGTS300シリーズのスタンダードモデルで、他にはよりスポーティーな外装を与えられた「GTSスーパースポーツ300」と、ベスパ誕生80周年を記念した「GTS 80th」がラインナップされている。車名の“GTS”はなんのひねりもなくストレートにグランツーリスモスポーツの略称だし、フォルムだって誰が見ても明らかにベスパ。とすれば中身はどのくらい特別なの? その答えは実にシンプルかつなんのひねりもなく、すべてが律義にベスパだった。
キーレスシステムのおかげでエンジン始動はあっけない。かつてはそれほど良くなかった足つきはすっかり日本人に優しくなっており、身長172cmの筆者の両足がベッタリと地面につくようになっていてちょっとビックリ。ヘッドライトやメーター、ハンドルが高い位置にレイアウトされているので、それらに包まれる(守られる)ように着座するライダーはある種の安堵(あんど)を感じることができる。
フットスペースが前後にタイトなことで副次的に生まれる、ライダーの“姿勢の正しさ”も、いかにもベスパらしい。両脚を前方に投げ出しながら股も開き気味になる多くの国産スクーターの、そこはかとなくラフなライディングポジションはこのシートでは実現不可能。折り目正しさを尊ぶアダルトこそベスパに向かうべし!
スチール製モノコックボディー、フロント片持ちサスペンションなどのベスパたる“流儀”は、このGTS300にあっても例外ではなくきっちり守られている。エンジンは「HPE」と呼称される排気量278ccの水冷単気筒。シングルカムの4バルブで、最高出力は23.8HPだ。そして、サイレントなこのエンジンの出来が実に素晴らしい。過不足のないフラットなパワー感と、キャラを少しだけ引っ込めたアンダーステートメントさがまるで手だれの職人のようで滋味あふれる。どの速度域からも「ちょうどよく」加速し、「もう少し」の不足がまったくない。250cc+αのキャパシティーが極上なスムーズネスを生んでいて、とってもキモチがいいのだ。英語ならジャスト、フランス語ならパルフェ、イタリア語なら……イデアーレ! ま、おかげで車検はあるけどさ。
スポーティーに乗るほどに魅力が際立ってくる
ハンドリングのことをいえば、若干のクセがある。けっしてロングではない1385mmのホイールベース(「ホンダ・フォルツァ」で1510mm)と小径な前後12インチホイールとの組み合わせは、低速で少しだけインに切り込もうとする。でもこのセッティングに違和感はなく、むしろ慣れて味方につけてしまえば、積極的に車体の向きを変えるためのキッカケにさえなってくれる。車体をリーンするとスパッと倒れていくのは愉快ツーカイ、スポーティー! イタスクの魂は現行ベスパにも宿っている。
そう。ベスパはぜんぶ、全車共通でスポーティー。丸っこいスタイリングが遠因となって、ベスパに乗ったことのないライダーには「走りも丸っこいんでしょ、なんとなく」という予断を与えてしまいがち。それがベスパという乗り物への、通俗的なイメージかもしれない。でも実際はぜんぜんそんな素性じゃない。マッタリと乗るよりは、前のめりに操縦することでモノコックボディーの美点がどんどん際立ってくる。
ピアジオから都度発売されるスペシャルモデルの希少性も捨てがたいけれど、ベスパ本来の超越的なピースフルさは今回試乗したイノチェンテホワイトの素モデル300のほうが勝っているように思うのは気のせい? 車両価格の86万9000円は実にアダルトだけど、このGTSスーパー300を終(つい)のバイクにチョイスするっていうは、大いにアリな気がする55歳の筆者であった。
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1980×765×--mm
ホイールベース:1385mm
シート高:790mm
重量:163kg
エンジン:278cc 水冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ
最高出力:23.8HP(17.5kW)/8250rpm
最大トルク:26N・m(2.65kgf・m)/5250rpm
トランスミッション:CVT
燃費:--km/リッター
価格:348万円
◇◆JAIA輸入二輪車試乗会2026◆◇

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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