ホンダ・スーパーONE(FWD)
想定外の快作 2026.06.15 試乗記 ホンダからアグレッシブなキャラクターの新型電気自動車(BEV)「スーパーONE」が登場。往年の「シティ ターボII」を思わせるコンパクトなBEVは、先達(せんだつ)に負けない刺激を持ち合わせているのか? 気になる走りを、箱根のワインディングロードで確かめた。ご利用は計画的に……
ホンダ・スーパーONEはクルマ好きの琴線に触れる、魅力や話題にあふれたクルマだ。“ブルドッグ”ことシティ ターボIIをほうふつさせるアグレッシブな外観、軽くてコンパクトな軽規格のボディーに普通車の高出力パワートレインを組み合わせてスポーツモデルに仕立てるという、多くのメーカーが企画をするもののなかなか市販化までたどり着けなかったコンセプト、モーター駆動なのにレブリミットまで再現した疑似有段変速制御を備えたパワートレインなど、「Honda 0シリーズ」の開発中止や、その損失による上場初の赤字決算など、厳しい状況にあるホンダのどんよりとした雰囲気を一掃するほどの勢いを感じる。その証しが2026年6月8日現在の受注状況。その台数はホンダの予想を大きく上回る1万1000台に達するという。
話題のなかでも直近で大きな注目を集めているのが購入価格である。2026年度から130万円へと増額されたCEV補助金を使うと、ベースモデルである軽乗用車の「N-ONE e:」よりも安く買えるのだ。しかもそれだけでなく、地方自治体のなかで最も補助金が高い東京都の場合、残価設定ローンや数年後の売却金額を考慮すると、実質的にタダで乗れる。そんな衝撃の事実がウェブを中心に駆け巡った。
ただし、この話は半分本当だが半分は誤解なので注意が必要だ。確かに、自治体によっては補助金と残価設定ローンの据え置き分を合わせると、339万0200円+諸経費のほぼ総額と同額になるケースもあるのは事実。しかし補助金は購入後に支給されるので、現金なら全額、残価設定ローンなら据え置き分を除いた額の支払いは発生する。また予算超過で支給打ち切りという可能性もあるし、現状でもすでに年明けとされる納期がさらに延びて、来年度の納車となれば、補助金の額も来年度の規定ということになり、現状の金額が継続されるとは限らない。といったように、この「タダで乗れる」という情報には留意すべき点がいくつもあるので、補助金ありきで購入を検討している人は各自でよーく確認することをお忘れなく。
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ただ“ブルドッグ”に似せただけではない
ちょっと前置きが長くなったが、ここからはいよいよ本題となるクルマそのものの話に移りたい。
そもそもスーパーONEが誕生したきっかけは、「N-VAN e:」とN-ONE e:という軽BEV二部作を開発しているときに、先行開発車の走りの素性がよく、「これをベースに走りの性能を高めたクルマをつくったら面白いのでは?」と思ったことだという。そこでトレッドをグッと広げようということになるのだが、これにもさらに前段階がある。実は内燃機関の「N-ONE」を開発しているときに似たような発想からトレッドを拡幅した仕様をつくり、そのよさを体験していたのだ。その経験がN-ONE e:のトレッドを拡大して走行性能を高めるという発想の元になり、スーパーONEは誕生したというわけだ。
実車を見るのは、コンセプトカーとして屋内に展示されていたジャパンモビリティショー以来だが、ちょっとヤンチャでスポーティーな印象は、太陽の光が差す屋外で見ても変わらなかった。オーバーフェンダーを装着するだけでN-ONE e:がシティ ターボIIに変身してしまうのだからクルマのデザインは面白い。フロントまわりもシティ ターボIIと同じく非対称デザインを採用。これもトレッドを広げるために導入したオーバーフェンダー同様、単にターボIIに似せるためだけの意匠ではなく、CCS2という海外のひと回り大きな規格の急速充電ポートや、駆動用バッテリーを冷却するためのエアインテークを収めるためといった機能性を兼ね備えている。ちなみに、スーパーONEは日本で販売するだけでなく、イギリスなど右ハンドルの地域にも輸出する予定だ。
ボディーサイズは、空力性能の向上とデザインのためにベース車より全長を185mm拡大。全幅も左右それぞれ50mmワイドなオーバーフェンダーにより100mm拡幅しており、これにより、N-ONE e:比で40mm、エンジン車の「N-ONE RS」比で50mm大きなトレッドを収めている。全高も70mm増えているが、これはアンテナをシャークフィンタイプに変更した影響で、ボディーそのものに変更はない。ホイールベースもBEVを含むN-ONEの全シリーズと同値だ。
内装は多くをN-ONE e:と共有しているが、シティ ターボII世代をニヤリとさせるのがフロントシート。ホールド性を高めるために座面で35mm、背もたれで20mmサポート部分を拡大した形状や、配色は逆になるが、同じブルーとホワイトのカラーを用いた表皮がターボIIをほうふつさせる。また、液晶メーターにスポーツカーやチューニングカーでおなじみの3連補助メーター風の表示を採用し、スポーティーなイメージを演出しているのも、内装におけるトピックといえるだろう。
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コーナリングで輝く専用の足まわり
スーパーONEを印象づけるワイドトレッドは、走りの面でも大きな魅力となっている。トレッドの拡大は、フロントサスペンションでは新造したアルミ鍛造ロワアームの採用、リアではハブの幅を広げることで対処しているが、とにかく走りにおける安定感が増した。今回の試乗はワインディングロードが中心だったが、以前同じ道をN-ONE RSで走ったときよりも安心してコーナーに進入できる。RSではタイヤがグリップを失うかどうかを見極める以前に、どこまでロールするのだろうという不安感を抱いたが、スーパーONEでは純粋にタイヤとの対話だけを楽しめた。
その要因は、重い駆動用バッテリーを床下に配したことで、重心高がRSよりも70mmほど低くなっていることもさることながら、硬めのスプリングやダンパー、ブッシュにより、フロントで約37%、リアで約57%高めたサスペンションの接地点横剛性によるところも大きい。接地点横剛性というのは聞きなれない言葉だが、クルマが横方向にどれだけ踏ん張れるかを表すもの。横方向に踏ん張る力は、大まかにはサスペンションとタイヤの剛性=硬さ、そしてタイヤのトレッドがつくり出す路面をつかむ力で構成されているが、ここからタイヤのグリップ力を除き、サスペンションとタイヤの剛性を合算したものだと理解してもらえればいい。
ちなみに、N-ONE e:比ではフロントで約9%、リアで約51%これを高めているという。フロント値の向上分がRSよりもかなり小さい(=N-ONE e:もフロントの接地点横剛性が高い)のは、N-ONE e:とスーパーONEではBEV化による車両重量増にも対応する必要があるため。タイヤも185/55R15と、RSよりひとサイズ大きいものを履いているので、クルマ全体における横方向のグリップ力はスーパーONEのほうがさらに高くなっている。もちろんそのぶん、路面からの入力は大きく、上手に路面の凹凸をいなしていくような設定ではないものの、ガツンとくるような尖(とが)った入力はなく、スポーツモデルとして許容できる快適性は有していた。
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秘めたる力を解放する「ブースト」モード
そんなシャシーよりも痛快で、スーパーONEの最大の見せ場と思えたのがパワートレインだ。モーターや駆動用バッテリーなどはN-ONE e:と同じものを用いているものの、N-ONE e:とは大きく異なる点が2つある。ひとつは最高出力、そしてもうひとつは仮想有段シフト制御だ。
スーパーONEには、「ECON(イーコン)」「CITY(シティ)」「NORMAL(ノーマル)」「SPORT(スポーツ)」「BOOST(ブースト)」という5つのドライブモードが備わる。ノーマルが標準仕様で、イーコンはアクセルペダルの開度に対するモーター出力を抑えるとともに、エアコンの利きを制御することで電費を抑制するモード。シティでは回生ブレーキを強めることでワンペダル走行が可能だ。また、スポーツとブーストは走行をより際立たせるスポーティーな設定で、仮想有段シフト制御と、内燃機関の音を再現した電子音を室内に流すアクティブサウンドコントロールがオンになる。この5つのなかで、最も走行性能の向上に特化したブーストモードを選ぶと、最高出力が70kW(95PS)へとアップ。ちなみにほかの4モードはN-ONE e:と同じ47kW(64PS)のままとなる。
1090kgの車両重量で95PSだからバカッ速いわけではないが、ほかのモードの1.5倍の出力はダテではない。N-ONE e:と同じ162N・mという最大トルクはほかの4モードでも変わらないので、低中速域での加速に大きな差は感じないが、速度の伸びが違うと言えばわかってもらえるだろうか。ある一定速度以上のときに、その先の加速がブーストモードでは味わえるのだ。
その特性をさらに際立たせるのが仮想有段シフト制御だ。この制御ではモーターの出力特性にあえて段差をつくることで、まるで7段の有段変速機が付いているかのような加減速感をつくり出している。“変速”はATのようにクルマ任せにすることもできるし、下の3つのモードのときは回生ブレーキの強さの調整に用いるステアリングパドルを使って、自らのタイミングで操作することも可能だ。しかも、自動変速機能をカット、いわゆるマニュアルモードを選択した場合、各段の設定上限速度に達するとレブリミットに当たったときのように加速が頭打ちになると同時に、その際に発生する振動も再現している。なんとも芸達者な機能も備えているのだ。
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受け継いだのはスタイルだけにあらず
こうした疑似変速機はすでにCVTやハイブリッド車で実用化されているが、スーパーONEの出来は今までで一番いい。4気筒のスポーツエンジンの音を再現したアクティブサウンドコントロールの効果と相まって、慣れてくると本物の内燃機関車を操っている気分になる。試乗を終える頃にはすっかりのめり込んでいて、レブリミットに当たる前にシフトアップを促すインジケーターが欲しいとか、疑似エンジン回転計がもっと見やすければとか、なんなら疑似のシフトレバーやクラッチペダルがあったらもっと楽しいのではないかと思ったほどだ。
5つのドライブモードのなかでは、出力の高いブーストモードが速くて刺激的だが、個人的に好感度が高かったのはスポーツモード。モーターの出力特性やアクティブサウンドコントロールが発する疑似エンジン音は、「シビック」で例えるなら「タイプR」的な制御となるブーストモードに対し、スポーツモードは「RS」のような立ち位置に感じられるのだが、シャシーとの一体感は後者のほうが高い。ブーストモードでは気になった、高い出力特性に対して緩く感じられるステアリングの応答性、強い上下Gのときに出る前後サスペンションのバランスの悪さやピッチングなどが、スポーツモードでは気にならず、7段変速の気持ちよさをより堪能できたのだ。もちろん、シティ ターボIIに通じるブーストモードのじゃじゃ馬なところもそれはそれで刺激にあふれていて捨てがたいのだけれど……。
ひょうたんから駒と言ったら失礼かもしれないが、当初から想定されていなかったホンダ・スーパーONEは魅力にあふれたクルマだった。見た目だけではなく、走りにおいても痛快だといわれていたシティ ターボIIの生まれ変わりといっていいだろう。それが最初に記したような価格で買えるなら……。ホンダ久々の大ヒット作になる予感しかない。
(文=新井一樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・スーパーONE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3580×1575×1615mm
ホイールベース:2520mm
車重:1090kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:95PS(70kW)
最大トルク:162N・m(16.5kgf・m)
タイヤ:(前)185/55R15 82V/(後)185/55R15 82V(ヨコハマ・アドバン フレバV701)
一充電走行距離:274km(WLTCモード)
交流電力量消費率:114Wh/km(WLTCモード)
価格:339万0200円/テスト車=339万0200円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:980km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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新井 一樹
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