第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?―
2026.07.15 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
日本でもファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その未来を示唆するショーカーが世界初公開された。新生アルピナはどこへ向かおうとしているのか? 日本でも愛された「控えめの美学」は健在か? カーデザインの識者と考えた。
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BMWとロールス・ロイスの間に
webCGほった(以下、ほった):今回のテーマはアルピナ! BMWアルピナです!
清水草一(以下、清水):またマニアックなところを突いてきたね。オレの苦手分野だよ。
ほった:今後はそうも言ってられんですぞ。アルピナはこれまでの「少量生産の独立系コンプリートカーメーカー」から、「BMWグループの上級ブランド」に生まれ変わるので、あらためて見ていかないと。
渕野健太郎(以下、渕野):ポジショニングがかなり変わりますね。
ほった:そうなんです。BMWの完全な傘下になったことで、外部のメーカーではなくグループのいちブランドとして扱われるかたちになります。イメージとしては、BMWよりも上、ロールス・ロイスより下、という絶妙なレイヤーに収まるわけですよね。
渕野:それってメルセデスで言うところのマイバッハみたいな雰囲気かな。
ほった:たぶんそのイメージです。新しくデザインのトップに就任したのは、ミッソーニさんでしたっけ?
渕野:マクシミリアン・ミッソーニ氏ですね。で、これが新生アルピナの方向性を示すコンセプトカーの「Vision BMW ALPINA(ビジョンBMWアルピナ)」ですが……。まずはこのデザインそのものの話から入りましょうか。
ほった:お願いします。
渕野:やっぱり、パッと見で「あ、カッコいいな」と思わせるものですね。従来のBMWに近い、非常にポジティブな印象があります。
ほった:なるほど、BMWらしさがベースにあると。
清水:「従来の」というところに、現在のBMWデザインに対する微妙なトゲがある気も(笑)。
古きよきBMWのカッコよさ
渕野:デザインをよく見てみると、「スカイトップ」とか「スピードトップ」でBMWが提示してきたデザインの流れと、いわゆる「ノイエクラッセ」系の流れがミックスされたような雰囲気ですね(参照)。
ほった:伝統的なコンセプトと、新世代のコンセプトの融合ですか。
渕野:プロポーションのつくりを見てみると、例えばフロントの中央部を鏃(やじり)みたいにグッと尖らせているじゃないですか。 これはスカイトップやスピードトップの方向性です。リアまわりに関しても、全体のボリューム感は、そっち系の流れをくんでいる。
ほった:お尻の肉づきのよさなんかは、確かにその系譜ですね。
渕野:ただ、サイド面の処理には、それらとはまた違うすごく強い主張がある。ドアパネルの中ほどから下のあたり、グッと削り込まれたような独特のキャラクター線が入っているでしょう? これは完全にノイエクラッセ系の表現です。そのデザイン言語がここに落とし込まれている。
ほった:確かに。ドア面のプレスラインの入れ方は「○○トップ」シリーズとはちょっと違いますね。引き目のイメージはノイエクラッセとも違うけど。
渕野:コンセプトモデル「ビジョン ノイエクラッセ」も新型i3も、サイドでのボディーを削(そ)ぐ表現はあるのですが、リアへのつながりが弱いんですよね。効果的じゃないというか。それがこのビジョンBMWアルピナの場合は、その削ぎ落とされたモチーフが、完全にリアまわりのプロポーションや豊かなボリューム感につながっている。
ほった:なるほど。
渕野:非常に洗練された、すごくまっとうなデザインですよね。いかにも高そうにも見えるし(笑)。
清水:値段聞くのが怖いです。
渕野:アルピナだけじゃなく、BMWも含めて、「本来こうあるべきだ」という造形なんですよ。最近の、奇をてらった系のビーエムではなくて。そういう説得力をすごく感じました。
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エンジン車なのにEV的な表現もある
渕野:気になった点を挙げるとすると、グリルまわりに関しては、人それぞれで好みが分かれるかな。
ほった:確かに。ワタシはそこ(グリル)は、ちょっと微妙だなぁ。
清水:このグリルはシンプルかつ押し出し感満点ですよね。またまた新しいキドニーの形状が提案されたわけですけど……これ、どういう意図なのかな?
渕野:これは解釈が難しいですよ。グリルの表現はいつも議論の的になる。
清水:ほぼ好みの問題だから。
ほった:パカッと開いて、中からミサイルが出てきそうな感じもします。
清水:鋭い意見だね(笑)。
渕野:これは……電気自動車(EV)を想定したショーカーなのかな? だから“閉じたグリル”なんでしょうか。
ほった:いやぁ。説明を読むと、「体験の核となるV8パワートレインは~」って書いてあるんですよ。
渕野:へえー、そうなんですか! じゃあグリルはダミーじゃなくて、ちゃんと空気を吸うようになってるんだ。
ほった:この、フタみたいなやつの奥が吸気口になっているようなんですが……。実際はどうなってんの? って感じですね。そもそもなんでフタなんかしたんだろ? まぁこれは完全なデザインスタディーで、具体的な未来の市販車を示唆するものではないらしいのですけど。とりあえず、リアにはマフラーが4本出ています。
渕野:あ、本当だ。マフラー4本出しはアルピナの伝統だし。
ほった:でも全体としては、EVっぽい硬質感とエンジン車の力強さを融合させて、両方ともを表現してるのかなって感じがします。
今のご時世に「優雅な高級車」は成功するのか?
ほった:ところでですね、アルピナのデザインについてはひとつ興味深い話がありまして、発表に立ち会った西川 淳さんのリポート(参照)だと、BMWグループのデザインを統括するエイドリアン・ファン・ホーイドンクさんは、「アルピナのデザインを、BMWからそんなに乖離(かいり)させる必要はない」って話しているんですよ。だから、「ビジョンBMWアルピナは次期型『BMW 8シリーズ』のデザインも示唆しているんじゃないの?」ともウワサされています。
渕野:なるほど。そういうことかもしれません。
清水:デザインをつくりわけないって聞くと、なんかちょっと冷めるけど、ビジネス的にはそれが当然だろうね。
ほった:もともとアルピナはそういうブランドでしたしね。
渕野:マイバッハだって、メルセデスのベース車からそんなに変わってないですし。
ほった:ほぼほぼ変わってないですねぇ。
清水:それにしても、こういうシンプルに美しいフォルムのスポーツクーペって、いま本当にないよね。
ほった:そう、絶滅危惧種です。だから気になるんですよ。このクラスの超高級車って、デザイン的にもビジネス的に成功しているのは、「古いイギリス車のトレンドを現代的に解釈した」系が主じゃないですか。ロールス・ロイスとかベントレーとか、ああいうところ。トヨタの新生センチュリーみたいな“欧米以外の富裕層向け”のデザインも、伝統的な箱っぽさを維持しつつ、フロントにドーンと切り立ったグリルを置いてる。スポーティーさより迫力を重視する方向ですよね。
渕野:確かにそういう潮流がありますね。
ほった:最近の高級車はよりアグレッシブに、より前のクルマをオラオラと威圧するようなデザインが主流ですけど、新生アルピナはまったく違う手法でラグジュアリーマーケットに挑もうとしているわけです。それってうまくいくんでしょうか? うまくいってほしいんですけど。
渕野:興味深い視点ですね。
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「控えめの美学」を守るか、オラオラ系に宗旨替えか
ほった:アルピナは、もともと「控えめの美学」を掲げていたブランドなので、BMWの傘下になってそれがどうなるのか、気になっていたんですよね。ショーカーを見た感じ、ひとまずは受け継いでいく方向のようですけど……。彼らの場合、最高峰としてロールス・ロイスっていう絶対的な存在をいただいているから、アルピナでは引き算の美学というか、スポーティーでエレガントな表現ができるのかもしれないんですけどね。いずれにせよ、これは果たしてビジネスとして成功するのか。
清水:そこは微妙な気がするな。アストンマーティンもだいぶオラオラ化を余儀なくされてるし。
清水:でもまあ、アルピナもグリルはどーんと立ってるから……。
ほった:クルマ好きとしては、こういうのが出るのは結構うれしいんですけどね。フェラーリとかランボルギーニとは明確に違う、大人向けの美しいサルーンやクーペが出てくると。
清水:それはまぁ、実際の購買層にはカスリもしない、野次馬の見方としてはね。
ほった:ですよねぇ。今日日、売れてるラグジュアリーカーはオラオラ系ばかりだし、2027年に登場する最初のアルピナは、あの「7シリーズ」がベースだっていうし……(ため息)。
渕野:アルピナにしても、実際のところ市販モデルがどうなるかは、まだわかりませんしね。
清水:もっとオラオラしたのが出てくるかもね。あ、いや。販売の主力としてSUV系が出るだろうから、そっちをオラオラさせればいいのか。
ほった:で、クーペの側はこの路線でいくと。そうであってほしいんですけど。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=BMW、メルセデス・ベンツ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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