FCEVで世界一の販売台数 「ヒョンデ・ネッソ」にみる水素の可能性と普及へのカギ
2026.08.20 デイリーコラム水素事業「HTWO」を推進
モビリティーの電動化といえば電気自動車(BEV)が脚光を浴びがちだ。しかし、BEVの開発・販売と並行しながら次世代のクリーンエネルギーとして水素事業を推進するブランドがある。韓国のヒョンデだ。彼らは乗用車の電動化に積極的で、その一環として、エコシステム全体を視野に入れた水素事業に注力している。電動車の普及は手段にすぎず、もちろん目指すゴールは“脱炭素”である。
ヒョンデが展開する水素事業は、「HTWO(エイチツー)」と呼ばれる。当初、HTWOは燃料電池システムのブランドとして始動。現在はグループ全体の総合力を結集した、水素バリューチェーン全体を網羅する包括的なブランドへと発展を遂げている。エネルギーとしての水素の製造・貯蔵・輸送・充填と、燃料電池システムの開発・生産、そしてモビリティーとしての活用をトータルでカバーするビジネスプラットフォームである。
ヒョンデが初めて燃料電池システムの開発に携わったのは1998年だった。燃料電池スタックの開発に始まり、2000年には燃料電池車(FCEV)のプロトタイプ「マーキュリーI」を発表した。ヒョンデのFCEVといえば、個人的には2003年に米国カリフォルニア州ソノマで開催された仏ミシュラン主催の環境技術車イベント「チャレンジビバンダム」の会場で、そのマーキュリーIの後継となる「サンタフェFCEV」に試乗したことを思い出す。
2013年には世界初の量産型FCEV「ツーソンix35」を発売し(トヨタのFCEV「ミライ」は2014年の発売)、それが2018年の「ネッソ」(初代モデル)へと続く。2020年には大型トラック「XCIENTフューエルセル」や大型路線バス「ELECCITYフューエルセル」も登場している。FCEVのトラックやバスは、これまで15カ国で約4000台が販売されたという。
そのFCEVの技術的フラッグシップとして日本市場にも投入されているのが、今回ステアリングを握った2代目ネッソである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
FCEVならではの静粛性とスムーズな加速
2代目ネッソは、2026年4月に日本上陸。ちなみに初代モデルは全世界で累計約4万台を販売した実績を持つ。ラウンドしたデザインが特徴的だった初代とは打って変わり、2代目の個性的なエクステリアデザインは、未来的でありながら遊び心にもあふれている。四角形を組み合わせた漢字の「田」にも見えるフロントのデイタイムランニングランプやリアコンビランプのデザインは、先のHTWOのシンボルマークがモチーフと説明される。
インテリアでは、手に触れるパーツの質感と仕上げに感心する。サステイナブルな素材をふんだんに使用しながらも、プレミアムSUVと紹介して差し支えない上質なフィニッシュだ。イメージはデジタルデバイスとの親和性も高いモダンリビング。ブランド自体へのなじみは薄くても、このクオリティーを目にすると“高級”という言葉を使いたくなる。所有満足度は非常に高いと言えそうだ。
走りだせば、FCEVならではの静粛性とスムーズな加速が味わえる。搭載するモーターの最高出力は204PS。同163PSだった従来型よりパワーアップしているものの、パワフルさやスポーティーな走りをうたうキャラクターではない。燃料となる水素を充填(じゅうてん)するタンクの容量は計162リッターで、1014km(参考値)の一充填走行距離を実現したという。車内外で最大1500Wの電力供給が可能なV2L(Vehicle to Load)機能も標準で備わっている。
モーター駆動による無振動で静かな走りは、上質な乗り心地とも相まって極めて快適だ。外気温が余裕で30℃を超えた試乗時には、シートベンチレーション機能がありがたかった。暑い日でも非常に快適で、これなら長距離のドライブもストレスなく楽しめそうだ。後席まわりや荷室も広く、実用性についても文句なしである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
FCEVの未来は明るいのか
ネッソのクルマ単体としての出来栄えは、予想以上に高レベルだ。しかし、これまで何度も多くの人が言ってきたことだが、FCEVの普及を阻むのがインフラの整備である。現在、日本国内における水素ステーションの数は、整備計画通りには進んでいない。かつて政府や関連団体は「2020年に160カ所、2025年に320カ所」といった目標を掲げていたが、実際には2026年6月時点で約140カ所にとどまっている。拠点数が伸び悩んでいるのはもちろんだが、それどころか初期に建てられたステーションのなかには、老朽化や採算悪化に伴い、閉鎖や移転を余儀なくされるケースすら出てきている。
水素ステーションの営業体制も万全とはいえない。いざ水素を充填しようとしても、夕方早くに営業が終了してしまったり、土日祝日は完全に休業したりする拠点も珍しくない。ユーザー目線で見ればまるでお役所仕事と感じてしまう運用体制であり、休日ドライブの出先や夜間に立ち寄れるようにはなっていない。長年にわたり整備されてきたガソリンスタンドであれば、全盛期よりも数を大きく減らしたといいながらも全国に約2万8000カ所が存在し、24時間営業も少なくない。
BEVの急速充電器の設置が全国で進むなか、場所も限られ、開いている時間も短い水素ステーションの現状では、どれだけワンタンクにおける航続距離の長さをうたったところで、日常使いの選択肢に入れるのは難しい。静かで力強く、上質な室内空間と快適装備が充実したネッソがいかに次世代モビリティーとして魅力的であっても、(価格はもちろんのこと)手軽に選べるような条件下にはない。
足元のインフラ環境が変わらないままではFCEVの未来は不透明である。ガソリンや軽油の給油と同程度の手間と時間で水素が補給できるのは、内燃機関車からの乗り換えユーザーにも分かりやすく、親しまれそうだ。けれどもその前提として、手軽に水素を補給できる環境が整備されなければ始まらない。
近距離ニーズや都市に暮らす人向けにはBEV、中距離や距離を走る人向けにはPHEVを含むハイブリッド車、長距離やバス・トラックといった商業車両にはFCEVが向いていると個人的には感じている。エネルギーの多様性に理解を示した先に脱炭素社会があると思うのだが、いかがだろう。
(文=櫻井健一/写真=ヒョンデ モビリティー ジャパン、webCG/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
メーカー団体もついに本気になった? 日本における「自動運転」の未来と現在地 2026.10.2 日本の自動車メーカー14社で構成される日本自動車工業会が、記者会見で「自動運転」の普及・実装へ向けた取り組みを発表した。彼らは、どのようなロードマップで自動運転の社会実装を考えており、そこにはどのような課題があるのか?
-
安いのは分かってる 軽スーパーハイトBEV「BYDラッコ」のお買い得度を検証する 2026.10.1 BYDの軽スーパーハイトBEV「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。すでに各所で報じられているとおり安いのは間違いないが、装備内容等も考慮したうえでの買い得度はどんなものか。ライバル車との比較を通じて検証した。
-
目指したのは“さらなるスポーティーセダン” 新型「BMW 3シリーズ」の技術的ハイライトを読み解く 2026.9.30 BMWが「i3」に続いて「3シリーズ セダン」の新型を公開した。かたや電気自動車、かたや内燃機関搭載車とはいえ、どちらも同じ3シリーズなのだが、どうも世間の受け止めはそうではないらしい。それはともかく、「Mスポーツ プロ」も設定された新型の技術的ハイライトを解説する。
-
目指せ国内生産100万台! 日産の国内事業再編にみる思惑と狙い 2026.9.28 日産が将来の成長へ向けた国内事業の再構築を発表。国内生産100万台を実現すると表明した。赤字に工場閉鎖と、暗いニュースが続いていた日産だが、現状の4割増しというこの大胆な目標は、達成可能なものなのか? そもそも日本での事業にこだわる理由とは?
-
あのクルマはなぜ売れている? 自販連のデータから“日本車の今”を読む 2026.9.25 ここ数年の自販連のデータからは、国内市場におけるトヨタのゆるぎない強さが見てとれる。ではその実績から、人々にどんなクルマが求められているといえるのか? 統計や数字の裏にある消費者マインドを探ってみよう。
-
NEW
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】
2026.10.3試乗記フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――ランボルギーニ・テメラリオ編
2026.10.2webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。プラグインハイブリッド化によってさらなる高性能を手にした、ミドシップスーパースポーツの走りを語る。 -
第876回:“ヨコハマ史上最高”が目白押し SUV向けスタッドレスタイヤの新製品「アイスガード8 SUV」を試す
2026.10.2エディターから一言2026年9月1日に販売が開始された横浜ゴムのSUV用スタッドレスタイヤ「アイスガード8 SUV」。従来製品との比較で氷上性能を14%、雪上性能を4%、耐摩耗性能を11%アップさせたというその実力を、一足先に冬のテストコースで確かめた。 -
メーカー団体もついに本気になった? 日本における「自動運転」の未来と現在地
2026.10.2デイリーコラム日本の自動車メーカー14社で構成される日本自動車工業会が、記者会見で「自動運転」の普及・実装へ向けた取り組みを発表した。彼らは、どのようなロードマップで自動運転の社会実装を考えており、そこにはどのような課題があるのか? -
安いのは分かってる 軽スーパーハイトBEV「BYDラッコ」のお買い得度を検証する
2026.10.1デイリーコラムBYDの軽スーパーハイトBEV「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。すでに各所で報じられているとおり安いのは間違いないが、装備内容等も考慮したうえでの買い得度はどんなものか。ライバル車との比較を通じて検証した。 -
マツダCX-5 L(後編)
2026.10.1あの多田哲哉の自動車放談ファン待望の新型「マツダCX-5」ではあるが、試乗した多田哲哉さんは気になるところがある様子。一体、どんなところが……? さまざまな車両を開発してきた専門家としての意見を聞いてみよう。










































