アルファ・ロメオ ミト クアドリフォリオ ヴェルデ(FF/6MT)【試乗記】
エンジンもいい 2010.08.03 試乗記 アルファ・ロメオ ミト クアドリフォリオ ヴェルデ(FF/6MT)……328.0万円
“ベビー・アルファ”「ミト」に、新型エンジンを搭載する最上級グレードが登場。クローバーのエンブレムに込められた、その実力のほどは?
四つ葉のクローバーは幸運のシンボル
7月よりラインナップに加わったアルファ・ロメオ ミトの高性能版「アルファ・ロメオ ミト クアドリフォリオ ヴェルデ」の試乗前日。「そういえばあの四つ葉のクローバー(Quadrifoglio Verde=クアドリフォリオ・ヴェルデ)を最初につけたアルファのドライバーはだれだっけ?」と思って、『CAR GRAPHIC選集 ALFA ROMEO』(二玄社・刊)を本棚から引っ張り出す。ページをめくりながら、こんな一節に目が止まった。
「その後も1934年から39年までの間に造られた『6C 2300』が1606台で、年平均にすると300台そこそこにすぎない」
これは自動車史の権威である高島鎮雄さんがお書きになった記事で、戦前のアルファ・ロメオが高性能車をごく少量だけ生産していたことがわかる。高島さんは、さらに筆を進める。
「事実1934年に『6C 2300』を発表して以来、1970年にSOHCの『アルファスッド』を出すまで、アルファ・ロメオにはDOHC以外のエンジンをもった乗用車は1台もなかった」
いかんいかん、夜更けについ読みふけってしまった……。山道を飛ばしたり女性を隣に乗せたり家族でキャンプに出かけたり、クルマにはいろんな楽しみ方があるけれど、本年6月に創立100周年を迎えたアルファ・ロメオには歴史を振り返る楽しみもあるのだ。
そうそう、四つ葉のクローバーを最初につけたドライバーはウーゴ・シボッチでした。1923年のタルガ・フローリオ(1906年から1977年までシチリア島で開催された公道レース)で優勝したシボッチさんは、「幸運を呼ぶシンボル」として6気筒エンジン搭載のRLに四つ葉のクローバーのペイントを施していたのだ。以来、四つ葉のクローバーは、アルファ・ロメオのレーシングモデルや高性能バージョンのシンボルマークとなっている。
木綿から絹ごしへ
「アルファ・ロメオ ミト クアドリフォリオ ヴェルデ(以下、QV)」の試乗当日。もちろん過去を振り返るだけでなく、アルファ・ロメオは次の100年に向けた新技術にも取り組んでいる。「ミトQV」に搭載される「マルチエア」エンジンがその代表例だ。FPT(フィアット・パワートレイン・テクノロジーズ)が開発した「マルチエア」テクノロジーによって、燃費と最高出力が10%、最大トルクが15%向上するというのだ。
1.4リッター直列4気筒ターボの「マルチエア」エンジンの第一印象は、「扱いやすい」「洗練されている」というもの。すでに日本に導入されている「ミト1.4Tスポーツ」用の1.4リッター直4ターボも、低回転域のトルク不足を感じることはなかった。けれど、「マルチエア」エンジンはさらに一枚上手。トランスミッションは6MTのみとなるが、アイドル回転でクラッチをつないで、そこからじわじわっとアクセルを開けるような操作をしてもグッと力強く前に出る。頼もしい。
エンジンの回転フィールが滑らかになったのもうれしい。従来の1.4リッターターボユニットが木綿豆腐だとすれば、同排気量の「マルチエア」エンジンは絹ごし豆腐の感触。さりとてシュンシュンと軽薄に回転を上げるのでなく、ある種の重みを感じさせる点が上品で好ましい。リッチなトルクとスムーズなフィーリングを併せ持つ「マルチエア」エンジンによって、走りの質感が1ステージ上がった印象だ。
エンジンが大人っぽくなったと書くと、面白みがなくなったと心配される方がいるかもしれない。けれども心配ご無用。最高出力は、「ミト1.4Tスポーツ」用の1.4リッター直4ターボより15ps強化された170ps。4500rpmから上で、濁りのない乾いた快音とともにパワー感がモリモリ盛り上がる。アクセル操作に対する反応もキレキレだ。D(ダイナミック)、N(ノーマル)、A(オール・ウェザー)の3つのモードが用意されるのは「ミト1.4Tスポーツ」と同じ。Dモードを選ぶと、胸のすくようなレスポンスが得られることも変わっていない。
「マルチエア」ってどんな技術?
楽しさと上質さを増量しながら消費燃料は減少させるという、夢のような「マルチエア」エンジンのキモは、吸入する空気の量をスロットルバルブではなく吸気バルブでダイレクトにコントロールするところにある。スロットルバルブを廃すことでポンピングロス(吸気抵抗)が減り、吸気バルブで直に吸入空気量をコントロールすることからエンジンのレスポンスも向上するという。また、吸気バルブが開閉する時間やリフト量のコントロールの自由度も増すので、吸入空気量をその時の状況にぴったり合わせることが可能となる。
たとえば低回転域では「吸気バルブを早めに閉じる」ことと、「吸気バルブのリフト量を少なくする」ことを組み合わせて、トルクの確保と省燃費を両立する。逆に高回転域では、「吸気バルブを長く開ける」ことと、「吸気バルブのリフト量を大きくする」ことでパワフルな特性を得る。
ここまで読んで、ピンときた方も多いかもしれない。「マルチエア」の基本的な考え方は、BMWのバルブトロニック、トヨタのバルブマチック、日産のVVELなどと共通しているのだ。
「マルチエア」と並ぶもうひとつのエンジン関係のトピックは、アイドリングストップ機構が備わることだ。アルファが「スタート&ストップ」システムと呼ぶこの仕組みは、停車してクラッチペダルから足を離すと自動的にエンジンが停止、クラッチペダルを踏み込むとエンジンが作動する仕組みになっている。エンジンの再始動はスムーズで迅速。丁寧にチューニングされている印象で、運転のリズムを崩すおそれはない。30度を超す猛暑の中ではエンジン が停止してから20秒ほどでエアコン吹き出し口からの風がぬる〜くなったけれど、それが気になるなら「スタート&ストップ」を解除するスイッチを押せばいい。
といった具合に、エンジン関連の話題が豊富な「ミトQV」であるけれど、ホントに感心したのはエンジン以外の部分だった。
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お値打ち価格
個人的に、いままでの「ミト1.4Tスポーツ」の最大の弱点は乗り心地だった。特にリアからの強い突き上げは閉口モノ。敏しょうで活発なところがこのクルマの持ち味、多少の粗さには目をツブらざるを得ないのかも……。そう思っていたけれど、「ミトQV」では目をツブらずに、カッと見開いたまま運転できる。電子制御による可変ダンピング機構が備わるショックアブソーバーによって、シャープに反応する運動神経を損なうことなく、しっとり滑らかな乗り心地を獲得したのだ。
「ダイナミックサスペンション」と呼ばれるこのシステムは、DNAの3モードとも連携している。すなわち、Dモードではピリ辛のスポーティな味付け、Nモードではふんわりやさしいフィーリングとなる。Dモードではそれなりの硬さを感じるけれど、Nモードを選べばリアから伝わるズシンバタンとはお別れ! 「マルチエア」エンジンも「ミト」の洗練度アップに貢献しているけれど、「ダイナミックサスペンション」の貢献度はそれ以上だと思った。
心臓部と足腰に新機軸を盛り込んだ「ミトQV」のお値段は、「ミト1.4Tスポーツ」より43万円高の328万円。ただし「ミト1.4Tスポーツ」では20万円のオプションになるFrau製のレザーシートや、オプション設定すらされないBOSEのオーディオが標準装備されることを思うと、むしろお値打ち価格か。手触りのいい革シートに収まり、BOSEのスピーカーから流れる音楽に耳を傾けていると、手あかにまみれてはいるけれど“小さな高級車”という言葉が浮かんだ。高性能化はもちろん、上質さの追求や環境への対応など、現代の四つ葉のクローバーは昔よりちょっとだけ形が複雑だ。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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