第409回:あー、楽しかった! サッカー日本代表と「日産ジューク」に見る日本再生の妄想(?)
2010.07.02 小沢コージの勢いまかせ!第409回:あー、楽しかった! サッカー日本代表と「日産ジューク」に見る日本再生の妄想(?)
ちょっとしたことで変わった、ジュークと日本代表
あー、楽しかった。夢見させてもらったな、サッカーワールドカップ(W杯)2010! っていうかまだ終わってませんけどね。ある種のものは終わりましたね。日本代表の終わりとともに。
最後のパラグアイ戦のPKは残念だったが、おもしろかった。どっかのビールのテレビCMじゃないけど、草サッカー仲間と六本木のバーで肩組んで叫んだ。カ・ワ・シ・マ〜ってね(笑)。今回分かったのは、ブラジル人、アルゼンチン人って毎回こんなにW杯を楽しんでたんだ〜ってこと。ヨーロッパ人もそうだけどさ。
俺が言うまでもないけど、サッカーをスポーツとして見るのと、同胞の戦いとして見るのとでは、意味合いと快楽度が全然違う。なんでもないボールのクリアでも喜べる。別に1点も入らなくてもいいわけよ。
それはきっと心が選手たちと同化してる(たぶんね)からなんだよね。これで日本も快楽のラテン、ブラジルに一歩近づいた! と思いました。違うか(笑)。
さて、開幕当初は、かつてないほど“期待できない”日本代表とか言われておきながら、終わってみれば“今までで一番良かった”とまで言われるチームの変ぼう。それはちょっとしたきっかけというか、小さなことだったよう。
で、それはクルマ作りも同じだと思ったのが、先日デビューした「日産ジューク」。ベースは「キューブ」や「ティーダ」と同じ定番Bプラットフォームを使い、パワートレインも現状既存の1.5リッター直4。新たにデュアルインジェクターや日産自慢の新型エクストロニックCVTを装備しているものの、基本、低速トルクとレスポンスを強化しているだけで、特別斬新なテクノロジーを使ってるとか、素材をおごってるわけじゃない。ポイントは考え方であり、発想なのだ。
売れるクルマを作らない!?
聞けばジューク最大のコンセプトは「生まれながらのオリジナル」。つまり、今までにない! ということに焦点を合わせて誕生した。これはなかなか出来そうで出来ないことで、要するに今まで売れたとか、こういうクルマが評判いいという前例主義からの逸脱がすごい。
今の日本は、エコカーを除き、軽とコンパクトとミニバンしか売れないから最近そればっかり出るわけだけど、「そういうものだけは作らない」と決めたのだ。
ターゲットはイギリス在住の30歳独身のグループリーダー。それも本当にその人の生活スタイルというより、その人の「心の在り方」や「考え方」がターゲット。つまり、人と違う物を欲しがる心、カッコいいものは欲しいけどブランドにこだわらないセンス、無駄に見栄を張らない気持ちなどに焦点を定めたのだ。
結果生まれた案が、スポーツカーとSUVのクロスオーバー。言葉で言うとあまり新しさはないが、いわばいま一番味の濃い2大カテゴリーからのいいとこ取り。
しかもその取り方がユニーク。まずはデザインだが、キャビンまわりはスポーツカーで、でもその下はSUVで、フェンダーのマッチョ感はこれまたスーパースポーツカーテイストってな具合だ。
走りもスポーティはスポーティだが、“スポーツ”の解釈が違い、エンジンを上まで回してビンビンに気持ちいい! ってベタなテイストではなく、基本足は硬めだが乗り心地はフラットかつ快適、ハンドリングも普段は微妙な味わいなどない直線番長でありながら、曲がってみれば意外とシャープじゃん! ってな程度に落とし込んである。
ここに見え隠れするのはある種の古典的な“あるべき論”、つまり「スポーツカー」はこうあるべき! 「SUV」はこうあるべき! 「コンパクトカー」はこうあるべき! という常識からの逸脱ぶりだろう。
逆にその分、作り手のセンスなりイメージ力が問われるから難しいわけだが、おもしろさもある。実際今回のジュークは、若いエンジニアが喜々として作ったそうだし、その後彼ら自身が買うケースも多いとか。
自分が欲しい物を作る。それってホントにモノ作りの原点だよね。
今は「素材」より「コンセプト」
話は戻ってサッカー日本代表だけど、要するにこれまた常識からの逸脱がポイントだったように思う。一見、日本の官僚みたいな岡田監督だけど、なんとW杯開催3週間前に戦略を一変。今までのパス回しサッカーから、堅守&カウンター攻撃のサッカーに変えた。その突貫工事ぶりに疑問がなくもないが、結果は上々で、なにより選手起用、特に今までミッドフィルダーだった本田選手をフォワードに起用したところが良かったように思う。
これは技術やプレースタイル云々より、メンタル力を取ったからだと推察する。俺が見立てるところ本田選手は本番であり、大舞台に強い。つまり、プレッシャーがかかった局面で、普段通りに身体を動かせるという能力が極端に高い。これが当たったと思うのだ。最初に1点取れたしね。
ただしジュークが狙い澄まして常識ハズシをやった点に対し、日本代表はやむにやまれず常識ハズシをやった点が弱い。どうにも結果オーライな感じは否めないけどね。
とはいえサッカーもクルマも、素材や技術以上に“マインド”であり“コンセプト”がキーであることをあらためて世に示したのは大きいと思う。
残念ながらGDP(国内総生産)下がりっぱなしで、モノ作り大国からズリ落ちつつある日本。今や家電はもちろん、クルマも中国や北欧、そのほか多方面からキャッチアップされまくってるが、それでも今から常識を捨て、新時代のコンセプトを確立すれば再び逆転できるのだ! きっと。
それはわがメディア業界も同じで、いまや雑誌や新聞が低迷しまくってるが、それでも新しいコンセプトさえ見出せればやれる! 強くなれる!! と思う。というか思いたい。
ただし、そこにはいくつかキーワードがあって、それは「世界ターゲット」ということ。W杯はもちろん、ジュークも実は照準を世界に合わせたことが成功の一因だ。おそらく日本人の独身男性30歳がターゲットだったら、ジュークは生まれなかった。それこそ「クルマは要らない」という調査結果になりかねないし、それだと日産は家電メーカーになるべき!? というあまりにすごすぎる変革コンセプトになってしまうかもしれない。
つくづくこれからの目標は、世界目線であり、それも欧米だけでなく、アジアや中南米、北欧、東欧にも通用する「おもしろい何か」なんだろうね。
ってなわけで、俺も世界に向けて情報を発信するべく、ひとまずカタコト英語で新車インプレ動画でもやってみるかもしれないので、ひとつよろしくお願いしますね(笑)。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第454回:ヤマダ電機にIKEAも顔負けのクルマ屋? ノルかソルかの新商法「ガリバーWOW!TOWN」 2012.8.27 中古車買い取りのガリバーが新ビジネス「WOW!TOWN」を開始。これは“クルマ選びのテーマパーク”だ!
-
第453回:今後のメルセデスはますますデザインに走る!? 「CLSシューティングブレーク」発表会&新型「Aクラス」欧州試乗! 2012.7.27 小沢コージが、最新のメルセデス・ベンツである「CLSシューティングブレーク」と新型「Aクラス」をチェック! その見どころは?
-
第452回:これじゃメルセデスには追いつけないぜ! “無意識インプレッション”のススメ 2012.6.22 自動車開発のカギを握る、テストドライブ。それが限られた道路環境で行われている日本の現状に、小沢コージが物申す!?
-
第451回:日本も学べる(?)中国自動車事情 新婚さん、“すてきなカーライフに”いらっしゃ〜い!? 2012.6.11 自動車熱が高まる中国には「新婚夫婦を対象にした自動車メディア」があるのだとか……? 現地で話を聞いてきた、小沢コージのリポート。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。