ホンダCR-Z α(FF/6MT)【試乗記】
草食系「グリーンマシン」 2010.04.30 試乗記 ホンダCR-Z α(FF/6MT)……310万9500円
受注好調が伝えられる「CR-Z」。MTとCVT、買うならどっち? 売れ線「白のアルファ」に乗って、下野康史の出した答えは?
え、日本向けじゃなかった?
ニッポンのクルマ好き再興のために送り出されたホンダ渾身(こんしん)の作、かと思ったら、「CR-Z」は実は対欧戦略車である。現在、市場シェアで5%にも満たないヨーロッパでのプレゼンスを上げるために、若年層向きのコンパクトスポーツとしてつくられたのがこのクルマだ。
IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)と呼ばれるホンダのシンプルなハイブリッドは、複雑な動力分割機構をシステムの中心に置くトヨタ方式と違って、マニュアル変速機に対応しやすいのがメリットである。「クルマはマニュアル」が今もあたりまえのヨーロッパ向けに、当然、MT仕様がラインナップされた。というか、欧州仕様のCR-ZはMTモデルのみである。日本も、フタを開けてみると販売の4割がMTだという。ちなみに、MTもCVTも価格は同じだ。MTの「α(アルファ)」(249.8万円)に乗って、「『CR-Z』はMTかCVTか」というモンダイを考察してみた。
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ハイブリッドと気づかない
「CR-Z」は「インサイト」をベースにした2+2の3ドアスポーツクーペである。車台と足まわりは「基本インサイト」だが、“スポーツ化”するためにパワーユニットは強化された。4気筒i-VTECは2バルブの1.3リッターから4バルブの1.5リッターに代わり、エンジン出力はインサイトの88psから114ps(CVTは113ps)に向上している。
一方、14psのモーターや駆動用バッテリーは変わらない。試作段階では、エンジンを1.3リッターのままにして、モーターの出力のほうを上げるトライもやってみたらしいが、コスト面での制約もあり、厚さ6cmの薄型モーターを使うコンパクトなインサイトの電動アシストメカを流用することになった。
このことが、まさにCR-Zというハイブリッドカーの性格を特徴づけている。このクルマ、IMA独特の“電動アシスト感”が希薄なのだ。つまり、ハイブリッドらしさがあまりない。電力系はイジらずに、エンジンだけをパワーアップした。相対的にモーターのプレゼンスが減じたのだから、そうなるのも当然だ。停車すればアイドリングストップするので、エコカーということは意識させるものの、アイドリングストップしなければ、ハイブリッドであることに気づかない人もいると思う。
だから、MTのCR-Zは、フツーのエンジン車のMTとそう変わらない。CR-Zの新趣向は「スイッチひとつで走りのテイストを選択できる」3モードドライブシステムだ。ノーマルのほかにエコノミーとスポーツがあり、パワーユニット/CVT/ステアリング/エアコンなどの作動特性をモードに合わせて統合制御する。MTモデルにも標準装備されるが、ギアチェンジはドライバーの仕事だから、当然、変速機の制御はカットされる。
さらに細かい話をすると、アイドリングストップが長く続いて、駆動用バッテリーの電圧が低下しても、CVTのように自動でエンジンが再始動することはない。ギアがニュートラルなら勝手にエンジンがかかってもいいはずだが、それをやるとMTドライビングとの間にソゴが生じて、違和感を与えてしまうからだそうだ。電圧が低下しても、MTの場合、計器盤に「クラッチペダルを踏んでエンジンを再始動させてください」というメッセージが出るだけである。ハイテク次世代車とはいえ、MTモデルは文字どおりマニュアル領域が広いわけだ。
やっぱり期待は“あのモデル”
もっぱら街なかでMTのCR-Zを走らせていて、気になることもあった。アイドリングストップに入るタイミングがちょっと早すぎるのである。たとえば、一時停止箇所のような場面。なにもエンジンきれなくていいのに、と思うところできれてしまう。CVTならアクセルを少しでも踏めば再始動するが、MTの場合、左足を床まで踏みきらないとかからない。クラッチペダルそのものは軽いが、動きが大きいので面倒くさく感じる。もう少しアイドリングストップを待つ設定に変えたほうがいいと思う。
しかし、個人的にはやはりCVTよりMTをとる。CVTだと、動力性能がややモッサリした印象になる。とくにエンジン回転の落ちが悪くなるのがいやである。とはいえ、MTのCR-Zだって、「シビック タイプR ユーロ」のようなガツンとくるスポーティカーではない。アイドリング付近のトルク感はオヤッと思うほど細いし、6600rpmのレブリミットまで回しても、アドレナリンは出ない。そこはやっぱり草食系の「グリーンマシン」である。
ヨーロッパでトルクのぶっといターボディーゼルのコンパクトスポーツハッチと戦うのは、けっこうタイヘンかもしれない。だからホンダさん、CR-Zの“タイプR”お待ちしてますよ。
(文=下野康史/写真=河野敦樹)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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