メルセデス・ベンツGLK350 4MATIC ブルーエフィシェンシー(4WD/7AT)【試乗記】
濃さを増したメルセデスの味 2012.10.04 試乗記 メルセデス・ベンツGLK350 4MATIC ブルーエフィシェンシー(4WD/7AT)……703万4000円
4年ぶりのマイナーチェンジで、内外装やエンジンに手が加えられた「メルセデス・ベンツGLKクラス」。進化のほどを、500kmのテストドライブでチェックした。
起死回生のテコ入れ
自動車業界で「ドイツ御三家」といえばアウディ、BMW、そしてメルセデス・ベンツのプレミアムブランドのことだ。
でも、すべてのクラスで互角の闘いを演じているわけではない。例えば頂点のLセグメントはメルセデス「Sクラス」の圧勝だ。かと思うと、逆にそのメルセデスが脇役となっている分野もある。DセグメントのSUVだ。
このクラスのパイオニアはBMWの「X3」で、2009年にメルセデス「GLK」とアウディ「Q5」が参入し、昨年はX3が第2世代に進化した。よって一番多く見かけるのはX3なのだが、東京に話を限ればQ5の数も負けてはいない。GLKだけが、ちょっと陰の薄い存在になりつつある。
理由はある程度想像できる。まずは左ハンドルのみだったこと。左ハンドルがステータスだった時代はとうの昔に終わっているし、本国仕様にこだわるユーザーが多い並行輸入車さえ、最近は右ハンドル志向が高まっているとその筋から聞いた。国産車からの乗り換えも多いこのクラスで、左しか選べないのは痛手だったはずだ。
しかも、唯一のグレードである「GLK300 4MATIC」の価格は675万円もした。同じ年に登場したQ5は、2リッター直列4気筒ターボエンジン搭載車なら569万円(翌年以降は574万円)だし、現行X3はGLKと同じ3リッターの6気筒を積むモデルが598万円だった。
もちろんメルセデスも企業努力はしていて、2011年末に装備を簡略化した「GLK300ライト」を599万円で登場させたのだが、今年に入るとX3の2リッター4気筒ターボ搭載モデルが541万円で登場。ダウンサイジング化の流れさえ生まれつつある。
2012年7月に発売されたマイナーチェンジ版GLKは、こうした劣勢をはね返すための、起死回生の一手かもしれない。その証拠に価格は599万円に抑えてある。では走りはどうなのか? そう思いつつ右側のドアを開けたら、そこに運転席はなかった。
デザインは強く、重厚に
GLKは新型になっても、左ハンドルしか選べないのだった。これは本当に残念。4645×1840×1669mmというボディーサイズはライバル2台に比べると幅が40〜60mmも狭く、スクエアなスタイリングと高めの着座位置のおかげもあって、取り回しがしやすかったからだ。
ちなみにそのエクステリアは、フロントグリルがアグレッシブになった。角張ったキャビンともども、スポーティー&エモーショナル路線のライバルとは対照的で、個人的にはあまり引かれないけれど、名前同様「Gクラス」の雰囲気を継承したという点で、メルセデス好きのユーザーには受けるかもしれない。
インテリアは、エアコンのルーバーが丸形になるなど、このブランドの最新トレンドを採り入れてある。外観同様、流麗さよりも重厚さを強調した造形だ。シフトレバーがコラムに移ったことも新型の特徴。おかげでセンターコンソールに収納スペースが増えた。
前席は厚みがあって固いという、いかにもメルセデスらしい着座感。前にも書いたようにヒップポイントが高めであるうえに、現在のクルマとしては異例にウインドスクリーンが立っているので、背もたれを起こした、昔ながらのクロスカントリー4WD的なポジションが似合う。
後席の高さは前席以上で、足を自然に下ろした快適な姿勢が取れる。座面は前席ほど固くはなく、適度なくぼみがあって落ち着ける。身長170cmの僕が座ると、ひざの前には20cmぐらいの空間が残るので広さも十分。後方の荷室は、奥行きや深さはほどほどだが、幅があるので不満を覚えることはないだろう。
6気筒ならではの上質感
このボディーを走らせるエンジンは、V6のまま排気量が3リッターから直噴の3.5リッターに拡大された。ライバルがダウンサイジングを推し進めているのになぜ? と疑問に思う人がいるかもしれないので、最初に今回テストした実燃費の数字を示すと、510.3km走って9.95km/リッター。限りなく10km/リッターに近かった。
欧米に比べてストップ&ゴーが多い日本の道路では、ターボ過給によるダウンサイジングエンジンは燃費のバラつきが大きい。高効率な自然吸気ユニットのほうが、良い数字をたたき出せる場合もある。今回の燃費数値はそれを立証したわけだ。
しかも4気筒と比べれば、6気筒ならではの滑らかかつ静かなフィーリングは、プレミアムブランドにふさわしい。最高出力は306ps、最大トルクは37.7kgmと、旧型と比べて75ps、7.1kgmもアップしているから、絶対的な加速能力も向上しているけれど、それ以上にマルチシリンダーならではの上質感がうれしい。
しかも乗り心地が、正真正銘のメルセデスである。今回の試乗車は「AMGエクスクルーシブパッケージ」装着車で、標準では前後とも235/60R17だったタイヤはフロント235/45R20、リア255/40R20になっている。低速では足元の硬さが目立つ場面もあるけれど、ストロークは十分に確保してあるので、大入力でもジワッと吸収して車体をフラットに保ってくれる。
反応に鋭さはないが正確なハンドリングも、典型的なメルセデス・ワールドだ。操舵(そうだ)角に応じてギア比を変えるダイレクトステアリングを用いながら、操作感は自然。スロットルレスポンスについても言えるけれど、ドライバーが必要とする動きを過不足なく引き出せる。いい機械と触れ合う快感を味わえるのだ。
だからこそ、ハンドル位置の関係で堂々と薦められない現状が、何とも歯がゆい。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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