メルセデス・ベンツGLK300 4MATIC(4WD/7AT)【試乗記】
セダンのような優等生 2008.11.26 試乗記 メルセデス・ベンツGLK300 4MATIC(4WD/7AT)……725万3000円
自動車のダウンサイジング化の流れがSUVにも波及した―― このたびメルセデス初のミドルクラスSUV「GLKクラス」が日本に上陸。その第一印象をお伝えする。
いかついけれど、コンパクト
このところ高級ビッグSUVが大流行したが、ふと我に返ってみると、「ちょっと邪魔だなあ」とも思う。威圧感ありすぎだし。そんな風に考えると、もう少し手頃でカジュアル感もあるSUVがこれからのトレンドになっていく気がする。
そんなミドル級SUVのジャンルに名乗りをあげたのが、新しい「メルセデス・ベンツGLK」。立派な存在感を誇るGLクラスのイメージをそのままに、全長4.5m級にまとめた新作で、名前の末尾にある“K”はドイツ語のkurz(英:short)の頭文字、つまり短いGLクラスという意味だ。
少しコンパクトとはいえ、いかついルックスは一人前以上。巨大な岩石から一気に削り出したような逞しさが印象的だ。でも実際に乗ってみると、とても優しいのがGLK。少しタフな乗用車といったところだ。これなら家族の一員として、普段の暮らしにも便利に使えるだろう。
それもそのはず、このボディサイズからもわかるように、基本となるプラットフォームには、セダン系のコンパクト路線を受け持つ「Cクラス」と共通の部分が多い。優秀なプラットフォームが一つあれば、セダンやワゴンだけでなくミニバンからSUVまで作れてしまうのが今のクルマ界の常識で、GLKもそれが背景になっている。だから大きな「GLクラス」や「Rクラス」などとは違ってアメリカ工場ではなく、こちらの製造はドイツのブレーメン工場が受け持っている。
セダンから乗り換えても違和感なし
もちろんメカニズムの大半もCクラスからの移植で、3リッターのV6エンジン(231ps)はC300と共通だし、自慢の7段AT(7G-TRONIC)も同じ。サスペンション形式は同じで、最低地上高を18cmまで高めてある。これに19インチホイール(オプションのオフロードパッケージは20インチ)だから、とりあえず平和な“ソフト・クロカン”としては十分だろう。
室内も乗用車ムード満々で、ダッシュボードの眺めにもゴツさは薄い。オフロードパッケージではそれ専用のスイッチが加わるが、それ以外はCクラスから乗り換えても違和感はない。身長170cm以上のドライバーが楽な運転姿勢を取った後ろでは膝の前に拳骨2個ぶんの余裕があるから、スペースの点でもセダンとして問題ない。
さすがに天井は高く、頭から拳骨1個半はある。荷室フロアの奥行きは90cm近く、天井までは80cmあり、後席のバックレストを倒すと(軽いシングルフォールド)コンソールの端まで1.7mはある。床が地面から70cmというのはSUV としては低いほうで、快適なワゴンとしても使いやすそうだ。
そんなメルセデスGLK 、走ってみると優等生そのもので、やはり少しだけ腰高かなと感じる以外は、普通のセダンの常識がそのまま当てはまる。SUV用のタイヤ(BSデューラーH/P)のノイズもよく遮断されているし、トップギア(7速)での100km/h巡航がわずか2100rpmにしかならないギア比の効果もある。ちなみに6速では2400rpm、5速では2900rpmで、ここでやっと並みのクルマのトップに近くなる。というより、Dレンジで走っている限り、いつどこで自動的なシフトが起きたのかなど、よほど注意深くタコメーターを睨んでいなければわからない。
唯一の欠点は左ハンドル
ちなみにオプションのスポーツインテリアパッケージではステアリングホイールにマニュアルシフト用のパドルが備わるが、もともとフロアのシフトレバーでも操作できるし、Dレンジの学習機能(走行状態やドライバーの癖を読んでコンピューターが自主的にギアの選び方を考える)が優秀なので、強いて選ぶ必要性は薄い。
乗り心地もソフト感としっかり感が高い水準で両立している。コーナリングもそこそこ鋭い。普通こういう種類のクルマで元気に走ると、コーナーからの立ち上がりで外側の前輪に重量がのしかかり、タイヤが腰くだけ気味にヒイヒイ鳴ったりすることが多いが、その点もGLKは自然にこなす。自慢のフルタイム4WD(4MATIC)のパワー配分を基本状態で前45%後55%と後ろ寄りに設定してあるのが効いている。
なによりの長所は、周囲がよく見えることだ。最近のセダンは斜め後ろを確認しにくいことが多いが、素直なボックススタイルだけにGLK は車庫入れも楽々だ。そのうえ乗りながら気付くのは、今どきのクルマにしてはフロントウィンドウがが立ち気味なので、交差点で歩行者を見落としにくいということ。アウトドア・イメージのSUVでありながら、シティカーとしての使い勝手も高い。ガラスが立っているということは、そのぶんボンネットを長く見せる効果もあるから、押し出し感を好むSUVのユーザーには嬉しいポイントかもしれない。
そんなGLKで惜しいのは、日本仕様でも左ハンドルしか選べないこと。いろいろ技術的な理由があるそうだが、ここは将来なんとか解決してほしいところだ。その他は文句の付けようがないのだから。
(文=熊倉重春/写真=高橋信宏)

熊倉 重春
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。









