第402回:トヨタは悪くない? プリウスリコール発動に見る、超神経質社会ニッポンへの恐怖
2010.02.15 小沢コージの勢いまかせ!第402回:トヨタは悪くない? プリウスリコール発動に見る、超神経質社会ニッポンへの恐怖
ぶっちゃけ過剰反応では?
今ちまたの話題をさらっているプリウスリコール問題。詳しく直接取材したわけじゃないし、ニュースを見たり、リリースを読んだりしてる程度での感覚だけど、俺的には過剰反応に思える。大ざっぱに言えばアメリカという世界的クレーマー、もしくはモンスターペアレンツ的存在に遭遇し、そのネガティブキャンペーンが日本に飛び火してしまったようなもんだと思っている。
別にトヨタを特別扱いせよというわけではない。問題があったのならしっかりと正すべきだ。だけど、プリウスが無ければマジメな話、日本の自動車産業、ひいては物作りはここまでプライドを保てなかったと思うのだ。
安くていいもの、という意味では完全に韓国に追いつかれつつあるし、中国がくるのも時間の問題。その特殊性はさておき、日本はハイブリッドカー的なものを作り続けないと、いわゆる物作り二流国になってしまう。それは体操王国ニッポンだったころに塚原がムーンサルトを跳び、東洋の魔女たる女子バレーチームが回転レシーブを編み出したようなものだ。プリウスは日本の秘技なのである。
そのプライドを、なぜよってたかってボロボロにし、捨て去らせようとするのだろうか。報道するなというわけではない。ただ、その姿勢は明らかにバランスを欠いている。
問題とされているプリウスのブレーキは、具体的には滑りやすい路面でABSが作動した時、回生ブレーキから摩擦ブレーキに切り替わる瞬間、ちょっとした油圧の遅れがあり、フィーリング的に“抜ける”らしい。だけど、新聞によるとタイムラグはたったの0.06秒!! まさにABSのポンピングに毛が生えたような程度で、無いも同然。そうでなくてもペダルを踏み増せば、ちゃんと摩擦ブレーキは効くという。一説によるともっとラグが長いという話があるが、それは公式なものではない。
10数年前、ABSの出始めに空走感があった事や、走行中にボンネットが開いた(!)イタリア車のことを考えると、個人的には、なぜ今回はそんな大騒動に……と思ってしまう。
それか仮にそれが非常に悪いものだとして、遅れるにはなんらかの理由があったはず。その理由が単なるコストダウンだったら厳しいが、制御を確実にするためにプログラマーが“わざと”タイムラグを設けたのかもしれないし、制御が干渉しあうのでリスクを避けたのかもしれない。だったら仕方ない部分もあるではないか。
もちろん後でこっそり一部車両のプログラムを修正していたことや、マスコミ対応にも多少のミスがあったのかもしれないが、それがそんなに悪いことだろうか。
チャレンジには失敗がつきもの
俺はこの一連の報道や反応の奥底に、正義という名の下にトヨタという世界的企業の足を引っ張りたい、貶めたいという、人間の醜い感情を見た気がする。まさに「出る杭は打たれる」だ。
そもそも人間はいつまで、モノに完璧を望むのだろうか。そんなに完璧でなければ売ってはいけないのだろうか。何事も新しい事にチャレンジする時には失敗が付きものだし、多少は使う人間がカバーすればいいだけの話。もっと寛容にみる“善”な判断もあっていいじゃないか。なぜそんなにネガティブかつ厳密に捉えるのだろうか。自分はそんなに完璧な人間なのか。
この現代日本のある種の“潔癖主義”は他にも多いが、特に安全性が重視されるクルマにおいてはあちこちに見え隠れする。たとえば去年「マツダ・アクセラ」に搭載されたアイドリングストップ機構『i-stop』。エンジンのクランク停止位置までコントロールし、ガソリンをなるべく使わず、振動も少なく、素早く再始動しようという発想には素直に感動し、実際の出来にも驚いたが、現実“あまり止まらない”のにはもっとびっくりした。
特に夏場、信号で停止しても大ざっぱにその半分のタイミングで止まらない。たとえバッテリーが十分生きていたとしてもだ。理由はステアリングがある一定角以上に切れていたり、車内が一定の温度や湿度を保ってないからだが、これまた日本独特の「過剰心配」に思える。
具体的には信号で右折待ちしている時、エンジン止まったら怖いだろうとか、特に女性ドライバーにとっては危険だろうとか、真夏にアイドリングストップするとエアコンが切れちゃって暑すぎるだろう等への配慮だが、一体それがどうしたというのだろうか。
人間、暑くったって耐えられるし、別にエアコンがずっと動かないわけじゃない。右折はちょっと心配だけど、それも慣れやシグナルの出し方の問題。新しい概念の導入にはリスクが付きものなのだ。だいたいあまり止まらないアイドリングストップを付けたって意味がないではないか!
それと世界初の量産電気自動車の「三菱iMiEV」。これにも日本独特の神経質さが満載だった。まずはブレーキだが、まさしくプリウス同様、回生ブレーキと摩擦ブレーキのフィーリングに気を遣い、結果あまり回生率を高められなかったようだし、加速に関しても、電気モーターは特性として発進直後に巨大トルクを発生するので本来もっと速くできるが、極端さを嫌いマイルドな味付けになった。その結果、多少本来の魅力を削いでしまっていて、正直、日産リーフのプロトタイプの方が速くて楽しかった。
日本を盛り上げないと!
つくづく俺は、現代の日本の超神経質社会を憂う。これじゃ、傷つくのを恐れて恋愛をしない20代の若者みたいじゃないか。ネガティブ発想中心で、自分の魅力と能力をアピールするどころか、全く見せもしない。ある意味、サッカー日本代表のダメダメフォワードのよう。非常に臆病な上、それを周りが無意識的に求めるのだ。
これが世界的傾向ならばまだいい。全部の国が臆病に物を作るならば、等しくコストが懸かるし、競争力の差は生まれにくい。でも今や世界にはあのアグレッシブな中国がある。インドもブラジルも台湾もある。今回の件は決定的に日本に不利だ。
ただでさえ神経質なこの国で、このリコール騒ぎ。今後トヨタはもちろん、日本企業がますます神経質になり、チャレンジングな物作りがしづらくなるのは明白だ。開発は今後ますます長期化し、お金がかかるようになり、結局それはユーザーに転換される。つまり、日本製品はますます高くなり、その上海外で通用しなくなる。まさしく“超ガラパゴス化”。不況も心配だ。
それに不思議なのは、テレビや大新聞などマスコミの態度だ。なぜにそんなにトヨタや物作り企業の足を引っ張りたがるのか。不正は正す必要があるが、必死であら探ししてどうする。だいたい自動車のデメリットを探すのならば、メリットも見つけてアピールしてくれ。それが公正な報道ってものじゃないか。
だいたい今回の問題は、そもそもファーストフードのコーヒーがこぼれて火傷したら、その店を訴訟するような国、アメリカが発端だ。その波に乗って、自国を代表する企業を叩くってどういうことなんだろう。そんなに自殺したいのか。潔癖に生き、潔癖に過ごすのもいいが、終いにゃ死んじゃったらどうするんだ? 誰が責任を取るんだ?
ってなわけで話がだんだん感情的になってきましたが、世の中のプリウスユーザー、特に雪国の人よ、今こそ出番です。本当にブレーキがダメなら仕方がありませんが、不具合と感じない人、あるいは無意識でカバーしてる人も多いだろうし、変わらずいいクルマだと思う人も多いはず。誤解を解きましょう。そしてもっとクルマを前向きに、日本の未来を前向きに語りましょう。
今回トヨタはプリウスで、ちょっとコストや開発で“攻めすぎた”のかもしれない。初代、2代目の成功で気がゆるんだのかもしれない。だが、企業だって人間の集合体だ。完璧であるべき……という考えもあるが、俺はそうは思わない。人間は人間だ。失敗もやり過ぎもある。神経質さに未来はないし、神経質さを強いる法律には疑問を覚える。
俺は依然としてプリウスは素晴らしいと思っている。運転の手応えはちょっと物足りないし、疑問もなくはないけど、魔球具合はやはり格別だ。それは全く変わらない。
(文=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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