第109回:「お色気トラック」に自動追尾オン!
2009.09.19 マッキナ あらモーダ!第109回:「お色気トラック」に自動追尾オン!
困ったトラック運転手
日本の自動車メディアが伝える伝統的イメージからすると、欧州の高速道路はドライバー全員のマナーがきわめて良いことになっている。しかし本当はというと、決してそうとは断言できない。事実、シートベルトやチャイルドシートの未着用、運転中の電話や携帯メール、酒・薬物を飲んでの事故は、各国で深刻な問題となっている。
イタリア交通警察が2007年に取り締まった運転中の携帯使用は約4万7000件で、前年比16%増だった。フランスでは死亡事故の7%が携帯電話使用時に起きている。
困ったものなのは、高速道路を走る長距離トラックのドライバーたちだ。退屈しのぎに携帯通話や携帯メールはもちろん、雑誌を読みふけったり、ときにはこちらで有名なパズル雑誌にいそしんでいたりする。
さらに、片足をダッシュボードに上げて運転しているドライバーもいる。ボクはそうしたドライバーをバックミラー上に発見すると、できるかぎり車線を変える。だが、これまたイタリアの悪しき慣習で、追い越し車線が“満車状態”だったりするので避けるに避けられないことが多い。
40過ぎても職業意識まるでなし、毎日つれづれなるままに原稿を書いているボクに精神論を振りかざす資格はないが、それにしても安全意識の低いプロに憤慨する。
パスタを茹でるドライバー
ただし、けっして困ったドライバーばかりではないことを彼らの名誉のためにも記しておこう。それにたびたび微笑ましいトラックに遭遇するのも事実だ。たとえばサービスエリア。トラック専用エリアで、ドライバーたちはキャンプ用固形燃料を使って堂々と自炊しているのである。ヨーロッパは日本と違って陸続きだ。近年の欧州エリアの拡大で、東欧との間を往復するトラックも増えた。そうかと思えば、先日はイタリアでフィンランドナンバーのトラックも目撃した。
そうしたいわば、コンチネンタル&グランドツーリングを何日も続けるのに、毎食サービスエリアで日本円にして2000円近くするコースをとっていたら、たまらない。そうかといって、食事をケチれば目もかすむ。そもそもイタリアのサービスエリアは、どこに行っても似たような味で、プロドライバーでないボクが数日利用するだけで飽きてくる。自炊でもしなければやっていられないのである。
とくにイタリア人ドライバーは、よくパスタを茹でていたりする。もちろん水切りも持参している。ソースの香りに思わず「ボクもまぜてよ」とお願いしたくなる。
キリスト教の聖人をキャビンのBピラーに描いたトラックも楽しい。トラックドライバーにとって、人気聖人は3人いる。聖母マリア、手の平にキリストと同じ聖痕が現れたことで有名なピオ神父、そして以前本欄でも紹介した交通安全の守護聖人 聖クリストフォロである。
大抵はエアスプレーで描かれているが、ときにはカッティングシートで聖人のシルエットを表現しているものもある。シルエットの写真がないので恐縮だが、1980年代中期の日本で一部のシャコタン系オーナーが貼っていた工藤静香のシルエットステッカーに似たものであるといえば、わかっていただけるだろうか。一見いかついトラックドライバーだが、いつも事故という危険と背中合わせの身ゆえ、実は一般人よりもずっと信心深いのに違いない。
危険なカーブ? ストレスなし
いっぽうこちらで紹介するのは、(トラックドライバーの意図とは関係ないが)同様に楽しめる荷台パネル部分のデザインである。
まずは写真1のような食欲増進系である。空腹や喉が渇いたままドライブしているときに見せられると、かなりつらい。
次の写真2は、イタリア北部ボルツァーノを本拠に、オーストリアなどとの物流を得意としている国際運送会社フェブカムが展開している「子供の絵画作品シリーズ」だ。日本で「お〜いお茶」緑茶ティーバッグの裏側に一般人の俳句が書いてあるのと同じノリであるが、選ばれた子供が学校で自慢する顔が目に浮かぶ。
かわって左の写真5は、イタリアでストッキングや下着メーカーとして有名なポンペア社のものだ。書かれたキャッチは、ずばり「危険なカーブ? ストレスなし」。一見クルマの運転のことのように思うが、実は「危険なカーブ」とは女性の体型であり、「ストレスなし」とは、同社製品の長年のセールスポイント、「締め付けの少なさ」に掛けたものである。
こうした「お色気系」トラックが前方を走行していると、筆者の頭の中の車両追尾オートクルーズセンサーが自動オンになる。居眠り防止効果がかなりあることも確認済みだ。
ただし世の中はそう甘くない。大抵写真6のようなトラックが無情にも割り込んでくる。その腹の立ちようが何かに似ていると思ったら、見たこともない他人の子供の写真入り年賀状を受け取った時のあの感じだ。
さらにこういうデザインのトラックが現れた直後にかぎって追い越し禁止区間に突入し、えんえんと抜けなくなる。
禍福は糾える縄の如し。トラックは人生も教えてくれる。
(文と写=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第957回:伝説のベルトーネが復活 新経営陣が目指すブランドの未来 2026.4.16 イタリアを代表するカロッツェリア&デザイン開発会社だったベルトーネ。新たな資本のもとで再起を図る彼らが見据えたビジネスと、新生ベルトーネのクルマの特色とは? 温故知新で未来に臨む名門の取り組みを、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
第956回:どうする“(ほぼ)ランク外”のランチア 営業マンの吐露する真情とともに 2026.4.9 鳴り物入りで復活を遂げたはずのランチアが、まさかの大不振! 新型「イプシロン」が空振りした理由とは? 1906年創業の名門が、歴史を重んじる欧州でここまで苦戦する理由とは? 営業マンの声とともに、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第955回:イタリアでは事情が違う? ニュースにおける高級外車の“実名報道”を考える 2026.4.2 目立つから仕方ない? ベントレーやランボルギーニといった高級輸入車だけが、事故を起こすたびに“実名報道”されてしまう理由とは? この現象は日本固有のものなのか? イタリア在住の大矢アキオが、日本の事故報道におけるふとした疑問を掘り下げる。
-
第954回:イタリア式「走ったぶんだけ保険」奮闘記 2026.3.26 イタリア在住の大矢アキオが、マイカーの維持費を節約するべく走行距離連動型の自動車保険に挑戦! そこに待ち受けていた予想外のトラブルの数々とは? 保険にみるイタリアのお国柄と、2カ国生活者ならではの“あるある”な騒動をリポートする。
-
第953回:「黄金のGT-R」と宅配便ドライバーになりかけた話 2026.3.19 イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオが1年ぶりに日本を訪問。久々の東京に感じた世相の変化とは? 廃止されたKK線に、街を駆けるクルマの様相、百貨店のイベント。さまざまな景色を通じて、「中からは気づけないこの国の変化」をつづる。
-
NEW
「洗車でボディーにキズがつく」って本当ですか?
2026.4.21あの多田哲哉のクルマQ&Aマイカーは常にきれいな状態で維持したいものの、クルマ好きの間では「洗車することでボディーにキズがつく」「洗いすぎは害になる」という意見もある。実際のところ、どうなのか? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いてみた。 -
ディフェンダー110 X-DYNAMIC HSE P300e(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.20試乗記本格クロスカントリービークルの「ディフェンダー」にプラグインハイブリッド車の「P300e」が登場。電気の力を借りて2リッターターボとしては格段にパワフルになった一方で、カタログ燃費はなかなか悲観的な数値を示している。果たしてその仕上がりは? -
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来
2026.4.20デイリーコラム2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。 -
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。