スバル・レガシィツーリングワゴン 2.5i EyeSight tS/レガシィB4 2.5i EyeSight tS【試乗記】
本当の「調律(チューン)」 2012.12.02 試乗記 スバル・レガシィツーリングワゴン 2.5i EyeSight tS(4WD/CVT)/レガシィB4 2.5i EyeSight tS(4WD/CVT)……422万1000円/403万2000円
スバルテクニカインターナショナルがチューニングを施したコンプリートカー「レガシィツーリングワゴン/B4 2.5i EyeSight tS」の魅力を味わった。
丁寧に磨き上げた一品
富士重工の特殊部隊「STI(スバルテクニカインターナショナル)」が放つ特別なコンプリートカーの最新作は、「レガシィ」の「tS」。
最近は「フォレスター」や「エクシーガ」にもtSがあるが、この記号の始祖はレガシィで、今回はその第二弾。最初に総括すると「成熟を極めたレガシィ」。じっくり醸されたレガシィ風味の良いところを、これ以上ないほど丁寧に磨き上げた一品と言うしかない。“Confidence in Motion”の旗印は本当で、誰でもステアリングを握った途端、まるで運転がうまくなったように思えてしまう。
例によってボディータイプはツーリングワゴン(368万5500円)とB4セダン(352万8000円)の2種類で、それぞれのベース車(2.5i EyeSight Sパッケージ)より70万円近くも高価だが、クルマや運転の本質を見抜く眼力の持ち主なら納得するはず。酸いも甘いもかみ分けた大人向きだ。
基本構成はチューニングの基本通り。サスペンションは10mmローダウンされ、フロントスタビライザーが少し細くなっている。ダンパーの銘柄はベース車と同じビルシュタインだが、スペックはSTI専用。このサスペンションを十分に生かすため、フロント(ストラット上部)とリア(左右ロワーアーム間)にフレキシブルバーを追加、フロント下部にも補強メンバーが組み込まれている。
「そういう部品を取り付けただけでは80%。あと20%がSTIならではの『隠し味』なんです」(渋谷真・実験部長)。
バランス感あふれる走行感覚
2.5リッターの水平対向4気筒はノーマルのまま(NAで173ps)。これまでターボが多かったSTI仕様だが、実はエンジンに手を加えていないところに、新しいレガシィtSの魅力が宿る。
ドカ〜ンと背中をどやしつける爆裂力はないものの、2.5リッターだから加速力に不足はない。それどころか、低回転からムム〜ンと滑らかに持ち上げ、3500rpm あたりからヒュルルルルッ………と際限なく伸びそうな気配。それも不快な身震いゼロでやってのけるのは、60年代の「1000」から連綿と受け継がれたスバル・エンジンならではで、それを味わう楽しみのため、わざわざ必要以上に加減速をくり返したくなってしまう。
高効率CVT(リニアトロニック)にはパドル操作による6段疑似マニュアルモードも備わるが、全体の制御が緻密なので、余計なことを考えずDレンジに任せっぱなしの方が良さを生かせる。
「今回NAを選んだ背景には世相もあるでしょうね。レガシィのお客さまの80%が、レギュラーガソリンのNAですから」と、商品企画の大和正明部長は説明している。
それより特筆大書したいのは、限りないバランス感のあふれた走行感覚。ガシッと逞(たくま)しくコーナーをひっつかむのとは違い、曲がろうと思ったら自然に曲がれてしまう。
スッと切り込むと同時にノーズが反応し、しっかり前輪の踏ん張り感が伝わって来るのは、フロントのスタビライザーを細くした効果だろう。
「スタビライザーが頑張りすぎると、独立懸架の良さを阻害しますから」(渋谷部長)というのは、とても正しい判断だ。
だからといってロールが過大なわけでもなく、ヒラリと鋭く身を翻せるのに、しっとり落ち着いた直進安定性も、ふと気付くとそうなっている。つまり、「さあ、乗るぞ! 走るぞ!」の気負いなど関係なく、スラッと走れてしまう。あまりにも優等生なので、なんだか肩透かしを食らった気分でもある。
豊富な経験がもたらす結果
ここで胸にしみるのは、ベースとなったレガシィそのものの素性の良さ。駄目なクルマは、いくらチューンを工夫しても駄目。細部を念入りに見直すだけでこんなに高い完成度に到達したこと自体、もともと絶大な潜在性能を秘めていた証しだろう。
その筋を的確に読んだSTI の手腕もさすがだが、その裏には、かつて世界ラリー選手権を荒らしまわった豊富な経験も脈打っている。そのうえで熱く限界を追うのではなく、「普通に乗るクルマ」としての目配り気配りを行き届かせたから、こういう結果も生まれた。
馬力を上げたり脚をガンガン固めるだけがチューン(tune)ではない。本当の意味は「調律」で、そこを正確に射抜くには、戦いの頂点を経験したからこそ可能な仕事。そういえば、クルマの隅々まで作り手の心の余裕も感じられる。
そこまで味わったうえで贅沢(ぜいたく)を言わせてもらうなら、ベースのレガシィをこそ、このように作ってほしかった。今回の新型tSはワゴン、セダンを合わせて300台のみの限定販売だが、それは特別なボディー(排気管を左右から2本出すために、右側用のステーを追加する)を量産ラインに混ぜて流すという、メーカーにとって最も面倒くさい段取りがあるから。でも、量産車がこうなっていれば余計な配慮は不要だし、それをベースとして、STIはさらに高水準の仕事に挑戦できるのではないだろうか。
その意味で新型tSは、やがてレガシィが到達するに違いない新境地への、プロトタイプと解釈しておきたい。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
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