アウディTTSクーペ(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
アウディTTSクーペ(4WD/6AT) 2008.10.15 試乗記 ……695.0万円総合評価……★★★★
日本のコンパクトクーペ市場で最も売れているという「アウディTT」に、最上級グレード「TTS」が加わった。TT初のSモデルは、他のグレードに比べ、圧倒的なパフォーマンスを発揮するのか?
完成された世界
昨年1年間の販売台数は3238台と、輸入車だけでなく国産クーペのほとんどを上回るほどの人気となった「アウディTT」シリーズ。その人気は今年も衰えを知らないようだが、この手のモデルにとっては、それは諸刃の剣でもある。話は単純。あまりに数が増え過ぎると、個性を買うという意味での魅力が薄れてしまうからだ。
その意味でもTTSの登場は、まさにグッドタイミングだと言えるだろう。グリルや前後バンパー、ホイールなど、外観はTTらしさを失わない範囲で違いが演出され、おまけにLEDポジショニングランプというアピールの強力な武器も備わる。これだけでも、ほかとは違う1台が欲しいというニーズにバッチリ応えられるに違いない。
もちろん、本来はこちらがメインだが、ほかのTTより一枚上手の動力性能も注目だ。ただし、たとえば加速力で「ポルシェ・ケイマンS」を凌ぐからといって、リアルスポーツ的な純度が急激に高まっているというわけではない。扱いやすさという面も含めて、特別身構えることなく高性能を引き出すことができることこそ、TTSの目指した世界。そう考えた場合には、その世界はしっかり完成されているし、魅力も感じられる。
反面、2.0TFSIクワトロとの違いが、絶対的な速さ以外の面でそれほど色濃くはないことに物足りなさを覚えるユーザーもいるかもしれない。この手のモデルに熱く昂揚させるものを求める向きには、あるいは価格差分の明確な優位性を欲する向きには、肩透かしと思われる可能性はある。
ようするに、見た目のアピールやパフォーマンスの稼ぎ出し方は言うに及ばず、ユーザーの意識にも一歩退いたクールさを求めてくるのが、TTSというモデルなのかもしれない。これはTTのホットモデルではなく、よりクールなTTなのだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)1998年の初代デビューから8年間のモデルライフを経て、2006年に現行型となる2代目が登場した。丸みを多用した意匠は内外で踏襲。サイズアップしたボディは、ASF(アウディスペースフレーム)工法が用いられることで、軽量高剛性に製作される。
日本導入時には、FFの2リッター直噴ターボを搭載した「2.0TFSI」と、3.2リッターV6エンジンにクワトロシステムを組み合わせた「3.2クワトロ」の2モデルが発売されたが、2008年9月に中間グレードの「2.0TFSIクワトロ」と、ハイパフォーマンスな「TTS」を追加した。トランスミッションはいずれも2ペダルMTの6段Sトロニック。
(グレード概要)
TTとしては初の設定となるSモデルが「TTS」。採用された2リッター直4ターボエンジンは、2.0TFSIユニットとベースを同じとしながらも、大径タービンの採用などで、最高出力は3.2リッターV6の250psを上回る272psを発生する。6段のS-トロニックトランスミッションを介し、クワトロシステムで四輪を駆動する。
電子制御ダンパーの「アウディマグネティックライド」を標準装備するほか、ESPをスポーツモード付きの2ステージタイプに変更、ステアリングのパワーアシスト量もTTS専用にリセッティングされる。
外観では専用の前後バンパーやシルバー塗装のドアミラーなどで、ノーマルモデルと差別化するとともに、「S」バッジも付与された。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ドライバーズシートに身をあずけ、キーを捻り前方を見やって驚いた。速度計、そして回転計の針がいったん振り切りゼロまで戻るお決まりの演出の後、メーターパネル内のオドメーターなどのLED表示された文字、そして指針が、アウディの定番である赤ではなく白く輝いているのだ。最初はちょっと違和感を覚えたものの、そのクッキリとした見やすさ、そして清廉な雰囲気は、すぐに気に入ってしまった。
そのメーターやステアリングのリム、そしてMT車のような形状のセレクターレバーにはTTSのロゴが入れられ、気分を昂揚させる。細かいところだが、ナビゲーションシステムの取り付けも以前に較べて格段に一体感のある美しい仕上げとなった。
見映えの部分で不満を覚える部分はない。フラットボトムのステアリングホイールが交差点を曲がる時からスポーツドライビング中まで、操作性が悪くて辟易させられるのが相変わらずの大きな不満の種である。開発担当者はアウトバーンばかり走って、ステアリングを切らないのだろうか?
(前席)……★★★
試乗車はレザーパッケージ2と呼ばれる20万円のオプションを装着する。サイドサポート部分のステッチに、先代TTロードスターにも使われた野球のグローブをモチーフにした粗い縫い目があしらわれていて、見た目のアクセントとなっていた。同時にメーターフードやドアアームレスト、センターコンソール周辺も革張りとされ、シルバーのステッチが入れられているが、このうちどこか一部分にも同じ縫い目が反復されていたら、もっと統一感が出て良かったかもしれない。
サイドサポートを大きく張り出させているシート形状ながら、座り心地は決して窮屈なものではない。着座位置こそ低いが乗員の周囲には十分な空間も確保されている。しかし、左足を置こうとすると大きく足を開かなければならないフットレストの配置にも見られるように、乗り込んですぐにクルマと一体になれるという感じは、やや薄い。
そのことと、側方、後方の視界の悪さもあって、クルマの四隅、あるいは周囲の状況を今ひとつ把握しにくいのも事実。特にTTSは左ハンドルのみということで気を遣う部分が大きく、1日中乗っていても、最後まで馴染んだという感じがしなかった。
これはTTシリーズすべてに言えることだが、人とクルマの関係については、もう少し練り込みが必要な気がする。そのあたりが、たとえば「BMW Z4」だったり「ポルシェ・ケイマン」だったりとの一番のギャップである。
(後席)……★★★★
ここで心地良く過ごそうと思うには、ハッキリ言って狭い。そういう観点で評価するなら評価は★1つである。しかしTTSにとっては、いざという時に短時間なら大人2人を乗せることができ、あるいは多少使い勝手は悪くともチャイルドシートを装着すれば家族用としてのニーズも満たせる、この後席が用意されていることは非常にポジティヴな要素と言えるはずだ。マニアックなスポーツカーでありながら、期待以上の実用性を備えていること。これがTTSの株を大きく押し上げるポイントのひとつであることは間違いない。
(荷室)……★★★★★
後席と同様、この実用的な荷室もTTSのセールスポイントと言えるだろう。特に後席シートバックを倒すことで、広大で、ほぼフラットなスペースを生み出すことができるのが魅力。ゴルフバッグを縦に2個積めるとされているが、これならさらに2人分のボストンバッグとシューズ入れまで軽く飲み込むはず。また、大型のスーツケースを積み込むことができるだけに、ジェットセッターのビジネスエクスプレスとしても受け入れられそうだ。開口部は高く、荷物を大きく持ち上げる必要こそあるが、それを言うのは贅沢だろう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
Sモデルの通例でいけば、3.2クワトロのV6を排気量アップして使っていたところかもしれない。しかし、TTSは敢えてそうせず、2.0TFSIクワトロに搭載されている直列4気筒2リッター直噴ターボをベースに、大径ターボチャージャーの採用などによって出力アップを図るという手に出た。おそらくは、過給器付きだけにチューニングがより容易なこと、そして軽量でハンドリングの面で有利なことなどが、その根拠に違いない。
ベースユニットに対して、実に72psの大幅なパワーアップを実現しているこのエンジン。ごく低回転域でのピックアップは若干鈍い気もするが、それはその先でのパンチとの対比による部分も大きく、2500rpmを超えたあたりからの、いかにもターボらしい浮き上がるような加速感は、とても気持ちが良い。ピックアップは上々だし回転も滑らか。しかも5000rpmから先の高回転域でさらにもうひと押しが来るのだから堪らない。
とは言え、もちろんそこまでの力感はないものの、フィーリングは2.0TFSIクワトロとよく似た雰囲気である。あるいは、よく似た音質のサウンドのせいかもしれないが、実は2.0TFSIクワトロも、エンジンは従来の2.0TFSIとは異なる新世代のものへと進化しており、洗練度がグッと高まっているのだ。そう考えると、もう少しテイストの面で差別化されていても良かったかなという感じはした。
トランスミッションはお馴染み2ペダルとなる6段のS-トロニック。もはや制御に粗さは見られず、スムーズ且つ歯切れよい変速ぶりで、エンジンのポテンシャルをフルに引き出してくれる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
後輪へのトルク伝達速度を速めたというクワトロの効果は、発進の時にすぐに明らかになる。勢いよくアクセルを踏み込んでも前輪は空転する素振りすら見せず、クルマは確実に前に出る。欲しい時に、そっと手を差し伸べてくれるこのクワトロシステムは、おそらくは走行中にも必要な場面で効果的に働いているのだろう。でなければ、272psものパワーをほぼ前輪だけで受け止め、こんなに質の高い走りが可能なはずがない。高性能ではあるが、ひたすらさりげない。それがSモデルの流儀なのだ。
姿勢変化を最小限に抑えるべく、サスペンションは相当締め上げられている。それでも基本的に不快と思わせないのは、電子制御ダンパーであるアウディマグネティックライドのおかげ。2.0TFSIクワトロよりはゴツゴツ感はあるし、大きなギャップではガツンと大きめの衝撃が加わることもあるが、同乗者を不機嫌にさせるほどではないだろう。
それでいてフットワークは、まさにオン・ザ・レール感覚。操り甲斐は濃くはないが、高速コーナリングの安定感などは惚れ惚れさせられる。直進安定性も特筆もので、速度を上げるにつれて路面に吸い付いていくような感覚には唸らされる。
不満はブレーキ。動力性能を考えると、応答性も効きも今一歩引き上げたい。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2008年9月12日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:1700km
タイヤ:(前)245/40R18(後)同じ(いずれも、ピレリ P-ZERO ROSSO)
オプション装備:レザーパッケージ2=20.0万円
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:506.3km
使用燃料:59.86リッター
参考燃費:8.46km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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