第369回:「トヨタiQ」こぼれ話
トヨタの敵はトヨタ! 真のライバルはプリウスなり!?
2008.10.02
小沢コージの勢いまかせ!
第369回:「トヨタiQ」こぼれ話トヨタの敵はトヨタ! 真のライバルはプリウスなり!?
「トヨタ」というプレッシャーのなかで
ってなわけで話題作「iQ」。いまだから言える……はウソだけど、今だから言いたい話がある。それはこのクルマがプロダクトとして画期的だったのはもちろん、開発現場としても画期的だったってことだ。
というのも某エンジニアが明かしてくれたのだが「これは別名“○×プロジェクト”って呼ばれてます(笑)」という。
○×さんってのはトヨタの開発系の重役で、とても優秀な方だそうだが、それ以上にとてもガンコ。で、その方の肝煎りというか、“強烈な意思”があって初めてこのクルマは生まれたらしい。
なぜならiQは、デフを反転配置させたエンジンまわりにせよ、超薄型燃料タンクや超小型エアコンシステムにせよ、前例のない機構が多く、普通ならば頓挫してもおかしくないくらいのチャレンジングなプロジェクトだった。
「石橋を叩いても渡らない」といわれるほど慎重な面のあるトヨタとしては、久々の向こう見ず(?)な企画なのである。実際、挑戦をあまり評価しない業界人の中には「日本人がこのサイズに100万円以上も払うかよ?」「軽で十分でしょ」と言う人も多い。
俺はだからこそおもしろいとも思うのだが、「おもしろい」だけでクルマは作れないのも事実。特にある一定以上の高打率が要求される世界一のメーカー、トヨタにおいてそのプレッシャーはことさら強いはず。
社内でのライバル心がiQを産んだ
ではなぜそれをはねのけられたのか。それは○×重役のイチオシや、チーフの中嶋エンジニアの豪腕もさることながら、開発者内のある種のライバル意識、いや“嫉妬心”も後押ししたらしい。某氏はこうも言った。
「iQのライバルはある意味プリウスですから」
そのライバルとは、言わずと知れた現トヨタ最高の飛び道具であるハイブリッドカー「プリウス」だというわけだ。
プリウスはもちろんボディやデザインも画期的だったが、基本はパワートレインの進化であり、いわゆる“エンジン屋”の功績である。
しかし開発陣を大きく分けるともう一つの屋台骨たる“ボディ屋”がいて、彼らはプリウスほかハイブリッドカーの躍進を、内心忸怩たる思いで見ていたらしい。
もちろん同じ会社の仲間だ。誇らしさもあったとは思うが、そこは人間。同じ“個人能力”で勝負するスポーツの選手がそうであるように“俺が活躍したい”“力を証明したい”と言う思いもあるわけで、それは優秀な人が集まっている集団であればあるほどそうなる。
ぶっちゃけた話、そういういい意味でのエンジン屋に対するボディ屋のライバル心が、この画期的パッケージングのiQを産んだというのである。
プリウス=ウサギ、iQ=カメ
考えてみるとiQのキモとなるテクノロジーは、画期的ではあってもすべてアナログ的というか、電気を使ったり、化学反応を使って起こした革命ではない。従来のメカ的発想を極限まで煮詰め、集約した“超古典的ハイテク”だ。
プリウスがウサギだとしたら、iQはカメ。それもかなり頭が良くて、用意周到なカメ。方法論が違う宿命のライバル関係とも言えるかもしれない。
また、聞くところによると、人を最も成長させるのは、やはり「褒め」や「成功」以上に「プレッシャー」や「焦り」だという。
まさにトヨタのライバルはトヨタにあり、トヨタの敵はトヨタにある。そうやってこの会社は自己成長を遂げようとしている。
強者には強者たる理由があり、勝者には勝者の理由がある。つくづくそう思わされたお話でありますな。
(文=小沢コージ/写真=トヨタ自動車)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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