スバル・レガシィS402ワゴン(4WD/6MT)【試乗記】
世界に誇れる実力 2008.07.22 試乗記 スバル・レガシィS402ワゴン(4WD/6MT)……549万1500円
スバルのモータースポーツ運営会社STIが、レガシィをベースに作り上げたコンプリートカー「S402」。実にマニアックなクルマだが、その性能は本物だ。
550万円はお買い得!?
AT車の設定がないと知って興味をそがれる人もいるだろう。価格が500万円を越えると聞いて驚く人もいるかもしれない。いずれにしても、「レガシィS402」が、幅広く受け入れられるタイプのクルマじゃないことは明らかだ。でも、僕は声を大にして言いたい。このクルマは日本のみならず世界を見渡しても、間違いなくトップレベルの完成度に仕上がっているクルマだ。
MT車のみという障壁は越えようがないものの、価格については(絶対価格はかなり高いが、それでも費用対効果という観点からいくと)むしろ安いとさえ感じる。なぜなら、ここまで強く興奮させられるクルマは、世にそれほど多くはないからだ。同様の興奮を呼ぶクルマは往々にしてゼロがもうひとつ多い価格帯に位置する。STIのコンプリートカー「S402」は、走るのが好きな人にとって、下手なスーパーカーよりも運転が楽しいと思えるはずだ。
スバリストなら、この「Sシリーズ」のネーミングを見ただけで、その素姓の良さが想像できるだろう。このクルマ、いい意味で市販車(量産車)らしくないのだ。
いわゆる一般的なクルマは、他の工業製品と同じように販売価格との兼ね合いや、より多くの人に受け入れられなければいけないという使命が重くのしかかり、世に登場するまでの間に「方向転換」を余儀なくされることがあると聞く。性能や乗り味を煮詰める段階で、開発者は何かしらの妥協を強いられるわけだ。
「スポーツ」ではなく「グランドツアラー」
では妥協をなくすと、どんなクルマに仕上がるのか。その模範解答が、このレガシィS402であるといっていい。受け入れてくれる層が少なくなることを承知のうえで、いや、むしろ作り手のほうから(MTのみという敷居を設けるなど)ターゲットを絞り、理想とする乗り味をひたすら追求。コストを完全に無視してとまではいわないが、技術最優先の姿勢で技術者のこだわりが製品にフィードバックされた。まさに、作り手の魂がこめられたモデルなのである。
そのような背景のもと誕生したモデルゆえ、量産には向かない。STIは2002年にも、先代のレガシィB4をベースとしたコンプリートカー「S401」を400台限定のモデルとして送り出してきた経緯があるが、「レガシィS402」もその枠を402台に絞り、期間&台数限定で受注生産される。
では、その中身に触れていこう。S402の開発においてエンジニアが目指したのは、「究極のグランドツアラー」であるという。あえて繰り返すが「スポーツ」ではなく、「グランドツアラー」なのだ。それは、サーキットのようなところを常に全開で走るようなクルマではなく、日常域において運転が楽しいと感じられるスポーティネスを追求したということ。長く乗っていると疲れるクルマではなく、どこまでも走っていきたいと思わせるようなクルマを指向しているのだ。
見えない部分にお金をかけた?
見た目に関しては過度な演出は見当たらない。ベース車と異なるのは、左右20mmずつ広げられたフロントフェンダーや強力なストッピングパワーを想像させるフロント6ポッド、リア2ポッドのブレーキシステム。それに専用チューンのブリヂストン ポテンザ RE050A+BBSホイールといったところ。性能をあげる上で不可欠な部分には手を加えるが、それ以外の部分は基本的にノーマルを継承している。これは目に見える部分より、見えない部分にお金が掛かっているということでもある。
「見えない部分」をいくつか挙げると、ビルシュタイン製ダンパーやスポーツスプリングの採用に始まり、排気抵抗を抑えた専用のスポーツマフラー、ギア比を13:1とクイックに設定したステアリングシステム、横方向の力にのみ剛性向上効果を発揮する(乗り心地に悪影響を及ぼさない)フレキシブルタワーバーなど。
もちろん走りを根底で支えるボディ強化にも抜かりはない。ボディは、ただ補強材を足してひたすら固めるのではなく、必要個所にのみボディ補強を実施。強固な骨格の中にも適度な柔軟性を持たせるように工夫されている。
極めつけは、S402にのみ搭載される専用エンジンだ。2.5リッター水平対向4気筒ターボは、2000〜4800回転まで最大トルク40.0kgmを発生し続けるフラットなトルク特性を持ち、最大出力は285psを発生する。このエンジンはアウトバックに搭載される2.5リッターターボとは異なり、ツインスクロールターボや等長等爆のエキゾーストシステム、専用ECUなどの部品が専用設計されている。実際走らせた時のフィーリングはまったくの別物だ。
欧州車がかすむ
S402のエンジンは、回転が上がる前の極々低回転域から力強いトルクを生み出す。そのトルクが立ち上がってくる感覚も、非常に滑らかで上質なものだ。アクセル操作に鈍感であるわけもなく、靴の中で足の指をちょいと曲げるだけで反応するほどダイレクトで、リニア感に溢れている。もちろんそのフラットなトルク特性を高回転まで使えば速さにも繋げられる。しかし、過剰にドライバーを刺激することはなく、質と実とが見事に調和しているのだ。
穏やかで優しく、そのうえ操作に対してダイレクトかつリニアな特性は、ステアリングフィールにも当てはまる。S402のステアリングは、コーナリング中のみならず、直進時にも正確なインフォメーションを伝えてくる。つまり路面状況が手に取るようにわかるのだが、そこに不快な路面からの振動は含まれない。秀逸なステアリングフィールだ。
足まわりは、普通のレガシィと同等の十分なストローク量を確保している。乗り心地はしなやかなのに、ステアリングを切り始めると、足回りを強化したクルマ特有のカチッとした手応えを示す。また専用タイヤで煮詰めていったためだろう、サスペンションのストロークとタイヤのたわみという、ふたつの上下動がバラバラに出ている感じがなく、「ひとつのストローク」として衝撃を吸収しているかのよう。上手に運転しようと心がけると、どこまでもその通りに動いてくれるのだ。
日本のスポーツカーの多くはこの部分が欠けていて、操作に対する反応だけが鋭く、入力と出力がバラバラな感じがするクルマが多い、というのがボクの意見だ。過度に反応する乗り味が好みの人にはいいかもしれないが、「それがスポーティだ」というのはあまりに表面的だし、だいいち乗り心地とのバランスが良くなるとは思えない。その点、S402のバランスのとれたシャシーは、コーナーでのフットワークと乗り心地の両方に貢献している。操作に対して忠実かつ素直に振る舞うその動きに定評のある、欧州車さえかすんで見えるほどの実力を感じた。
(文=五味康隆/写真=菊池貴之)

五味 康隆
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