第64回:参戦レーサーに見る、「フォーミュラ・ニッポンの価値」
2008.04.04 エディターから一言第64回:参戦レーサーに見る、「フォーミュラ・ニッポンの価値」
2007年シーズンをもって、『webCG』はフォーミュラ・ニッポンの結果リポートを休止。しかし、2001年から写真を担当してきたカメラマンは、今年もレースに熱いまなざしを向け続ける。
人気が下降線をたどるなか、熱く参戦し続けるドライバーのインタビューからわかった、フォーミュラ・ニッポンの存在意義とは……
絶滅危惧種!?
1分38秒909……松田次生は、鈴鹿サーキットを平均時速211.36km/hで駆け抜けた。
「鈴鹿で38秒台」。それは、往年のF1ドライバー「アイルトン・セナ」の名を私の頭に浮かび上がらせた。後に“セナ足”と呼ばれたスロットルコントロールを駆使した走りを、S字コーナーの自由席から見た、遠い日の記憶――
フォーミュラ・ニッポンの公式テストが3月3-5日の3日間、三重県の鈴鹿サーキットで開催された。その一週間前には、「SUPER GT」の公式テストや「鈴鹿モータースポーツファン感謝デー」が催され、サーキットはにぎわいに包まれていた。
しかし、フォーミュラ・ニッポンの公式テストは、メディアの姿すらまばら。観客がほとんどいない閑散としたサーキットに、ただエグゾーストノートだけが響いている……そんな風景だった。
たった1日で10万人以上の観客を動員する「F1日本グランプリ」は別格としても、同じ国内のレースであるSUPER GTに比べても観客の数がはるかに見劣りするフォーミュラ・ニッポン。口の悪いひとたちは、「絶滅危惧種」とさえ呼ぶ。
しかし、参戦しているドライバーに話を聞いてみると、印象はちょっと違うのだ。みなフォーミュラ・ニッポンを高く評価し、このカテゴリーに参戦することに強い意欲を見せている。
この温度差は、いったい何なのか?
挑戦のワケ
現在、フォーミュラ・ニッポンにおいて、“常勝将軍”などと呼ばれるTEAM IMPULの星野一義総監督はかつて、「フォーミュラこそ、モータースポーツ。もっと盛り上がってほしいんだ……」と切り出し、「このすばらしいレースを、ちゃんと伝えてよ!」と、キツい一言を私にくれた。
現在、フォーミュラ・ニッポンの人気は下降線だが、それでもルーキーは生まれてくる。石浦宏明(Team LeMans)、平手晃平(TEAM IMPUL)、松浦孝亮(DoCoMo DANDELION )、伊沢拓也(AUTOBACS RACING TEAM AGURI)、ロベルト・ストレイト(STONEMARKET・BLAAK CERUMO/INGING)の5人だ。
なかでも気になるのは、平手晃平選手。早くからヨーロッパに渡り、ユーロF3、GP2に参戦。今年はルーキーとしてフォーミュラ・ニッポンを戦う彼には、なぜ、ある意味F1に最も近いカテゴリーであるGP2から、遠い島国に戻りフォーミュラ・ニッポンに鞍替えするのか? 理由を聞いてみたかった。
「GP2は、すべてのドライバーが2シーズンぐらいで入れ替わってしまいます」「強いベテランドライバーが何年も参戦、君臨するカテゴリーは、F1を除けば、フォーミュラ・ニッポンくらいしかないと思うんです!」
3日間のテストを終えて、彼は話してくれた。
レーサーは熱く走る
「(F1は、強いチームに所属できれば、それだけで速く走れるのかもしれないが)チーム力にそれほど差が出ないフォーミュラ・ニッポンは、ドライバーの力量が結果に出やすいから」、「F1を目指す自分は、まず本山さんたち“強い先輩”に打ち勝つ力をもたないと、F1で通用するわけがない」――
だから、フォーミュラ・ニッポンは、とても意味のある挑戦だというのだ。
チャンピオンナンバーを付け、38秒台をたたきだした松田選手、そして06年チャンピオンのブノワ・トレルイエ。IMPULの先輩たち二人の走りを目の当たりにして、「すべてを吸収して自分のモノにしたい」と思ったという。
でも、いま日本ではフォーミュラ・ニッポンは人気がなくて、お客さんも少なくなってるのだけど?
「せっかくだから、できるだけたくさんのファンに応援されて走りたいですよよね」と平手選手。
「僕が勝って盛り上げて、みんなをサーキットに呼びますよ」冗談ぽく、いたずらな笑顔を見せながらそう続けた。
あどけなささえ感じるルックスからは想像し難いが、彼には強い意志が、燃え上がっているらしい。
2008年フォーミュラ・ニッポンは、まもなく富士スピードウェイで開幕戦を迎える。
さまざまなドラマが生まれるだろう。私は、そのなかに飛び込んでいく彼の姿を、ファインダー越しに追い続けてみたい。今年も楽しい一年になることを期待して。
(文と写真=KLM Photographics J)
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KLM Photographics J
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