ジャガーXF(FR/6AT)【海外試乗記】
誕生の瞬間 2008.02.29 試乗記 ジャガーXF(FR/6AT)2007年フランクフルトショーでデビューした「ジャガーXF」。間もなく日本発売となる、新世代のスポーツサルーンをモナコで試乗した。
気合いが入る
ついに路上に出た「ジャガーXF」。2006年にデビューした新しい「XKシリーズ」同様「“目玉”の表情がちょっと……」という人はいるかも知れない。エンジンフードへと食い込んだやや上目遣いのヘッドライトは、すべてがエレガントでかつダイナミックな「XF」のルックスの中にあって少々違和感がある。けれども、いまだ個人的にもちょっとばかり馴染めてないその一点を除いて、XFのエクステリアデザインはパーフェクトだと思う。美しい……。
全高が45mm低かったコンセプトモデルの「C−XF」と見較べれば、「クーペのような流麗さ」が多少後退したことは間違いないが、しかし、ここに手を入れなかったなら後席頭上空間は「フル4シーターと呼ぶためには完全に不足した」であろうことは、“量産型”に乗ってみればすぐに理解ができる。
インテリアデザインにも当然気合いが入っている。レザー、ウッド、そしてアルミニウムを贅沢に用いた各部分は、いかにも上質で隙のないジャガー流儀の仕上がり。それでいながら、これまでのジャガー車たちとは一線を画すのが、やや低めのダッシュボード位置やアルミニウム素材の大面積での採用。むしろこれまでジャガーとしては禁じ手とも思えた手法に積極的に取り組んだことだ。
ドアロックを解除すると、まずはエンジンスタートボタンが心臓の鼓動のごとくリズムをとって赤く点滅。そして、イグニッションONでセンターコンソール上から「シフトダイヤル」がせり上がる。と同時に、空調ベントがゆっくりと回転しながらリッドを開いて、スタート準備が整ったことを視覚的にもアピールする。
ちなみに、グローブボックスリッドのオープンやマップランプの点灯はいずれもフェザータッチ式のスイッチ。これらも、これまでの“ジャガーの常識”では考えられなかったギミックだ。
目からウロコ
目の前には巨大クルーザーが並ぶハーバー。背後にはグランプリコースの一部分……と、そんな夢のようなロケーションのホテルをベースに開催されたモナコでの国際試乗会。テストドライブしたのは、最高416psを発生するスーパーチャージャー付きと、298psの自然吸気という2種の4.2リッターV型8気筒エンジン搭載モデル。これに組み合わされる6段ATを含め、XFは、ランニングコンポーネンツの多くを「XKシリーズ」から譲り受けている。
一方で、ボディシェルがXKのアルミに対してオーソドックスなスチールとされたのは、やはりコスト面からの事情が大きいのだろう。
まずは電子制御式の可変減衰力ダンパー「CATS」を標準とするスーパーチャージャー付きモデルでスタート。と、ものの数十メートルも進まないうちにまさに「目からウロコ」がポロポロと落ちた。フロントに255/35、リアに285/30というファットで異サイズの20インチシューズを履くにも関わらず、そのフットワークの何としなやかなことよ!
「Pゼロ」というピレリ社のフラッグシップ・タイヤがかなり“いい仕事”をしているのもさることながら、決して小さくはないはずの路面からの入力を強靭なボディが難なく受け止めているのを実感できる。
スーパーチャージャー付きモデルのボディは、自然吸気モデルにはない補強バーがトランクフロア中央下部を横切る。そんな手当てもしっかりと功を奏しているのだろう。で、そんなしなやかに動く脚は予想通りに優れたハンドリングも実現していた。望外なほどに「人車一体感に溢れたフットワーク」を実感させてくれた。
一方、4輪に245/40サイズの19インチシューズ(テスト車はダンロップSPスポーツ01)を履く自然吸気モデルも、基本的にはそうした好印象は変わらない。ただし、低速時の突き上げ感はわずかに強く、ときにばね下の動きがより重々しく感じられた。こちらが「CATS」を採用しないことや、先に紹介したボディ補強の有無などが要因として考えられる。
それでも、端的に言って1か月ほど前にテストドライブをした「レクサスIS F」の終始強い上下Gが消えない乗り味よりは遥かに快適。試しに、後席での印象もチェックすると、むしろ前席以上のフラット感が得られることに驚いた。
シャシー性能の高さ
そんな第一印象のXF。パワーユニットは、やはり一度その実力を知ってしまうとスーパーチャージャー付きがより魅力的だった。むろん、「0-100km/h=6.5秒」という自然吸気モデルでも相当なる俊足ぶりながら、低回転域から力強いトルクをフラットに発し続け、「0-100km/h=5.4秒」という本格スポーツカーばりの絶対的なスピード性能を有するこちらが、世界一級のスポーツサルーンたるXFというモデルにはお似合いと思える。
そんな感想を抱くことができたのは、XFのシャシー性能がXKに勝るとも劣らぬ高さであったから。「タッチスクリーン式のマルチメディアコントロールの使い勝手がどうにも優れない」「燃料計の針の動きを見ていると、ジャガーのV8エンジンは相変わらずネンピが心配」……と、手放しで喜べない部分はもちろんある。が、なにはともあれ、ボクは遥々日本から1万km以上も離れた異国の地で、「見ても乗っても想像を超えた!」新世代ジャガーの誕生の瞬間に立ち会ったのである。
(文=河村康彦/写真=ジャガー・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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