ジャガーXJ 2.0ラグジュアリー(FR/8AT)/XF 2.0プレミアムラグジュアリー(FR/8AT)
ダニエル・クレイグのように 2013.04.28 試乗記 ジャガーXJ 2.0ラグジュアリー(FR/8AT)/XF 2.0プレミアムラグジュアリー(FR/8AT)……946万5000円/793万4650円
高級車という“直球勝負”に若干の気恥ずかしさが伴う時代だからこそ、正統派なサルーンに、それもカッコよく乗りたいものである! エンジンのダウンサイジングを済ませて、次世代に備えたジャガーサルーンにあらためて乗る。
エンジンラインナップを刷新
いわゆる高価格の輸入車のうち、500万~1500万円のゾーンはメルセデス・ベンツ、BMW、アウディが圧倒的に強い。やっぱりクルマがいいし、昔からの客が多いし、店の数も多いからだ。が、最近のマセラティを見ればわかるように、キャデラックを見ればわかるように、そしてジャガーを見ればわかるように、ドイツ車一辺倒ではなくなってきた。販売台数は店舗数によるところも大きいので、日本ではドイツ車並みとはいかないが、少なくともクルマの出来栄えは肩を並べつつあると思う。味気ない話をすれば、資本が安定するとクルマはよくなるのだ。マセラティはクライスラーと手を結び、キャデラックは政府が手を差し伸べ、ジャガーはインドの財閥から資金を調達した。
資本が安定すると、具体的に何がよくなるか。クルマの肝であるエンジンを開発できる。ジャガーはそのよい例で、ここ数年でガソリンエンジンを刷新した。現在、大きく分けて3つのエンジンをラインナップする。頂点は5リッターV8直噴スーパーチャージャーエンジン。2009年にモデルチェンジした「XJ」を皮切りに採用され、「XF」や「XK」にも載る。ボトムを担うのは、フォード系2リッター直4ターボエンジン。フォード、ボルボ、ランドローバーなどのさまざまなクルマに採用されるエンジンだが、ジャガーはフラッグシップのXJに直4を載せたことで話題になった。XFにも載る。そして中間に位置するのが、一番新しい3リッターV6スーパーチャージャーエンジン。XJとXFに載る。5リッターV8スーパーチャージャーとこの3リッターV6スーパーチャージャー(2種類のチューンがある)は、間もなく登場する「Fタイプ」にも搭載される。
つまり、従来のV6NAを直4ターボに、V8NAをV6スーパーチャージャーにそれぞれ置き換え、V8スーパーチャージャーは相変わらず君臨させるという、典型的なダウンサイジングコンセプトの構成となった。従来のV8NAはスポーツカーのXKのみに残る。
では、新エンジンが搭載された2013年モデルのXFとXJについて、印象をお伝えしたい。
見逃せない新型8段ATの存在――「XJ」
まずはXJから。2リッター直4を積んだ「ラグジュアリー」には何度も乗ったが、何度乗ってもよい印象は変わらない。そりゃ回転フィーリングだけにフォーカスすれば、V6のほうが気持ちよく回る。けれど、それ以外は出力の高さも、トルクの大きさも、そして燃費のよさも直4ターボが上回る。税金も安い。大きなボディーをミニマムなエンジンで動かすのはどこか知的な行為に感じられ、わざわざV8に乗ってる人に近づいて「ほう、貴方(あなた)はまだマルチシリンダーですか? しょっちゅうガソリンスタンドへ行って大変でしょう」と話しかけたくなるエンジンだ。
排気量の小さなエンジンで大きなサイズのクルマを動かすのに、ひと役買っているのが、ZF製8段AT「8HP」だ。ZFはこの8HPを、受け止める最大トルクの違いによって何種類もラインナップする。BMWは「1」から「7」までが採用するし、アウディは4WD用を使うし、ベントレーやロールスロイス用には90kgm超のトルクを受け止めるタイプがある。「クライスラー300」や新しい「マセラティ・クアトロポルテ」も使う。これまで燃費の悪さに悩んできた大きなFRの救世主的存在といえる。
段数が増えれば変速の機会も増えるが、変速ショックが本当に小さいのでビジーな印象はない。前のモデルが積んでいた同じZF製6段ATに比べ、部品点数は増えておらず、サイズは全く同じで、重量は3%軽く、効率も3%向上したという。高効率エンジン&トランスミッションと、サイズのわりに軽いアルミボディーの相乗効果によって、2リッターXJの燃費はJC08モードで9.3km/リッターと健闘している。
排気量が小さいことを除くと、これまで通りのXJなので、街中をゆっくり流しても高速を飛ばしても、乗り心地は快適だ。また、インテリアデザインは秀逸で、左右のウッドがぐるりと前方へ回りこんで前方でつながっているところなんか最高にセクシーだと思う。レザーとウッドという伝統的なマテリアルを多用したインテリアに、バーチャル表示のアナログメーターが映える。カーナビの操作はタッチパネルで行うが、メルセデスやBMWのダイヤルスイッチほどは使いやすくない。
5リッターV8スーパーチャージャーの「XJスーパースポーツ」のロングホイールベースにも試乗した。散々2リッターを褒めた後に恐縮だが、余裕があるならこっちだろう。もしも2リッターのXJオーナーが「ほう、貴方はまだマルチシリンダーですか?」と話しかけてきたら、返事の代わりに路面にブラックマークをつけて走り去ればよい。ダウンサイジングエンジンなどの努力の積み重ねによってメーカー平均の燃費を押し上げておいて、少数のV8スーパーチャージャー搭載車のオーナーが一気に平均を下げまくるという図式も資本主義的でよろしい。
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新エンジンで魅力が増した――「XF」
XFの2リッター版、「ラグジュアリー」は最もお買い得なジャガーという役割を担っており、595万円。エンジンの実力は前ページでお伝えした通り。トランスミッションもXJと同じZF製8段ATが採用される。XFはXJよりもコンパクトなのだが、アルミボディーのXJに対してXFはスチールボディーなので、車両重量は同じエンジンだとほぼ変わらない。カタログ燃費は9.1km/リッターとXJよりわずかに劣る。エコカー減税と無縁の輸入車のカタログ燃費はわりと大ざっぱなところがあるので、実際はXJもXFも同程度の燃費になるのではないだろうか。
3リッターV6スーパーチャージャーエンジンを積む「3.0 プレミアムラグジュアリー」は、総合的によくできたクルマだ。ジャガーは長らくスーパーチャージャーエンジンをつくっているので、しつけが上手。排気量の大きなNAエンジンと言われても信じてしまいそうな、自然なパワーの出方をしてくれる。このクルマが従来搭載していた5リッターV8よりピークのパワーやトルクは下がっているが、過給器の特性から最大トルクの発生回転数が低いこともあって、少なくとも体感上は遅くない。燃費も向上したし、いやらしい話、自動車税も年間3万7000円安いからよいマイナーチェンジといえる。
どうしてもV8のXFじゃなきゃイヤだという人は1200万円出して5リッターV8スーパーチャージャーの「XFR」を買おう。最高出力510ps/6000-6500rpm、最大トルク63.7kgm/2500-5500rpmは、どの尺度を当てはめてもパワフルで、アクセルを深く踏み込めばいつでも“馬力祭り”を楽しめる。軽量コンパクトで高効率とお伝えした8段ATは、手元にあるチェッカーフラッグのイラストが描かれたボタンを押すと、スポーツモードとなり、パドル操作に対してダイレクトな反応を示す。また、エンジン回転がリミッターにあたっても勝手にギアアップしないので、やる気をそがれることがない。端的に言って楽しいクルマだ。
ジャガーは正統派二枚目ブランドなので、僕が借りて乗ると、借り物感、乗せられ感が強く漂う。毎回、なんとか“自分のです”的乗り方をしてみるのだが、カフェで店員に広報車管理のシールが貼られたキーを見られたり、ガソリンスタンドで給油口を開けられなかったりして、あえなくバレる。けれど、ちゃんと稼いで買って乗っていたら文句なくカッコいいブランドだと思う。サルーンにしろスポーツカーにしろ、高級車という“直球勝負”に若干の気恥ずかしさが伴いがちなのが“今”という時代ではあるが、好きなら時代に流されることなく乗って、『007』最新作でXJを激走させたダニエル・クレイグみたいにカッコつけよう!
(文=塩見智/写真=小林俊樹)
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塩見 智
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