トヨタ・ランドクルーザー AX(4WD/5AT)【試乗速報】
大名旅行にもってこい 2007.09.27 試乗記 トヨタ・ランドクルーザー AX(4WD/5AT)……472万2050円
本格クロスカントリー「トヨタ・ランドクルーザー」がフルモデルチェンジ。新機能を備え、オン・オフ両方での走破性を高めたという新型に試乗した。
数字の変化に見合う変貌
「ランクル」の愛称でお馴染みの「ランドクルーザー」が、200系と呼ばれる新型に生まれ変わった。
ランドクルーザーの歩みは、トヨタの自動車生産の歴史そのもの。ランクルの原型となる「トヨタジープBJ型」は1950年、朝鮮戦争勃発のおりに特需用として開発されたものである。このクルマが1954年に「ランドクルーザー」を名乗って以来、発売されるモデルはトヨタの命名基準によって、20、30……、という具合に2桁台の数字がモデルチェンジの度に積み上げられており、順番からいえば現行モデルは今度は130とか140の番号がつくはず。しかし途中で派生車種の「プラド」などが入り込んだ結果、血筋が乱れてしまい、その系統を正すためか一挙に、100系から200系と名称を変更した。
はたして新型ランクルは、その数字の変化に見合う変貌を遂げていた。
4.7リッターV8エンジン、5mに迫る全長、フルタイム4WD、3列シート、各種電子制御デバイス……等々、スペック上も内容も、今流行りの高級SUVそのものである。トヨタという量産ブランドゆえ、量産化による低価格で提供される。価格面では超ド級SUVとは競合しない。とはいえ今や470〜540万円、国産車も高価になった。
こうなるともはや泥で汚すのはもったいないとも思わせる。形だけで威圧する使い方だってあるわけで、そんな人達のためのオンロード性能はまったく快適。静粛にして快速、高い視点からは見下す気分さえ味わえる。燃費も10・15モードで6.6km/リッターと、それなりの国交省審査値が発表されている。
世界初と日本初の目玉装備
一方、本来のオフロード性能もけっしておざなりではない。ライバル各車の装備は、トヨタのレベルで解釈され、独自の技術として大概装備されている。
そのなかでも今回の目玉は、世界初というクロールコントロールと、日本初のキネティック・ダイナミック・サスペンションシステム(KDSS)である。
前者は岩石路、砂地路、急坂の昇降などで微妙な速度調整が必要になる状況において、スロットルとブレーキを自動制御してくれる装置だ。3段階のスイッチ切り替えに対して、おおむね1、3、5km/h位の目安でキープしてくれるから、ドライバーは操舵に専念できる、というもの。他社のヒルディセントコントロールと同じような機能ながら、登りでも下りでも使えるし、途中で切り替えもできる。自分の足でアクセルやブレーキペダルを踏んでしまっても、放せば元の設定に戻るという優れものだ。
後者はクライスラーなどもやっているが、サスペンションがフルストロークしてしまう状況では、スタビライザーを解除して内輪の浮き上がりを防止する装置。ランドクルーザーのそれは、オン・オフではなく油圧で連続可変するのがミソ。構造としては油圧シリンダーで回路の前後を結ぶ、「シトロエン2CV」的な発想。前が沈めば後が持ち上がる、その分の油圧でタイヤを押し下げる。
絶対的な効果としては、支点を外してしまう方式の方がストローク的には有利。とはいえ、対角線に内輪がリフトしたとしても、ブレーキで空転を止めてくれれば脱出は可能だから、理論としてはボトムするときの乗り心地的な意味で、優位点はあるかもしれない。
この仕組みは上級グレード「Gセレクション」に備わるもので、今回の試乗車には非装着。残念ながら、特設コースでも試すチャンスに恵まれなかった。
基本の部分が良くできている
特設コースでクロールコントロールを一通り試した後、この新兵器をオフにして同じコースを辿ってみた。左足ブレーキを使える人ならば、まったく問題なく同じように走破することができる。また、さしものクロールコントロールも馬脚を露呈してしまい動けなくなった、4輪共空転してしまうような泥濘地でも、左足で適当にロックを断続させることで難なく脱出できた。機械は万能ではないから頼りきりにするのは禁物なれど、技量でコントロールできるということは、素の部分の基本がちゃんとよくできている証拠であると思う。
このクルマにないものねだりをするならば、頂点で天を仰いで急に下る次のコースに備えて、前方直下を見るモニターと、ランドローバー社が採用する舵角モニターのようなものがあれば便利。相手が泥では反力感がなく、グルグル回してしまった時の切れ角が頭に入っていないからだ。切り過ぎはいかなる場合でもマイナス効果しかない。
大きいし重すぎることから、クロカン的な競技などの泥遊びは不利と思われるが、お供はいなくとも大名旅行的な用途にはピッタリ。
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸(A)、郡大二郎(K))

笹目 二朗
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