BMW Hydrogen7(6AT)【試乗記】
夢への5歩目 2007.08.24 試乗記 BMW Hydrogen7(6AT)水素をガソリンのかわりにシリンダー内で燃やして、動力を取り出す。BMWが開発した最初の“量産”水素自動車の体験試乗が、東京はお台場で行われた。
第5世代の水素自動車
BMWは2007年7月4日、2台の水素駆動サルーン「BMW Hydrogen7」を日本に輸入した。ガソリンと水素を随時切り替えて走ることができる水素自動車の、公道での走行試験が目的である。
ハイドロジェン・セブンは、いわば「BMW760Li」に水素で走行するための装備を追加したモデル。いわゆる「燃料電池車」は、水素を用いた一種の発電機を動力源とする。ビーエムの水素自動車が積むのは、ガソリン同様、シリンダー内の水素にスパークプラグで直接点火して動力を取り出す内燃機関だ。BMWの水素自動車としては5世代目にあたる。
Hydrogen7の第1陣は100台が生産される予定で、BMWはHydrogen7をして「世界初の量産型水素駆動セダン」と謳う。ドイツから欧州各国、北米、中国へとリースが開始され、このたび日本上陸とあいなった。
「BMW Hydrogen7」とノーマル「760Li」との外観上の識別点は、ボディ右側面後部の給油リッドの上にもうひとつ水素供給用のフタが設けられること。テールの下に蒸発した水素を水として出す口が2つあること。屋根の上には、事故時に水素を排出する丸い栓が備わること。熱心なビーエムファンなら、ボンネットがノーマル7シリーズより盛り上がっていることに気づくかもしれない。あまり熱心でないビーエムファンでも、BMWハイドロジェン7のボディサイドには「Clean Energy」と大書されているから、すぐにそれとわかる。
ハイドロジェン7は、BMW760Li同様6リッターV12を搭載したハイエンドサルーンである。12気筒は“Dual-mode”と称され、ノーマルモデルと変わらずガソリンで動くほか、水素を使って稼働させることも可能だ。
ガソリンユニットの機構は(ほぼ)そのままに、ガソリンの代わりに水素をシリンダーに送り込むシステムが追加装備された。ボンネットの盛り上がりは、それがため。
ただし、ガソリンはベースモデル(?)通りシリンダー内に直接燃料を吹くダイレクトインジェクション・タイプであるが、水素はバルブの手前で混合気を形成するポート噴射が採られた。
「BMW320i」あたり?
BMWの水素サルーン「ハイドロジェン・セブン」の航続距離は、「ガソリンで500km、水素では200km」とスペックに記される。現在の“ガソリンが主、水素が従”な関係が将来的に逆転できるかどうか、は、水素供給施設といったインフラの整備と、それを押し進める世論の盛り上がりにかかっている。BMWとしては、是が非でも「水素エンジンは実用的」との認識を広めたいところだ。
燃料は、リアシートの下にノーマルの88リッターより15%ほどすくない74リッターのガソリンタンクが、トランクには8kgの液化水素が入る燃料タンクが置かれる。
マイナス253度の液化水素を入れるタンクは、いわば超高性能な魔法瓶で、二重のステンレス製。インナーとアウターの間は真空で、カーボンファイバーでつなげられる。インナータンクは40層のアルミホイル構造。全体の断熱効果は、17“メートル”の発泡スチロールで包まれたに等しいという。
運転席に座ると、室内の様子はノーマル7シリーズとなんら変わらない。豪華な革内装。ただ、ステアリングホイールに燃料を変更する「H2」スイッチが備わり、インパネ左端には水素注入口のフタを開けるボタンが設けられた。
お台場の数ブロック、1周10分ほどの試乗コースを行く途中、ひんぱんに「水素−ガソリン」を切り替えて走行したが、まったくスムーズ。息継ぎすることもない。V12サウンドがわずかに変わる程度である。
水素駆動の場合、最高出力はガソリン比4割がたダウンするが、それでも260ps。街なかを普通に走るのに何の不足もない。0-100km/h加速は5.6秒から9.5秒になるから、まあ、「BMW320i」あたりの実力か。
水素自動車の未来
ハイドロジェン・セブンの動力性能が「BMW320iあたり」と聞くと、いかにも水素自動車は遅いようだが、さにあらず。これは、あくまでガソリンユニットを生かして、水素用デバイスを追加したからである。
同じ構造下で、液体のガソリンを空気(酸素)と混ぜるのと、気体の水素を空気(酸素)と混ぜることを単純に比較すれば、水素駆動の場合、燃焼に使える酸素の量が圧倒的に少ないのが理解されよう。
「次のステップは、液体水素を噴射するタイプを開発することです」とBMWのスタッフは言う。パワーソースが極低温の液体水素に対応できれば、充填効率を飛躍的に向上させることができる。
「水素のポテンシャルは高いんです」
水素がもつエネルギーは、同じ重量のガソリンの約3倍だという。
水素自動車の未来を、BMWは次のように描く。
・赤道付近のサンベルト地帯で太陽光発電を行い、作り出した電気で水を分解する。
・水素を冷却して液体とし、タンクローリーで世界中に運ぶ。
・水素ステーションでクルマに充填。
・水素は酸素と結合してエネルギーを供給し、水となって排出される。
……かくして、環境負荷の低い理想的なサイクルが実現される。
「そんな夢物語……」と笑っていられる時間は、意外に短いかもしれない。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏、webCG)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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