ダッジ・ナイトロSXT(4WD/4AT)【試乗記】
押し出し一番 2007.08.06 試乗記 ダッジ・ナイトロSXT(4WD/4AT)……361万2000円
ゴツいボディと、大きな十字を付けたグリルが印象的な「ダッジ・ナイトロ」。日本(再)上陸を果たしたアメリカンブランドの注目モデルである。3.7リッターV6+4ATのミドルSUVはどうなのか?
いかついミドル
ほとんど“アメリカ国内専用ブランド”と化していた「ダッジ」をグローバル展開すべきか否か? 決定打は、ヨーロッパでの事前調査で「ダッジのアメリカ車らしさ」に対する評価が高かったことだった……と、本国からきたマーケティング担当の方が教えてくれた。“北米とカナダ以外”という、いささかおおまかな守備範囲を与えられたシニアマネージャーが。
「特にイタリアでの評判のよさを重視したんです」
−−どうしてイタリアの?
「だって、彼ら/彼女たちはスタイリングを重視するでしょう?」
あまりに真正面な(!?)返答に面食らいながらも、「なるほど」と納得した。「ダッジ・ナイトロ」のプレス試乗会において。
いかにもアメリカンな面構えのダッジ・ナイトロ。派手なクロームメッキの十字マークを付けたでっかいグリルがすごい。4輪それぞれの、張り出したフェンダーがいかにもマッチョ。冷静に同車のポジショニングを述べれば、クライスラーグループ内“大衆”担当ブランド「ダッジ」のミドルサイズSUVということになる。
見た目の押し出しの強さゆえ、「この場合の“ミドル”とはアメリカンスタンダードの、か!?」と思いがちだが、意外やナイトロの実寸は控えめだ。全長×全幅×全高=4580×1860×1785mmだから、「ホンダCR-V」「マツダCX-7」あたりといい勝負になる。
プラットフォームには、2007年のニューヨークショーで披露された「ジープ・リバティ(邦名チェロキー)」のコンポーネンツが活用される。前ウィッシュボーン、後リジッドのサスペンションに、モノコックの5ドアボディを載せる。
本国には4リッターV6、欧州向けにはディーゼルターボも用意されるが、わが国に輸入されるのは、当面3.7リッターV6のみ。トランスミッションは4段ATが組み合わされる。
機関面は同じながら、装備、トリムの違いによって、ラインナップは以下の通り。いずれも右ハンドルだ。
・SE-329万7000円
・SXT-361万2000円
・R/T-420万円
足もと狭い
ダッジブランドの日本上陸と相前後するように、クライスラーとダイムラーは離婚した。クライスラー株の80.1%はサーベラス社に引き取られ、北米では「Chrysler Corporation LLC」が発足した。
ただし、わが国でのダッジ車リリースのプログラムはそのまま進められ、これまでもメルセデスディーラーとわけて運営されてきたクライスラーの販売網を通じて販売される。
2リッター+CVTの「キャリバー」(263万5500〜294万円)、2.7V6+4ATの「アベンジャー」(413万7000円)、6.1V8+5ATの「チャージャーSRT8」(651万円)、そして「ナイトロ」でラインナップが構成される。
ナイトロのテスト車として用意されたのは、中間グレードの「SXT」。前後バンパーがボディ同色となり、アルミホイールが「SE」の16から17インチにアップする。
ちなみに上級版「R/T」は、グリルがボディ同色になり、さらに大きな20インチホイールを履くのが識別点。車高も15mm高い1800mmになる。
「SXT」のシートは、「Yes Essentials」と名付けられたコンビネーションタイプ。こぼした液体が染みこみにくい加工が施される。たっぷりしたクッションが印象的で、シートバックともども、ホールド性はあまり配慮されない。
ビックリしたのが膝前に迫る樹脂製のパネル。ナイトロのグローブボックスは助手席側ダッシュパネル下部に設けられ、運転席側も対称的にダッシュ下部までパネルが延びる。リポーターのように足が短いドライバーの場合、シートをグッと前に出すから、膝前の空間がごく狭い。「万が一のときは……」と、ちょっと不安になる間隔である。
加えて足元も左右に狭い。トランスミッションの大きなでっぱりが足の置き場を邪魔していた「シボレー・アストロ」を思い出した。右ハンドル化による悪影響か。
シンプルで頼れる
ダッジ・ナイトロのエンジン排気量は、3.7リッター。さすがに古い直列6気筒は捨てられ、ナイトロのそれにはシングルカムのV型ユニットが使われる。205ps/5200rpmの最高出力と、32.0kgm/4200rpmの最大トルクを発生する。
シリンダーに火が入ったとたん存在を主張するエンジンだが、1890kgの車重をひっぱるにあたり、もちろん相応の加速は見せるけれど、音から期待させるほどは速くない。トルコン式4ATの滑りが大きめで、ダイレクト感に欠けることも、“怒濤の加速”な印象を与えない一因だろう。
とはいえ、0-100km/hは10.3秒と発表されるから、4気筒の「トヨタRAV4」や「ホンダCR-V」の後塵を拝することはないはずだ。
17インチを履いた乗り心地は、ほどほどの快適さ。モノコックボディをもつナイトロは、かつてのアメリカンSUVのように上屋とシャシーが別個に動く感じはないけれど、やはり車軸式のリアサスペンションをもつため、ときにテールが左右に揺れることはある。都会で乗る場合には、いわゆる“味”と考えてさしつかえないレベルだが。
最新型ジープのプラットフォームを活用するナイトロだが、4WDシステムはシンプルなパートタイム式。通常は「FR」で走行し、必要に応じて「4WD」に切り替える。直結タイプなので、日常的に四駆で走ることは想定されていないが、泥濘地でのスタック時など、いざというときは頼りになる駆動方式である。
ダッジのミドルクラスSUVは、細かくカテゴリーごとに採点していくと、いまひとつ点数が伸びないクルマだ。価格も国産車では「トヨタ・ハリアー」や「日産ムラーノ」と重なるが、なにはともあれ、押し出し一番。わかりやすいアメリカン。豪快なフロントマスクと併せ、チマチマしない内外のつくりを笑い飛ばせるくらい太っ腹な御仁でないと、ナイトロの魅力を堪能するのは難しいかもしれない。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。