ポルシェ911ターボカブリオレ(4WD/5AT)【海外試乗記】
300km/hでのオープンエア・モータリング 2007.08.02 試乗記 ポルシェ911ターボカブリオレ(4WD/5AT)ベースとなるカレラをデビューさせて約3年。着々とバリエーションを増やす911ファミリーに、「ワイド&オープンボディ+4WD」の最新997が加わった。河村康彦が報告する。
カブリオレの本気度
すべてのバリエーションの根源となる“カレラ”を2004年にリリース以来、「オープンボディに4WD仕様」「2基のターボ付きエンジン」「“サーキット生まれの心臓”を搭載したモデル」などを次々と市場に投入。予想通りのバリエーション拡充が進められてきた現行997型「ポルシェ911」。
その”完結編”としての究極の最速モデル「GT2」のリリースに先駆けて、「911ターボカブリオレ」がマーケットに放たれた。クーペ版「ターボ」に採用されたメカニカル・コンポーネンツを、現行「カレラ4」「カレラ4Sカブリオレ」用ベースのワイド・ボディにドッキング……それが、最新「911ターボカブリオレ」の基本アウトラインだ。
一見、911ターボのルーフ部分を取り払い、ポルシェのオープンモデルづくりの流儀に従って“軽量”“低重心”が売り物であるソフトトップを架装した(だけである)ようにも思えるターボカブリオレ。しかし、このモデルを送り出す技術者がいつも同様に“本気”であるのは、販売台数などは恐らくタカが知れているターボカブリオレのために、わざわざ専用の空力設計を施したことからも明らかだ。
カブリオレの乗り味
「カブリオレ特有のエアフローから最適なダウンフォースを得るため」に、クーペ同様の可動機構を備えたリアウィングは、上昇時のその高さがクーペよりも30mm高い設計。やはりクーペ同様、120km/hで上昇するこのウイング。しかし元の位置へ戻るタイミングは、クーペの80km/hより20km/h低く設定された60km/h。「より空力付加物への依存度が強いデザイン」が施されているという。
クーペと同じ0.31という抵抗係数を達成した結果生み出されたのは、やはりクーペと同じ310km/h(!)という最高速度。その際に発生する揚力は、前輪側が18kgで後輪側はマイナス27kgだ。すなわち、新しい911ターボカブリオレは、“量産型カブリオレ”で唯一、「リアアクスルにダウンフォースが作用するモデル」。前述の前後バランスは、敢えて「高速時の操縦特性をわずかにアンダーステア気味にする効果を狙った」ものである。
そんな911ターボカブリオレの重量増は、クーペ比70kg。なるほど、ウェイトハンディは、セールストーク通りにかなり小さなもの。
911ターボカブリオレのソフトトップは、サイドウィンドウまで含めた開閉動作を20秒で完了する。そのうえ50km/hまでは動作を継続するという、なかなか使い勝手に優れたロジックを与えられた。ソフトトップ部分の重量は、開閉メカを含めて42kg。つまり、ボディ補強などに費やされた重量は30kgに満たない計算だ。
実際、走り始めれば、ボディの剛性感はやはりクーペにはかなわない。けれども、それは「較べる相手が悪い」といえよう。いうまでもなく、911ターボカブリオレ、オープンモデルとしては第1級の仕上がりである。むしろ、わずかな“緩さ”が、ときにクーペモデルと比較して“マイルドな乗り味”を演出してくれる。
現代のドリームカー
それにしても「0-100km/h」加速は、わずかに3.8秒! 「0-200km/h」でも12.6秒!!
……と、驚愕のカタログデータを示す911ターボカブリオレの速さは、やはりハンパではない。トロトロと走っていても文句ひとついわない低回転領域でのフレキシビリティの高さにも感激するが、真骨頂はやはりアクセルペダルを深く踏み込み、排気のエネルギーが高まるに従って、自分の体重がシートクッションからシートバック側へと移って行くのを実感する時。
ちなみに、前出の加速データはAT(ティプトロニック)仕様のもの。6段MTの場合は、それぞれが4.0秒、12.8秒と、わずかにダウン。オートマモデルの方がタイムがいいのは、ATであればスタート時にブレーキペダルを踏みながらアクセルペダルを踏み込んで、あらかじめ過給圧を高めた状態を保って発進する「ストール発進」が可能だから思われる。
4輪独立の可変減衰力ダンパー「PASM」を標準装備する脚と、電子制御式のマルチプレートクラッチ4WD「PTM」とのコンビネーションが生み出すハンドリング能力の高さはいわずもがな。というより、“ドライバーズ・パラダイス”であるドイツの道路環境下ですら、911ターボカブリオレのもてるポテンシャルを公道上で引き出すことなど不可能な相談だ。
圧倒的に速く、圧倒的にゴージャスなこのモデル。もはや“現代のドリームカー”というべきカテゴリーにカウントされよう。その気になれば「300km/hでのオープンエア・モータリング」を現実のものとしてくれる。そんなクルマは、現代でも決して多くはないのだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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