ポルシェ911カレラ カブリオレ(RR/8AT)
比類なきスポーツカー 2025.04.14 試乗記 「ポルシェ911」が992世代の後期型(通称:992.2)へとアップデート。改良のたびに「最新こそ最良か?」と問われるポルシェもたまったものではないが、スポーツカー受難の時代だけに「まさか!?」の事態があるかもしれない。「911カレラ カブリオレ」で検証した。絞り出すようなパワーアップ
欧州の排出ガス基準強化の波は、いよいよ車両側に具体的な影響を及ぼし始めた。2024年9月以降、欧州域内で出荷される新車から適用されたユーロ6eは燃焼のリーン化によるCO2削減という主目的に相対するようにNOxの大幅低減を迫っており、浄化のための排気まわりの改善が不可避とされる高性能エンジンには特に逆風が吹いている。
それはアウトプット等の数値にも表れ始めており、例えばBMWでは「M135」「M235」が搭載する4気筒ターボが、そしてポルシェにおいては最新の「911 GT3」が搭載する自然吸気のフラット6が前型に対してわずかながらスペックを落とした。内燃機キラーと称されるユーロ7の発効は2026年末の予定だ。それでなくても電動化で汲々(きゅうきゅう)としているなか、市場競争力の低下を懸念する自動車メーカーの声も多々聞かれるが、欧州委員会が譲歩する気配は今のところない。2000年代以降は青天井だったパワーウォーズも、内燃機のみでは戦えない新たな局面に入りつつある。
そんななか、最新の911カレラは若干ながらもパワーアップに成功した。トルクは据え置きだが発生回転域はわずかに高い2000rpmからとなっている。特に排気側に厳しい規制のなかで、ターボユニットが額面的に伸長することは相当難しいことだ。看板への期待を落胆に変えることは許されないというポルシェの意地が、その数値からは伝わってくる。ちなみに0-100km/h加速も4.2秒から4.1秒と、わずかではあるが速くなった。数値化された性能が後退しないことはスポーツカーにとって少なからず大事なことだ。律義なポルシェはそれを忠実に守ってもいる。
失われた様式美の数々
992.1という呼び方もITのOSみたいでうっとうしいので992世代の前期型という言い方をすれば、後期型の取材車にことさらの新しさは感じない。エクステリアは灯火類やバンパー類、インテリアはメーターパネルなど、直接的に印象を違えるところはあるものの、根本的な意匠や部材の変更などはみられないわけだ。グリルシャッターを備える「GTS」グレードを除いては、空力的な進化についての声高なアナウンスも見当たらない。ことさら911には、ラジカルな改変を施さないことで60年以上の歴史を紡いできた側面もあるからして、このような変更にも市場側も違和感は抱かないのだろう。
ただし、そういうヘリテージ派にとっては運転席に陣取るなり、残念なディテールが見えるのも確かだ。まずはメーターパネルが全面液晶になったこと。992の前期型ではセンターのタコメーターを物理針とし、液晶パネルをその左右にスプリットで配置することで多様な情報を表示してきた。その中央部も液晶で一体化されたことで表現の自由度は高まるわけだが、911を愛する人のなかにはアナログ感に浸りたい向きも少なからずいらっしゃることだろう。
そこに加えるなら、イグニッションのオン/オフがボタン式になった点も賛否が分かれそうだ。992の前期型ですでに鍵はスマート化されており、ひねる行為に意味はなかったが、それでも様式を慈しみたい向きには意味のあるディテールとしてツマミを残していた。例えば新しい「MINI」は電子プラットフォームまわりを完全刷新しながらも、ユーザーのそういう気持ちをしっかりくんでいる。後ろ向きな話ではあるがパフォーマンスに影響するものでもないわけだから、これらはちょっと慎重に吟味してほしかった。
速さ以外の必須科目
とまぁ、そんな難癖も走りだせばきれいさっぱり忘れさせてくれるのが911でもある。能力的には992の前期型でもすでにパーフェクトだったわけだが、とりわけ取材車はその世代でも個人的にはベストバイだと思っていた2ペダルのカブリオレだ。ド軟派に見えるかもしれないが、サーキットでシゴキ倒すことでもなければクーペと遜色ない応答性がありながら、屋根の抜けたクルマ相応のしなやかさも兼ね備え、その幌(ほろ)屋根自体の遮音や気密性といった快適項目はこれまたクーペに肉薄している。それらの特徴は992の後期型でも完璧に受け継がれていた。シャシー側は乗り心地もハンドリングも、これ以上何を望もうかというほどに出来上がっている。
となると、興味の焦点はシリーズの主軸となるパワートレイン、3リッターフラット6ツインターボのフィーリングだ。エンジン回転の上がりもともあれ落ち側にもドロンとよどむ感触はないか、トップエンドの吹けにフン詰まり感はないか、音の耳当たりはいかがなものか……と、911に期待される項目といえば、速い遅いばかりではないところもある。
この点においても992の後期型は問題はなさそうだ。取材車は走行距離が浅かったため高回転域の多用は控えたが、一度だけトップエンド付近のフィーリングを確認してみたところ、吹けの軽さやパワーの伸び、回転落ちの早さにも911らしい鋭さが感じられた。このフィーリングなら6段MT化された「カレラT」の走りも、前期型以上に期待できそうだ。
揺るぎなきマスターピース
ただしパワートレインに関して、前期型との差として一点押さえておくべきこともある。それは音だ。始動時のアオリはともあれ、アイドリング~低回転域のサウンドは音量が抑えられている。年々厳しくなる騒音規制への対処だろうが、個人的にはエキゾーストのボリュームが抑えられたぶん、かえってフラット6本来のメカメカしい音成分が粒立ってきたことで心地よさが増したように思えた。2000年代以降、スポーツカーは音番長の座をボリュームで競ってきたようなフシがあるが、今後はもっと音質にフォーカスされるべきだろう。
洗練された乗り味にこの音量の変化も加わって、992の後期型は例えばその前期型に比べると、さもすれば線が細くなったように感じられるかもしれない。でもそれは時代に即した熟成による錯覚でもある。その比類のなさに変わりはなく、結果的にスポーツカーのマスターピースであることにいささかの揺るぎもない。乗ってみて、幾度となく思い知るのは911という存在の強靱(きょうじん)さだ。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ポルシェジャパン)
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラ カブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4542×1852×1301mm
ホイールベース:2450mm
車重:1600g
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:394PS(290kW)/6500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y XL/(後)305/30ZR21 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.6-10.3km/100km(約10.4-9.7km/リッター、WLTPモード)
価格:1943万円/テスト車=2693万9000円(※2025年3月の取材時点での価格)
オプション装備:ボディーカラー<シェードグリーンメタリック>(56万2000円)/ツートーンクラブレザー<ブラック×クラシックコニャック>(97万4000円)/コンバーチブルソフトトップ<ブラック×グレー>(5万4000円)/スポーツエキゾーストシステム<ブラックテールパイプ>(39万1000円)/パワーステアリングプラス(4万5000円)/ステアリングコラムケーシング<レザー>(5万4000円)/スポーツデザインパッケージ<ハイグロスブラック塗装>(59万6000円)/「911」ロゴ<ハイグロスブラック塗装>(3万6000円)/フロントアクスルリフトシステム(33万円)/イオナイザー(4万3000円)/エクスクルーシブデザインフューエルキャップ(2万円)/ヘッドレストのポルシェクレスト(3万6000円)/シートベンチレーション<フロント>(15万9000円)/フロントガラス<上部グレーティント>(1万7000円)/20&21インチカレラクラシックホイール(33万2000円)/ダッシュボード&ドアトリムパッケージ<レザー>(35万5000円)/サンバイザー<レザー>(6万2000円)/スラットインレイリアリッド<エクステリアカラー塗装>(8万8000円)/エクステリアミラー下部トリム<エクステリアカラー塗装>+ミラーベース<ハイグロスブラック塗装>(8万1000円)/PDKセレクターレバー<アルミニウム>(9万1000円)/インテリアパッケージ<エクステリア塗装、ブラックアクセント入り>(16万1000円)/HDマトリクスLEDヘッドライト<ティンテッド>(44万5000円)/スポーツクロノパッケージ<ポルシェデザインサブセコンドクロック付き>(46万3000円)/エクスクルーシブデザインテールライト(13万円)/ナイトビューアシスト(38万4000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(21万3000円)/カップホルダートリム<レザー>(4万1000円)/サイドの「PORSCHE」ロゴデカール<ブラック>(6万3000円)/ストライプ入りソフトトップ&ラゲッジリッド(19万5000円)/インナードアシルガード<レザー、カラーステッチ入り>(9万円)/スラット<エクステリアカラー塗装>&エアベント<カラーステッチ入り>(21万4000円)/インテリアミラーパネル<レザー、カラーステッチ入り>(5万2000円)/リモートパークアシスト(7万2000円)/「PORSCHE」ロゴ<ハイグロスブラック塗装>(4万円)/アダプティブスポーツシートプラス<18way電動調節機能&メモリーパッケージ付き>(49万1000円)/助手席フットウェルストレージネット(0円)/「PORSCHE」ロゴLEDドアカーテシーライト(2万2000円)/イルミネーテッドドアシルガード<ブラッシュドアルミニウム、ダークシルバー>(10万7000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1226km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:281.0km
使用燃料:35.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
BMW X3 20 xDriveオリジナル(4WD/8AT)/X3 20d xDriveオリジナル(4WD/8AT)【試乗記】 2026.9.12 「BMW X3」に新たなエントリーグレードの「オリジナル」が登場。装備の厳選によって価格抑制を図ったとのことだが、人気のディーゼルエンジン搭載車では、なんと基準車から100万円近く引き下げたというから見逃せない。安かろう悪かろうのはずはないと思いつつも、その仕上がりをチェックした。
-
日産キックスG(FF)【試乗記】 2026.9.9 日産が満を持して投入したコンパクトSUVの新型「キックス」。Cセグメントに迫るサイズとなったこのモデルは、競合ひしめくマーケットで存在感を示せるのか? 上級グレード「G」の試乗を通し、ライバルに対するアドバンテージを探った。
-
マツダCX-5 L(FF/6AT)【試乗記】 2026.9.8 マツダの最量販SUV「CX-5」の最新モデルに試乗。計画外のフルモデルチェンジによって誕生した3代目は、走りや操作系などに、従来のマツダにはない新しい試みが見られる一台となっていた。失敗の許されない基幹モデルの仕上がりを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.7 「日産エルグランド」が16年ぶりのフルモデルチェンジを敢行。すでにプレミアムミニバンのジャンルは後発のライバルに席巻されている現状だが、日産はそのライバルとは別のアプローチ=走りの楽しさで復権を目指すという。その成否やいかに。
-
ランボルギーニ・レヴエルトSV(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.9.5 ランボルギーニの歴史において「SV」の2文字は特別な意味を持つ。その称号が与えられた、ハイブリッドの最新マシン「レヴエルトSV」の走りやいかに? イタリアのテストコースで試乗した西川 淳がリポートする。
-
NEW
マツダ・ロードスターPS/ロードスターS/ロードスターRF VS【試乗記】
2026.9.15試乗記デビュー以来、不断の進化を続ける「マツダ・ロードスター」。2026年の改良は、“走り”の特別仕様車「PS」の設定が話題だが、試乗すると、ほかにも多くの変化が見てとれた。日本を代表するライトウェイトオープンスポーツの、最新モデルの仕上がりを報告する。 -
NEW
自動パーキングシステムの駐車作業は、人間が行うよりも速く正確になりうるか?
2026.9.15あの多田哲哉のクルマQ&A一部のクルマに採用されている自動駐車システムは、便利そうだが駐車に時間がかかる印象がある。それも、いつかは人間が駐車するより速く正確になるだろうか? 元トヨタの多田哲哉さんに見解を聞いた。 -
第344回:アンパンマンよりばいきんまん
2026.9.14カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。メルセデス・ベンツの新型「CLAシューティングブレーク」が気になってしかたがない。理由はその特徴的なフロントフェイス。左右の目玉(ヘッドランプ)がつながったデザインがたまらない。果たして実車の印象は? -
スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)【試乗記】
2026.9.14試乗記「スズキ・ジムニー ノマド」でロングドライブ。本格クロカンとして悪路での走りに定評あるジムニーの5ドア・ロングボディー版は、カジュアルなSUVとしても使えるのか。多くの人が多くの時間を過ごすであろうオンロードにおける日常的シーンで、その実力を確かめた。 -
これが日産復活の切り札! いいクルマを速くつくる「ファミリー戦略」とは何か?
2026.9.14デイリーコラム日産が車両開発の新たな重要施策にかかげる「ファミリー戦略」とは何か? 従来のクルマづくりとはどこが異なり、われわれユーザーはどんな恩恵を受けるのか。その内容を識者が分かりやすく解説する。 -
日産リーフB7 G(後編)
2026.9.13ミスター・スバル 辰己英治の目利きミスター・スバルこと辰己英治さんが、電気自動車(EV)の3代目「日産リーフ」に試乗。日産が擁する最新EVの○と×とは? これからのEVは、どのようなクルマを目指すべきなのか? 15年の歴史を持つEVの走りに触れ、自動車の未来について考えてみた。
















































