プジョー207CC レザー(FF/4AT)/207CC GT(FF/5MT)【試乗速報】
さすがプジョーの“CC” 2007.06.18 試乗記 プジョー207CC レザー(FF/4AT)/207CC GT(FF/5MT)……330.0万円/344.0万円
“CCブーム”の火付け役となったプジョーから最新モデル「207CC」が発売された。そのラインナップと乗り心地を報告する。
CCといえばプジョー
“CC”あるいは“クーペ・カブリオレ”という呼び方は、ここ数年で普通に使われる言葉になった。同時に、「開けて楽しく、閉じて快適でカッコイイ」をテーマに、各社が続々と新車を投入するオープンカーの新勢力は、昔ながらのキャンバストップをすっかり圧倒して、瞬く間に主流派の座を手に入れてしまった。まさに時代はCCブーム。その立役者がプジョー。なかでも「206CC」がブームの火付け役だったことは、誰の目にも明らかだろう。
そんなCC界のリーダーがベースモデルのフルモデルチェンジにともない「207CC」へと進化し、2007年6月18日には日本デビューを果たした。
207CCは、2分割式の電動メタルトップや“プラス2”のリアシート、そして、ちょっと猫背のフォルムという206CCの伝統を確実に受け継ぐ。一方、全長/全幅はハッチバックの207と同じ4030mm/1750mmまで拡大し、PSAとBMWが共同開発した1.6リッターエンジンを搭載するなど、完全に新しいクルマに生まれ変わった。
日本でのラインナップは、1.6リッター自然吸気エンジンを搭載する「207CC(309.0万円)」「207CC レザー(330.0万円/受注生産)」「207CC Premium(344.0万円/受注生産)」と1.6リッターターボを積む「207CC GT(344.0万円)」の全部で4タイプ。
207CC レザーは、207CCのシートとドアトリムにレザーを採用したもの。また、207CC Premiumはシートとドアトリムに加えてダッシュボードを革張りにした“インテグラルレザー仕様”が特徴だ。ちなみに、207CC GTのインテリアもインテグラルレザー仕様である。
いずれのモデルも右ハンドル仕様で、1.6リッターNAには4段オートマチック、1.6リッターターボには5段マニュアルが組み合わされるのはハッチバックと同じである。
開閉はさらに簡単に
試乗会では、207CCの4つのタイプのうち、207CC レザーと207CC GTを試すことができた。さっそく207CC レザーに乗り込むと、そこにはハッチバックですでに見慣れたダッシュボードがあった。しかし、よく見るとエアベントまわりなどに配されるパネルが柄のないシルバーに変えられている。これはルーフを開けたときの光の反射を考えてのことだそうだ。
そのルーフはセンターキャッチなどを操作することなく、コンソールのスイッチだけで開閉できる。簡単に開閉できるのは、空模様を見ながら隙あれば開けたいと思う私のような者にはとにかくうれしい。
実際にスイッチを押して屋根を開けてみると、まずサイドウィンドウが下がり、その後、ルーフが“くの字”に折れ曲がりながらトランクスペースに収納されていく。所要時間は約25秒で、これなら信号待ちの間でも気軽に操作できそうだ。
フロントウィンドウがドライバーの頭上近くまで迫るスタイルは、この207CCにも引き継がれ、視覚上の開放感はいまひとつなのだが、外気を肌で感じられる楽しさはオープンカーならではである。
このまま走り出してもいいし、風が冷たい季節ならサイドウィンドウを上げてもいい。サイドウィンドウは、ドアのスイッチでも操作できるが、コンソールのスイッチを使えば4枚同時に開け閉めが可能だ。
この日はあいにくの空模様で気温も低かったため、とりあえずサイドウィンドウを上げて走ることにしたが、60km/h程度までならキャビンへの風の巻き込みは気にならない。それ以上のスピードになると冬場は辛そうだが、そんなときのために“定番アクセサリー”ともいえるウィンドウディフレクターが用意される。“冬でもオープン”派には必携である。
ハッチバックよりマイルドな走り
ところでこの207CCレザーは、同じ1.6リッターNAエンジンを積むハッチバックの207に比べて、ボディ重量が190kg増加した。それが走りっぷりにも影響を与えている。よくも悪くもマイルドになっているのだ。
マイルドになってよかったのが乗り心地。重くなったぶんサスペンションをハードにしたら乗り心地が悪くなった……なあんてことがないのはさすがプジョーで、ハッチバックに比べるとより落ち着きのある印象である。
反対にマイナスなのが、ハッチバックよりもハンドリングがマイルドになったことだ。といっても、コーナリング中、それなりにロールしながらしなやかに動くサスペンションは、路面を確実に捉える。いつものプジョースタイルは健在。多少マイルドなほうがこのCCというクルマにはお似合いかもしれないし。
エンジンもギア比もハッチバックと同じ207CCでは、車両重量が増えたぶん、当然、クルマの動きがマイルドになっている。しかし、そもそも120ps/16.3kgmを誇るこのエンジン、ワインディングロードの登りはともかく、平坦な道では力不足を感じることもなく、4250rpmを中心に緩やかな盛り上がりを見せるトルク特性も扱いやすかった。
インテグラルレザーにうっとり
ここで、207CC GTの印象にも触れておこう。150ps/24.5kgmを発揮する1.6リッターターボは、1430kgというボディ重量をものともせず、低い回転数から力強く加速するだけの実力を持っていた。
NAモデルに比べて足まわりの味付けが多少ハードなぶん、ワインディングロードではロールが抑えられ、ハンドリングにはスポーティさが見られる。だが、205/45R17タイヤを履くこともあって、路面の荒れを拾いがち。それと、NAモデルではオープンの状態でもボディ剛性に不満はなかったが、この207CC GTでは重いタイヤとハードなサスペンションにオープン時のボディが追いついていない感じもあった。
207CC GTは標準でインテグラルレザー仕様になり、シートやドアトリムに加えて、ダッシュボードにもレザーが貼られことになる。とくにこの試乗車は“タン”のレザーが実に豪華で、クラスを超えた雰囲気が味わえるのがいい。207CC Premiumにも標準装着されるこのインテグラルレザー、エクストラコストを払う価値は十分にあると思う。
それはさておき、207CC レザーも207CC GTも、手頃なサイズと優れた電動メタルトップのおかげで、気軽に楽しむオープンカーとしてはとても魅力的に仕上がっていた。
大人が座るのが困難なプラス2のリアシートや、トップを降ろそうとすると大幅に容量が制限されるトランクなど、実用上、不満な点も確かにあるが、リアシートを荷物置き場と割り切れば、オープン2シーターよりも格段に使い勝手はいい。
たから、このスタイルが気に入った人にはぜひお勧めしたい207CC。ちなみに、私が選ぶとしたら、スポーティな207CC GTもいいが、バランスの取れた、気持ちのいい走りが楽しめる自然吸気エンジン版で、インテグラルレザーが美しい207CC Premiumに落ち着くと思う。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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