シボレーMW 1.3S FF(4AT)【試乗記】
根っこのクルマ 2002.12.06 試乗記 シボレーMW 1.3S FF(4AT) ……148.7万円 GMグループ内の同朋、「シボレー」と「スズキ」が手を組んで送り出したコンパクトワゴン「シボレーMW」。ブラックアウトされた大きなグリルにボウタイマーク輝く「1.3S」はどんなクルマか? その魅力を探った。
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柔軟な姿勢
「GM」と「フォード」。いうまでもなくアメリカを代表する2大自動車メーカーであり、第1次世界大戦後にさかのぼる1920年代から、海外へ市場を求めて積極的に進出を図っている。『日本の選択3−フォードの野望を砕いた軍産体制』(NHK出版)によると、両者の世界戦略の進め方には、伝統的な違いがあるという。20世紀を特徴づける(そして今も続いている)「大量生産」「大量消費」そして「均一化」を、世界中のあらゆる地で、いわば“フォーディズム”として推進するフォードに対し、多企業の集合体として発展してきたGMは、より柔軟なアプローチをとる。かつて“安くて”“頑丈で”“黒ならどんな色でもある(つまり黒しかない)”T型フォードを頑固につくり続けたライバル企業を、顧客の嗜好に訴える多彩な選択肢と、時流を積極的に取り込んだ(またはつくり出す)モデルを定期的にマーケットに送り出すことで、販売台数において抜き去った姿勢は、海外進出においても踏襲された。各市場の多様性を認め、現地の企業を尊重するというカタチで。
時は流れて、企業間での合従連衡激しい昨今、日本の自動車メーカーも大規模メーカー間の勢力争いとは無縁ではいられない。現在、GMグループといえる企業は「スバル」「スズキ」「いすゞ」。しかし、一般の消費者が連合を意識することはほとんどあるまい。それぞれのメーカーが、従来通り個性を活かしたモデルを送り出しているからだ。
そんななか、積極的にコラボレーションを進めるのが、「シボレー」と「スズキ」である。アメリカで最も愛されているブランドのひとつ、庶民派“シェビー”ことシボレーが、日本市場においてユーザー環境に密着した小型車をラインナップに加えるにあたり、マイクロミニ、コンパクトカーを知りつくしたスズキと手を結ぶのは、自然な成り行きといえる。
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和風な工夫
スズキ「ワゴンRソリオ」をベースとした「シボレーMW」は、「GM-スズキ」が提携強化を発表した2年後の2000年9月に、第1弾「S Edition」がリリースされた。コンセプトは、「アメリカン・カジュアル・コンパクトワゴン」。以後、5ドアの“ベイビィ”シェビーは、ワゴンRソリオの進化と軌を一にして、わが国ではシボレーブランドのボトムレンジを担い続けている。
現在ラインナップされるのは、2001年1月15日に発表された、1リッター直4(70ps、9.7kgm)モデル「MW標準車」と、1.3リッター直4(88ps、12.0kgm)の「MW 1.3S」。FF(前輪駆動)のほか、後者にはビスカスカプリングを用いた4WD車もカタログに載る。
丸みを帯びた穏やかな表情の標準車と、直線基調で押し出しの強い1.3S。
今回、ステアリングホイールを握ったのは、よりスポーティな「MW 1.3S」である。ブラックアウトされた大きなグリルに輝くゴールドのボウタイマークが、シボレーを主張する。このグレードの専用ボディペイントとして「ブルーメタリック」が用意されるが、テスト車は「パールホワイト」。明るい色調だ。
車体の大きさは、全長×全幅×全高=3575×1600×1695mm。街なかで使いやすいコンパクトさと、ワゴンとしての使い勝手の、ミニマムなバランス点だろう。
青いファブリックの前席は、背もたれに白いステッチワークでシボレーマークが描かれる。左右が密着するベンチ風だが、もちろん個別にスライド可能だ。コラムシフトと足踏み式パーキングの恩恵で足もとスッキリ。左右に行き来しやすい「フロントサイドスルー」が謳われる。狭い路地などで、ボディの片側からしか降りられないときにありがたい。
インストゥルメントパネルの下を横断する棚状のモノ入れは、気軽に何でも放り込めるので、実用性が高い。運転席の下には、ハイヒールを履く女性が運転用のスニーカーを納めておくのに便利な「シートアンダートレイ」、助手席シートクッションの下には、バケツにもなる取り外し可能な「シートアンダーボックス」が備わる。どんな隙間も見逃さない、和風な工夫満載である。ヘッドレストを抜いてリクライニングさせれば、後席座面とつながって簡易ベットにできるし、逆に助手席背もたれを前に倒せば即席のテーブルとなる。
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惜しげがない
MW1.3Sのパワーソースは、オールアルミの1.3リッターツインカム16バルブ。「VVT」と呼ばれる可変バルブタイミング機構を搭載して、6000rpmで88psの最高出力、3400rpmと低めのエンジン回転数で12.0kgmの最大トルクを発生する。軽快に回る実用ユニットだ。組み合わされるトランスミッションは、電子制御式の4段AT。
「シボレー・コーベット」が腹にズシリとくる怒濤の加速を、同じく「トレイルブレイザー」が悠々とした余裕のトルクをウリとするならば、MWのジマンは、どんな細い道にも躊躇なく飛び込める手軽さだ。遊び仲間を気軽に拾い、街なかを小気味よく走り、高速道路も過不足なくこなす。“アクティブ・ライフ”のアシとして使うのに惜しげがない。
リアシートはバックレスト背面のレバーを引くだけで、背もたれを前に倒すのと並行して座面が下がるので、フロアに段差をつくることなく荷室を拡大できる。その際、ヘッドレストを一番上まで伸ばしておけば、自然に前に倒れるので、はずす手間がかからない。後席は分割可倒式だから、ヒトと荷物の量によって加減が可能。助手席のシートバックを倒せば、スキーのような長尺物も積み込める。かゆいところに手が届くユーティリティの高さも、シボレーMWの特長だ。
2001年11月、シボレーMWに続き、1.3/1.5リッターモデルの「クルーズ」が発表された。開発の初期段階からシボレーのスタッフがかかわった、より本格的な共同開発モデルである。MWでの経験が活かされたハズだ。シボレーMWは、シェビーのモデルラインナップの位置づけのみならず、GMグループ内での協同作業の契機という意味でも、根っこにあたるモデルなのだ。
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2002年10月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。