フォルクスワーゲン・クロスゴルフ TSI DSG(FF/2ペダル6MT)【海外試乗記】
意外とマジメ 2007.03.03 試乗記 フォルクスワーゲン・クロスゴルフ TSI DSG(FF/2ペダル6MT)不肖小沢、ワケあって今年に入ってから前代未聞の“ドイツ半移住計画”を進めておりますっ! 月の半分をドイツに住み、クルマ仕事をしつつもヨーロッパの勉強をしようという実に壮大な計画!
そのドイツからの仕事第一弾として、まだ日本人ジャーナリストは誰も乗ってない(だろう)、「VWクロスゴルフ」試乗記を発表いたしますっ!
ニュースタイルを提案
「クロスゴルフ」ってのは、要するに昨2006年に日本に入ってきて注目を集めたクロスポロのゴルフ版。イメージ的には“アウトドアのゴルフ”で、最大のポイントはファッショナブルなこと。
ここ数年でフォルクスワーゲン内に新設された「インディビジュアル部」が企画したもので、見てくれは車高がちょっと上がったヘビーデューティな4WD風。しかし、中身は今まで通りFFで、その昔、クルマの屋根にサーフボードを積んでるだけで海には行かない“陸サーファー”ってのがいたが、クロスゴルフはさしずめ“陸ヨンク”なのである。
ただ、VWがスガスガしいのは“陸”であることを隠していないこと。見る人が見れば明らかにFFであり、無理して本格4WDっぽく繕ってない。つまりお客を騙そうというより、単純に「コッチのほうがカッコいいでしょ?」とニュースタイルを提案しているのだ。
実際にウケはよく、昨年売れた「クロスポロ」はドイツだけでも8万6000台。実にポロ全体の11%であり、現地スタッフによれば完全に「予想以上」だとか。
よってその成功体験を元にゴルフ版を作ろうというわけだが、小沢的には正直「まさかゴルフまで」という感じだった。
なぜならゴルフは昔から質実剛健を常とし、いくらゴルフプラスやトゥーランなどが登場して多様化が進んでいるとはいえ、相変わらずVWブランドイチの堅物。そこまで色物化するとは思ってなかったからだ。
そこにはまさに驚くべき価値観の変貌があり、実際トゥーランのクロス版、「クロストゥーラン」ももうすぐ登場する。ちなみにゴルフベースの本格4WD「Tiguan」もまもなくお披露目だそうで、そういう意味でもクロスゴルフは“陸”に徹しきれる。どこの世界もこの先五里霧中の何でもアリ時代。そのうちフェラーリのSUV!? が登場する日も近いのかもしれない。
VWファミリーの血は争えない
とはいえ実際のクロスゴルフはポロほどくだけていない。まず、クロスポロがライムグリーンやオレンジなどのショッキング系をイメージカラーとしているのに対し、クロスゴルフはジミなシルバーやブラック系がイメージだから。ターゲットの年齢層もちょっと上なようで、結構落ち着いている。
極めつけはベースボディがゴルフではなく、ゴルフプラスであること。つまり、正確にはずんぐりむっくりした“クロスゴルフプラス”なのだ。よってそれほど見てくれ重視のファッショナブルカーとは思えないし、現地エンジニアによれば「実用重視のクルマ」とのこと。マジメなVWファミリーの血は争えないのだ。
しかしエクステリアは元祖ゴルフプラスとは違い、アルミ風の四角い馬の蹉跌みたいなアクセントを取り入れた樹脂ムキ出しのフロントバンパーや、これまたアルミ風のルーフレールやリアのアンダーガードがほどよくアクティブさを強調する。タイヤホイールもすべて専用の17インチで、車高もゴルフプラスより20mm高い。
インテリアはゴルフプラスゆずりで、リアシート前の折りたたみ机や天井に何個ものモノ入れが標準で付けられる。その上で、センターのナビゲーション周りや左右のエア吹き出し口がアルミパネル風になり、シートも専用の生地と形状になるなど、微妙に差別化されるのだ。
一方中身、パワートレインはヨーロッパだけにガソリン直4が2種類とディーゼルが2種類用意される。今回乗れたのは、おそらく日本にも導入されるだろう1.4TSI。最近、日本仕様の「ゴルフGT」にも搭載されて評判の、ターボとスーパーチャージャーを兼ね備えた高効率な小排気量ツインチャージャーエンジンだ。それが実用車ということで、140psにデチューン(GTは170ps)したものを搭載。ギアボックスはVW自慢のセミATであるDSGか、6MTが組み合わされる。今回試乗したのはDSGモデルだ。
マジメなVWファンに向いているかも
さて、乗ってみた感じはまさしくゴルフプラス! 乗り心地とハンドリングを両立した非常に乗用車的なもので、若干悪路向けに硬めのセッティングになっていたが、快適だったし、ロールも気にならなかった。
140psのTSIエンジンは、ゴルフ同様、アクセルを踏んだ瞬時に1.8リッターか2リッターエンジン並のトルクを発生する。わずか2000rpmから十分なパワーを発揮し、6500rpmぐらいまでスムーズに吹ける。若干、ゴゴーっと低周波のスーパーチャージャーの音がするが、ヨーロッパのディーゼルの音に慣れた身からすればまったく問題ないし、そうでなくても気にならないだろう。
ハンドリングは正直、特別スポーティとかシャープということはない。車高が高めなせいかやはり無難である。とはいえ滑らかなステアリングフィール、がっちりとしたブレーキ、レーザー溶接を多用したおかげで密封感の高いボディが、「コイツがVWゴルフだ」ということを常に確信させてくれる。
ってなわけで思ったより無難で実用的だった“新陸VW”のクロスゴルフ。もしや、マジメな日本のVWファンには、ファッション感覚際立つクロスポロよりも向いているかもしれない。
ちなみに今年中には日本に入ってくるらしいんで、ぼちぼち情報も入ってくるかもね!
(文=小沢コージ/写真=フォルクスワーゲンAG&キムラオフィス/2007年3月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。