シトロエンC4ピカソ(FF/2ペダル6MT)【海外試乗記】
唯一無二 2007.02.10 試乗記 シトロエンC4ピカソ(FF/2ペダル6MT)2006年9月のパリモーターショーに出展されたシトロエンのコンパクトハッチ「C4ピカソ」。3列シート7人乗りで、パノラマ・ルーフをはじめとする広いガラスエリアが特徴の新型に試乗。フランスからのリポート。
驚きの空間演出と個性的なデザイン
金魚鉢の中から世の中を覗いたら、その風景の広がりはきっとこんな風なのではないか!?――まずはそんな驚きを味わわせてくれるのが、「シトロエンC4ピカソ」ドライバーズシートからの視界感覚だ。
シトロエン自らが”スーパー・ワイドアングル・パノラミックウィンドウスクリーン”と称する頭上部分にまで届く大きなウインドシールドに、それを前方左右から挟み込む”巨大な三角窓”が作り出す圧倒的な視界の広がり感は、まさにこれまでのどんなクルマでも経験をしたことのないもの。
サンバイザーをビルトインしたルーフライニング前端部分をロールスクリーン状とし、ルームミラーを支えるステーをそれをスライドさせるためのレールとして用いて、日照の具合に応じて引き出せるようにしたアイディアも画期的(?)だ。そんな驚きの空間演出に加えシトロエン・ファンの歓びをさらに加速してくれそうなのが、これもまた何とも個性的なダッシュボードまわりを中心としたインテリアのデザイン。
左右をリッド付きの小物入れとしたダッシュアッパーの中央部には、ナビゲーション・モニターを中心に左右に液晶式ディスプレイを配したメーターをレイアウト。ダッシュロワーはその両端に左右席向けに独立させた空調コントロール系を配することで、いわゆるセンターパネル部分を他に例を見ないスッキリとしたデザインとしたのも特徴だ。
まだまだMT指向の強いフランス車にもかかわらず、全仕様を2ペダルモデルと割り切ることで、シフトセレクターをコラム配置としたのも珍しい。そのデザインがなんとも華奢で短く細いスティック状なのも『個性』を求めるシトロエン・ファンには受けそう。
「回らないステアリング・パッド」はこのモデルがC4シリーズの一員である事を、無言のうちにアピールする。
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並みのミニバンじゃない
フランス・トゥールーズを基点に開催された国際試乗会に用意されたモデルには、そのすべてにオプション設定であるリアのエア・サスペンションが装着されていた。ちょっとズルい! とも思えるそんな広報戦略(?)は、しかしそれゆえに絶大なる効果をあげていたのも事実。
走りのしなやかさはベースとなったC4サルーン/クーペを凌ぎ、特に高速走行時に路面凹凸をいなしながらフラットに進んでいく感覚が圧巻。レベライザー機能により乗員数や積載荷物量が変化をしても所期のサス・ストローク量がキープされるため、そんな上質な走りの感覚が常に変わらないことも特記すべきポイントだ。
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さらに、ラゲッジルーム内のスイッチ操作でボディ後端部分を10cm以上ローダウンさせ、荷物の出し入れ性を向上させる機能も喜ばしい。そもそも、こうしたモデルの足にエアサスをおごろうという発想自体が、このクルマが並みのミニバンとは一線を画したものであることを端的に示していると言えるだろう。
AUTOモードでギクシャクしない
日本に導入されるであろう2リッターのガソリン車は、最高143psを発するそのエンジンに6段の2ペダル式MTもしくは4段のトルコンATを組み合わせる。テストドライブに供されたのはそのうちの前者のみだったが、それが予想をはるかに越えたリーズナブルなシフトクオリティを示してくれたのはちょっと意外だった。
構造上、シフト時の駆動力の断続が避けられないこうしたトランスミッションの持ち主の場合、加速のギクシャク感が常に問題視される。が、このクルマの場合、シフト動作がドライバーの意思によらず実行されるAUTOモードで走行を行った場合でも、その違和感が例外的に小さいのだ。
そもそもの絶対加速力がさほどのものではない(それでも、日常シーンで不満を感じることは皆無なのだが)のに加え、隣り合うギアのステップ比が小さい6段MTがベースでシフト時の駆動トルク変化が小さいことがそうした印象を生み出していると考えられる。
ちなみに、そんなこのモデルの100km/h時のエンジン回転数は6速で2500rpm、5速で2800rpm、4速で3800rpm……という具合。静粛性は特に優れているとは言えないしボディ形状上やはり高速時の横風にはやや弱いが、それでも長時間のクルージングをさしたる疲労感もこなしていけそうなのは、前述したしなやかでストローク感に溢れた足まわりの動きに加え、フランス車の常でシートの面圧分布などもよく考えられているゆえだ。
実は、5+2シーターのMPV!?
3席が独立式のセカンドシートをフロントモーストの位置までスライドさせないと、サードシートに大人が乗り込むのは困難。その点では7シーターミニバンと言うよりは“5+2シーターのMPV”(Multi Purpose Vehecle)と表現するのがこのモデルのパッケージングをより的確に示すコピーとしてふさわしそう。
いずれにしても『唯一無二』という言葉がピタリと決まるこのモデル。しかし、それが単なるひとりよがりなどではなく、これからの各社のミニバンにも大きな影響を与えそうなエネルギーを秘めているのが、このクルマならではの大きな財産だ。
(文=河村康彦/写真=シトロエン・ジャポン/2007年2月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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