スバル・インプレッサWRX STI specC TYPE RA-R (4WD/6MT)【試乗記】
磨き込まれた「走る」「曲がる」「止まる」 2007.01.23 試乗記 スバル・インプレッサWRX STI specC TYPE RA-R (4WD/6MT)……428万4000円
スバル・インプレッサのモータースポーツ向けの「WRX STI spec C」をさらに強力にしたモデル「TYPE RA-R」が登場。320psのパワーでより走りにこだわった限定モデルをワインディングロードで試す。
時が経つのを忘れて
クルマから降りると、腰のあたりがずっしり重たい。確かに快適さを重視したクルマじゃないが、原因は別のところにある。つい調子に乗って、時が経つのを忘れるほどドライブを楽しんでしまったからなのだ。そのクルマとは、「本気で攻められるインプレッサ」をコンセプトに300台が限定生産される「インプレッサWRX STI specC TYPE RA-R」である。
限定車といえば、320ps/44.0kgmまでパワーアップした2リッター・フラット4ターボを積む「S204」を思い出すが、この「RA-R」はS204のハイパワーを受け継ぎながら、より走りにこだわったのが特徴で、なかでも力を注いだのがブレーキ性能の強化だった。
サーキット走行などでは、フル加速とフルブレーキの連続となり、ハイパワーなクルマほどブレーキへの負担は大きくなる。ここに不安を抱えてしまうと、走りを楽しむなんて無理な話。そこでRA-Rでは、フロントにブレンボ製の専用モノブロック対向6ポッドキャリパーを奢るとともに、ローターを18インチ32mm厚に拡大することで、より高いブレーキ性能と耐フェード性を目指している。
これらを納める18インチのアルミホイールはRA-Rのための専用設計。タイヤは235/40R18サイズのポテンザRE070のワンメイクだ。足まわりは、ベースのWRX STI specCに比べて15mm低く、スプリングやダンパーも強化される。
一方、WRX STI specC同様、フロントフードに加えてトランクリッドもアルミとし、さらにアンダーコートを省いたり、トランクルームのトリムをなくすなど、軽量化への努力を惜しまない。
ブレーキに全幅の信頼
そんな超硬派インプレッサのコクピットに収まる。質感がいまひとつのインパネはあいかわらずだが、いまどきの走りのクルマはエアコンやパワーウィンドウは標準だし、ミラーだって電動格納式と、十分に文化的だ。
室内の観察を早々に切り上げ、さっそくクルマを走らせる。無意識にブレーキペダルに足を載せると、その剛性感の高さにまず驚く。ペダルのストロークは短く、踏むとすぐに硬い部分に当たる感じで、そこからは踏力でブレーキを操るというものだ。市販車より、むしろレースカーのノンサーボのブレーキに近い感覚である。
この日の試乗はサーキットではなく、いつものワインディングロードが舞台。それだけに、いつも以上にコーナーを攻め込んだところで、ブレーキが音を上げる気配はまるで見られない。ペダルのタッチは終始カッチリとしたもので、必要なストッピングパワーが右足の踏力次第で自在に引き出せるのが、なんとも頼もしかった。
「走る」「曲がる」も際だつ
もちろん、よく「止まる」だけがこのクルマの魅力ではないのだ。「走る」「曲がる」も際だっているのだ。S204同様、大型のターボチャージャーを手に入れたRA-Rのエンジンは、アイドリング付近のトルクこそもの頼りないものの、少し回してやれば3000rpm以下でも十分実用的な性能を発揮する。
一方、ここぞという時には、アクセルペダルを踏みつけ、レブカウンターの針を3500rpm以上に保ち続けることで、素早い加速を楽しむことができるのだ。車両重量が1390kgと軽いおかげで、低いギアでの加速はまさに背中を押されるような感覚である。
さらにドライバーをかきたてるのが、そのシャープな回頭性だ。フロントに荷重をかけながらステアリングを切ると、面白いくらい素早くノーズがインに向かっていく。とくにタイトなコーナーでは、見事なほどの軽快さである。反対にハイスピードコーナーでは、パワーをかけておくことで、安定しきったコーナーリングを実現する。
乗り心地は正直ツライ。街中では常にボディが上下に揺さぶられるし、高速でもフラットさにはほど遠い。それでも、得意とするステージに辿りつけば、そこまでの辛さが吹き飛ぶほど、RA-Rの走りは気持ちがいい。「走る」「曲がる」「止まる」を最優先するドライバーにはグサリと刺さるクルマなのである。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2007月1月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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