レクサスLS460 バージョンS(FR/8AT)/バージョンU “Iパッケージ”(FR/8AT)【短評(後編)】
レクサスの美点と弱点(後編) 2006.11.28 試乗記 レクサスLS460 バージョンS(FR/8AT)/バージョンU “Iパッケージ”(FR/8AT) ……930万500円/1155万9950円 トップオブレクサスとしての「LS460」に試乗し、リポーターはクルマとしての出来には感心した。しかしながら、“レクサスのクルマ”としてはもの足りないところがあるという。乗り心地はもう一歩
エンジンは静かで駆動系はスムーズだ。全体的に平和である。だからといってドライバーにとって、これは楽しい移動空間だろうか? そうなるとやや疑問は残る。
乗り心地は、期待が大きすぎたためか、やや残念な部分もあった。特に高速道路の荒れた面などで、予想外の突き上げがリアから伝えられ、同時にそれまでの素晴らしいフラットな感覚が損なわれる。エアサスのモードは3段階に切り替えられるし、硬さの違いは明瞭だが、リアがもう少し落ち着いてほしいというのはどのモードでも同じだった。
電動パワーのステアリングは、確かに充分にテストで煮詰められたようで、速度やコーナーに応じて絶妙に重さや感触が変化する。ただ車によってはその変化が自然なものと、比較的唐突なものがあった。個人的にはノーマルの18インチに対して19インチを履いたバージョンSのステアリングのほうが自然に感じられた。
洗練されたロードマナー
エンジンと同様にロードマナーも洗練されていて、日本の通常の走行では現代のクルマとして最上のレベルにある。ロールは小さくないものの、その動きはたくみに計算され、ボディは制御されていて、結構な速度で飛ばしても、その立ち居振る舞いは穏やかである。
完全に電気制御式となるブレーキの応答は、実によく計算されている。高速で踏むと明確なレスポンスでまず応えた後に、ドライバーが与える踏力とストローク、その速さに応じてじっくりとディスクを締め上げていく。最初は勝手にブレーキが仕事を急ぐような感じもしたが、ドライバーの気持ちを先読みするような応答はすぐに慣れる。
素晴らしい安全制御
LSのもう一つの売り物は、徹底的に電子制御された安全/ITSシステムである。中でもプリクラッシュセーフティシステムは世界でもっとも進化したものだろう。これは近赤外線CCDを用いたステレオカメラとミリ波レーダーで前方情報を読みとり、障害物や歩行者を感知すると、ドライバーに警告を与えるものだ。そればかりか、衝突の危険があると判断したときは操舵に対する車両の応答性を高め、同時にシャシーバランスを制御して回避を助ける。またモニター付きの場合は、ドライバーが正面を向いていないと判断したときは、警報とディスプレイで諭した後に最終的には警告ブレーキを行う。
一方リアでは、後車から追突される危険があるとき、自動的にハザードランプが点灯して注意を促し、さらにはヘッドレストが瞬時に前方に移動してむち打ちを防ぐ。
このシステムに加え、車間維持やレーンキーピング機能を備えたクルーズコントロール、また車庫入れや縦列駐車の支援システムなど、この機会に実際に体験した。いずれもその作動に違和感はなく、かなり開発が煮詰められているのを知り、ITSへの道は予想以上に早く進んでいるのに、本心から感心した。
もう少しオーラが欲しい
機械として見るなら、LSは確かにレクサスの旗艦としてふさわしい内容を持っており、アメリカでこれまでこの車を支持してきた顧客には、圧倒的に歓迎されるだろう。
でも他のレクサス各モデルに満足できなかったリポーターは、このLSでも同じ不満を感じた。端的に言うならクルマとしてのエモーショナルな魅力、あるいは高級車がもつ強いオーラを感じ取ることができなかったことだ。
それは外観や内装デザインによるものが大きい。レクサスルックは端正でクリーンだけど、クルマ好きのハートには響きにくい。それ以上に失望したのはインテリア・デザインで、確かに仕上げ水準はいいのだろうが、造形は古くさく、凡庸であり、他のトヨタ車と同じように退屈だった。
レクサスは、その性格からしてトヨタ的世界から飛躍して、これまでのトヨタ車が作れなかった自動車の姿を示さなければならない。でも今回のLSにも、リポーターは高級なクラウン以上の、レクサスならではの本質的な魅力を発見しにくかった。
(文=大川悠/写真=荒川正幸/2006年11月)
・レクサスLS460 バージョンS(FR/8AT)/バージョンU “Iパッケージ”(FR/8AT)(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018841.html
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大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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