フォルクスワーゲン・クロスポロ(FF/6AT)【試乗記】
実直、オシャレ、これぞVW 2006.11.21 試乗記 フォルクスワーゲン・クロスポロ(FF/6AT) ……264万2000円 フォルクスワーゲンの日本におけるベーシックラインである「ポロ」に、新しいモデルが加わった。1.6リッターエンジンを心臓に持つSUVライクな外観の「クロスポロ」は、今までになかった魅力を備えていた。最高出力が4割アップ
フォルクスワーゲンは、小さなクルマを作らせると本当にうまい。そう思っていたのだけれど、ここのところちょっとそう言い切ることがむずかしくなっていた。いや、今でもいいコンパクトカーを作っているのだ。「ポロGTI」なんて、個人的に欲しいクルマのベスト3に入る。素性だけを見れば、依然としてすごくいいものを作っているのだ。ただ、GTIはやはり特殊なクルマである。150psの1.8リッターターボエンジンに5段MTの組み合わせは、どうしたって量販モデルにはならない。
一般的なユーザーに向けてラインナップされているのは、1.4リッターエンジン(75ps)に4段ATの組み合わせのみで、動力性能的に十分とは言いづらいものなのだ。本国ではもちろんMTモデルがあって、これは非力なりに楽しめるものだった。しかし、日本ではこれも多くのユーザーの心にヒットするとは思えない。
ポロの商品性アップのために待ち望まれていたのが、強力なエンジンの登場だったわけである。新しく投入されたエンジンは1.6リッターだから、わずか0.2リッターの拡大に過ぎない。でも最高出力でいえば30psアップしているわけで、実に4割の向上ということになる。そして、トランスミッションは6段となってしかもティプトロニック付きだ。一気に弱点が解消されたであろうことが、容易に想像される。
この新しいパワートレインを搭載するモデルは、2種類が用意される。ひとつは「1.6スポーツライン」で、こちらはスポーツサスペンションを装備した走り指向の仕様である。今回乗ったのはSUVっぽい外観をもった「クロスポロ」で、少しばかり最低地上高を上げて走破性を高めている。アンダープロテクター風のフロントバンパーや樹脂製のホイールハウス、シルバーのルーフレールなどで、アウトドアの雰囲気を演出している。
ただし駆動方式はFFで、本格的なクロスカントリー仕様ではない。試乗車の外装色は「ライム」という派手なカラーで、内装も同色にコーディネートされている。ほかにも鮮やかなオレンジや赤、メタリックブルーが用意され、なんともカラフルなラインナップである。用意される5色の中で地味なのは黒だけで、ホワイトもシルバーも選べない。ポップでファッション性の高いクルマであるという主張が、このあたりに明瞭に感じられる。SUVの外観も、ポップさの表現の一部なのだ。
刺激を緩和する禁欲的佇まい
フォルクスワーゲンらしい、抑制の利いたスタイリングである。「なんちゃってクロスオーバー」は流行りの手法ではあるが、嫌みがなくあざとさも感じないのは珍しい。ほとんど蛍光色といってもいいカラーだけに、ややもすると子供っぽいイメージになりそうだが、無駄なディテールを排しているからそれを避けられる。室内でも鮮烈な黄緑のファブリックが目に飛び込んでくるのに、インストゥルパネルの禁欲的な佇まいが刺激をうまく緩和してくれる。
新しくなったエンジンは、想像以上にクルマの魅力をアップさせていた。1180キロのボディに105psというのは、特にホットなスペックではない。強烈な加速があるとは期待していなかったし、実際のところ目の覚めるようなスピードが得られたわけではない。ただ、1.4リッターエンジンのモデルではボディの重さを意識せずにはいられなかったのが、クロスポロは乗り手の意図通りに走れるように感じられたのだ。高回転までスムーズにのびていくフィールが、そこには影響していたのかもしれない。人の意思に対して過不足のない感覚が心地よかった。過剰なパワーがもたらす快楽も否定はしないけれど、身体感覚に沿った演出というのも気持ちのいいものである。
トランスミッションも、好印象に貢献しているのは間違いない。4段ATというのは実用上は問題のないものなのだと思うが、多段ATやCVTが普及している現状の中では、どうしても古くさいものに思えてしまう。ATのデキがクルマ全体の印象に与える度合いは、以前より確実に増している。このクロスポロに関していえば、エンジンと同等の寄与をトランスミッションに認めるべきだろう。
万人に好まれそうなキャラクター
車高が上がっているとはいえ、コーナリングで極端にロールが大きくなって不安を与えることはない。十分なストロークがしっかりとした接地感を支え、ワインディングロードでも高速道路でも安心して飛ばすことができる。ただ、乗り心地には過大な期待をしないほうがいいかもしれない。目地段差での突き上げは、吸収されきらずに腰にダイレクトに感じられる。また、リアシートではアップライトな姿勢を強いられるため、さらに我慢が必要とされる場面がある。
しなやかな乗り味が特徴的な1.4リッターモデルと比べると、乗り心地は数少ない弱点だろう。レジャーに出かける時の利便性、走りの力強さ、そして何よりもスペシャル性をもったスタイリングを考えると、クロスポロはシリーズの中でかなり魅力的な存在になりそうだ。まんべんなくツボを抑えていて、万人に好まれそうなキャラクターなのである。そのかわり価格もそれなりのもので、ポロの中ではGTIの4ドアモデルに次ぐ239万円というプライスタグがつく。
ゴルフのステイタスが上昇してしまった結果、ベーシックモデルよりも「GTI」や「R32」などのスペシャルモデルへの注目度が増してしまっているが、ポロも同じ轍を踏むわけにはいかない。生活に密着した、実直な実用車が本来フォルクスワーゲンの身上だったはずだ。クロスポロは、今の事情に合わせてアップデートされた、ちょっとオシャレな日常車と考えることもできる。だとすれば、これは多くの人のライフスタイルにマッチしたモデルとして、とてもよくできている。フォルクスワーゲンは、小さなクルマを作らせると本当にうまい。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=荒川正幸/2006年11月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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